お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
手紙192 日本のHIV 40代・母親 3)初めての受診 こんにちは。 前回は、40代の女性の患者さんが HIVに感染していることがわかって 病院へ行こうと決意するまでのことを 話してくださいました。 今日は、それから後の出来事についてです。 初めて今の病院を受診したとき、 待合室にはたくさんの人たちが座っていて 「これがみんなHIVの患者さんなの?」と びっくりしました。 わたしは以前ブラジルに住んでいたことがあるのですが 近所にHIVに感染している人がいました。 とても体調が悪そうで、しかもだんだんやせていき、 最終的には亡くなる人も多かったのを見ていたので、 わたしもいずれ、ああなっていくんだ、と思っていました。 でも、病院の待合室に座ってる人たちは ごく普通の感じで、駅の待合室にいるような様子でした。 緊張して診察室に入って行きました。 そこで本田先生に初めて会いました。 もうすぐわたしは死ぬんだ、と思いながら 診察室の椅子に座ったわたしに、 先生はにこにこしながら挨拶をして HIVについての話をしてくれました。 「死ぬ病気」としか思っていなかったHIV感染症が 今はとてもよい薬ができていて、 しっかり薬を飲めば、 今まで通りか、さらにもっと元気な生活が できるようになること、 ともかく毎月病院へ通うことが大切だ、 というお話を聞きながら、 わたしは気分が少し落ち着いてきました。 診察を終えるとき、先生から 「ご家族も検査を受けた方がいいので 近いうちにご一緒にいらしてください」と言われました。 HIVが性交渉でうつることは知っていましたから 夫が検査を受けるのは当然だと思いましたが、 なぜ子供まで受ける必要があるのか、 不思議でした。 わたしは結核にかかったことがあるのですが、 これは下の子供が1才のときでした。 もしかすると、結核はHIVのせいかもしれないし、 もし、そうなら、下の子供を妊娠、出産したときには すでにHIVに感染していたかもしれない、と 先生から説明を受けて 念のために、子供にも検査を受けさせることにしました。 そして、本当に辛いことなのですが 先生が心配していたとおり、 中学生と小学生の2人の息子のうち 小学生の下の息子は わたしからHIVに感染してしまっていました。 わたしは子供がHIVに感染してるなんて 夢にも思っていなかったので 自分の感染がわかったときよりも もっとショックでした。 性行為だけでなく 普通の妊娠、分娩、そして授乳も HIVに感染する危険があることを わたしはそのときまで知りませんでした。 上の息子の時には 母乳があまり出なくて、 ミルクで育てたのですが、 下の息子の時には、 たくさん母乳が出るようになって、 嬉しい、と思いながら授乳を続けました。 今思うと、授乳をしたことが 息子への感染につながったのかもしれません。 子供はわたしと同じ病院の小児科に通い始めました。 病気についての詳しいことは このときは、まだ子供には話していませんでした。 「血液の病気だから、ときどき検査が必要なの」と 説明し、子供もそれ以上は聞くことなく 1−2ヶ月に一度の通院を続けていました。 (第3回、おわり) お母さんがHIVに感染してしまっている場合、 子供にうつってしまうタイミングは、 妊娠中、分娩時、授乳時の3つの時期です。 この方の場合は、 残念ながらこのいずれかの時期に お子さんが感染してしまったのであろうと思われます。 HIVに感染している女性のすべてが 子供にHIVをうつしてしまうわけではありません。 治療を受けていない女性が、 子供に感染させてしまう確率は だいたい3割程度と考えられています。 事前にHIV感染がわかっている場合、 1)妊娠中にきちんと治療を行い、 2)注意を払いながら分娩をして、 3)絶対に授乳をしなければ 子供への感染の可能性は、限りなく低くなります。 妊娠に際して、HIVの検査が勧められているのは、 母親のためだけでなく 次の世代への感染を防ぐ意味もあるのです。 では、今日はこの辺で。 次回は、 HIVの治療薬を飲み始めることになった時のことを お話しいただく予定です。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 |
2006-04-28-FRI
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