PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙158 訪問診療・13 いただいたメール(1)
家族や地域からみたお年寄り



こんにちは。

訪問診療のシリーズを始めるころ、
日本の新聞社のニューヨーク支局の方に
老人医療についての
話を聞いていただく機会ができました。

友人から、その記者は
とてもいい記事をたくさん書いていらっしゃる方だし、
米国の老人医療事情を紹介するのには
とてもいい相手ではないか、と聞いていました。

また、ここで働いている今なら
実際に訪問診療に同行して見ていただくこともできるし、
もし、興味をもってくだされば、
独居老人への給食サービス・Meals on Wheelsや
緊急時の連絡サービス・Life Lineなどについても
その会社をご紹介できるなあと
わたしはとても楽しみにしていました。

さて、その当日、
今回のシリーズでこれまでお話ししてきたような
ニューヨークのお年寄りと
その暮らしについてのわたしの話を、
その方は20分ほど辛抱強く聞いてくださいました。

話がひと区切りついたところで
その方が聞いてくださった質問はひとつだけでした。

「あの、糸井さんには
どうやって売り込んだのですか?」

事前にわたしのバックグラウンドをお知らせするなかで
ほぼ日のことについてもお伝えしていたのですが、
今回の面会の中で彼が興味をもってくださったのは
このことだけのようでした。

話の組み立てが悪かったのか、
わたしの話し方が悪かったのか、と
反省しながら帰ったのですが、
もしかしたら
老人医療という話題自体が
面白くないのかもしれないと気がついて、
心配になってきました。

そう考え始めると、
わたしにとってはすごく楽しい訪問診療も
ひとりよがりの話になっているのかもしれない、と
気分も落ち込んできます。

こんないきさつもあって、
結構弱気な感じで始めたこのシリーズなのですが、
続けているうちに
読んだ方からの感想をいただくようになりました。

高齢のご家族をお持ちの方、
地域のお年寄りとじっくり話す機会のあった方、
また、医療や福祉の側から
仕事としてお年寄りの生活を見ていらっしゃる方など
さまざまな立場の方からのメールをいただきました。

このようなメールの中からいくつかを
今回と次回の2回にわたって
ご紹介しようと思います。

今回は
家族として、また地域社会の中で
お年寄りの生活をご覧になった方からのメールです。

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私の母は96才、
5ヶ月前に近くの有料老人ホームへ入居させました。

75才の兄と二人で暮らし、
家事の全般を母がやっていたのですが、
それも限界にきた、と判断して、
末娘の私が説得して行かせました。

傍目にはどんなに大変そうにみえていても、
母は自分の家で
自分の息子の食事の世話をしたかったでしょう。

毎日説得をつづけながら、
母も私もどんなに切なかったか、を思い出して涙がでます。

5ヶ月を経た今、紆余曲折を経て、
やっと少し環境に慣れてきたかのように見えます。

新しい環境の部屋で何度もころんで、
後遺症の硬膜下血腫という脳の病気になって、
2回の手術をしました。

通算16日の入院の間に筋肉が低下して、
部屋の中を歩くこともできなくなりました。

でも、トイレには行きたい母です。
赤坂の裸のお年寄りの気持ちがよくわかります。

ニューヨークの家具を移動をいやがったお年寄り、
ヘルパーさんに支えられているお年寄り、
さまざまなケースで一言ではくくれない
それぞれのお年寄りの事情や
細かい感情などは世界共通だし、
お金の重要さ、親身になれる家族の重要さ、
心の優しいヘルパーさんの存在のありがたさが
全部身に沁みてわかるような気がする昨今です。

礒田


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私はいま、週に1回、油絵を習っています。

仕事をもたない主婦の私が
そのスタジオに通う火曜日の午前中は、
生徒さんといえば、もっぱらご年配の方々が中心です。

普段は、似たような年かっこうの主婦仲間や、
子供関係で知り合う保護者仲間、
学校の学生仲間などといった人々と交流している私には、
このスタジオで出会うお年よりのかたがたと
交わす会話がとても新鮮でもありますし、
今まで気が付かなかった
「お年よりのかたがたの視線」からの
ものの見方を学ぶ機会にもなっています。

たとえば、
「新聞のA紙と、B紙では、
A紙の方が、活字が大きめなので、
読みやすいから、A紙をとってるの」とか、

「姉に送ったバースデーカードも、
活字が大きくて、読み易いカードの種類から選んだわ」
(青や赤の印刷は読みにくいのだそうです。
『大きな活字カード』っていうカードが
売ってあることに気が付きました)

「マグカップも、握りのやや太めな
握り易いカップをさがして愛用してるの」とか

「筆やペイントナイフをえらぶ時も、
握りの太さがポイントでもあるわね」などなど...。

熟練の彼らから学ぶことはいっぱいありますし、
日常の楽しい話や、
旅行の話やあれこれ雑多な会話をしながら、
みなそれぞれの絵を描いているのですが、そのなかから、
こんなちょっとした
「ご年配ならではの生活のこぼれ話」をきくと、
「へえ、なるほどねえ」と思うばかりです。

かずよ


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次回は、職業として
お年寄りと過ごしていらっしゃる方からのメールを
ご紹介しようと思います。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-09-29-SUN

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