手紙166 医療制度のしくみ・3
書き直せなかった話について。
こんにちは。
前回の分からだいぶ間があいてしまいました。
すみません。
前回は、
ある国で「国民の寿命を延ばす」ためには、
ただ単に病気にならないような環境や
医療設備を整えるのではなくて、
シートベルトをして運転する、とか
教育の拡充を図る、というような、
一見あまり健康とはつながりのなさそうなことを
地道に実現させていくことが、実は大切なのだ、と
教えてもらった授業について紹介したのですが、
この原稿を「ほぼ日」の編集部に送ったあと、
すぐに、担当の方からメールが届きました。
「今回の分は
この話題が読者にどう関係するのか
わかりにくいので、書き直して欲しいのですが。」
もともとわたしの話はいつも回りくどいので
気をつけるようにしているのですが、
「読んでくださる方に
この話題がどう関係するのか、わかりにくい」と言われて
途方に暮れました。
これは、「健康」とか「寿命」といった、
わたしが毎日の仕事の中で相手にしているものについて、
実はその本質については
自分はあまりよくわかっていなかったんじゃないかなあと
考えながら書いた回で、
これが「読んでくださる方に、どう関係するのか」
ということについては、思いが及んでいませんでした。
「一読者として、本田さんの書くものに
いつも僕が期待しているものが、
今回はないんです」
彼は、もう3年くらい担当して下さっていて、
わたしも、とても頼りにしていますし、
このように「書き直して欲しい」と言われたのは、
ほぼ日にスペースをいただくようになって
初めてのことだったので、
できれば、その意向をくみたい、と思いました。
もう一度、送った原稿を読み直してみました。
でも、書き直すことはできませんでした。
わたしがお伝えしたかったことは、
「健康や寿命といった概念のもつ広さについて
わたしは学びました」ということで、
これは、読んでくださる方に
どう関係するかわからないけれど、
わたしがこれから進めたかった話には
すごく関係することだったからです。
「やっぱり書き直すことはできません」
と送ったメールには
「じゃあ、とりあえずこれで行きます。
でも、僕の意見は今後の参考にしてくださいね」
と返事が来て、
原稿はそのまま「ほぼ日」に掲載されました。
冬の終わりから春にかけて、
いろんなところに出かける用事ができました。
アジアやアフリカの国々で
大きな問題となっている病気に取り組んでいる
さまざまな方々と会って話をしたり、
久しぶりに北米にでかけたり、
その合間に引っ越しをしたりしながら、
「『つまらない』と言われた話を
今後続けていってもいいものかなあ」と
ゆっくりと考えていました。
わたしが経験的に知っている
日本や米国のような
医療制度や環境が整った国だけでなく、
発展途上と呼ばれる
まだ、ほとんど何もないような国々の人々も、
同じように「健康」という問題に取り組んでいて、
その基本的な考え方は同じなんだ、ということを
実際に本人たちと話し合って理解する機会を得て、
担当の方にはつまらなかったかもしれないけれど、
「『ひとの集合体としての健康』という考え方は
わたしにとっては、とても面白いし、
やっぱり、もう少しやってみようか」という
気分になってきました。
前回の終わりに
「次は、医療保険制度について」などと書いてから
もう何ヶ月も経ってしまいましたが、
今度こそ、近いうちに、
わたしたちの健康を守る柱のひとつ、
医療保険制度についてご紹介しようと思います。
では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
|