PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙193 日本のHIV
40代・母親
4)治療を始めたとき



こんにちは。

このところ、
わたしの外来に通ってくださっている女性に
ご自分の経験をお話しいただいています。

彼女がわたしの外来に初めていらした時には
HIV感染症はすでに進行した状態で、
すぐに治療をする必要がありました。
今回はその時のことを思い出しながら、
話してくださいました。

これまで、HIVについては
自分にはまったく関係ないことだと思っていましたし、
「死んでしまう病気」と信じていたのですが、
病院で本田先生や看護師さんたちからの説明を聞いたり
インターネットや本で読んだりすることで
だんだんと
「治療をすれば、完治はしないけど、元気になる」
ということがわかってきました。

体の抵抗力を調べるために、
受診するたびに採血をしています。
CD4というのが、わたしの体の抵抗力を測る目安です。
健康な人だと、CD4は
1000ぐらいあるそうなのですが、
初めて病院に行ったときの
わたしのCD4は30くらいしかなくて、
抵抗力はものすごく落ちていました。

採血では、
血の中のHIVのウィルスの量も測ることができます。
わたしのウィルスの量は、
1mlの血の中に18万もあって、
これは割と多い方だと教えてもらいました。

体調もよくなかったし、
抵抗力もすごく落ちていたわたしですが、
治療を始めれば、絶対に元気になる、と
先生や看護師さんに励ましてもらいながら
2003年の秋にHIVの治療薬を飲み始めました。

HIVの薬を初めてみたときには
その大きさにびっくりしました。
3種類のお薬を朝と夜、全部で5粒ずつ飲むのですが
飲み始めはとても大変でした。

最初はむかむかしたり、下痢になったりするかもしれないと
言われていましたが、
第1回目の薬を週末に飲んだ直後から
すごく気分が悪くて、
吐きたいんだけど、吐けない、というような感じが
一日中続き、布団から出ることができませんでした。

小学生の息子が
「お母さん、大丈夫? 何か食べたいものはない?」と
わたしを気遣ってくれました。
息子はわたしのHIVについては
もちろん知りませんでしたが、
病気で薬を飲み始めた、ということはわかっていました。

お刺身だったら、食べられるかな、と思い
息子に頼んで、買ってきてもらいました。
息子が用意してくれたごはんとお漬け物、
そしてお刺身を少し口にすることができました。

むかむかした気分はだんだん落ち着いてきて、
週明けには、いつも通り
何とか仕事に行くことができました。

薬を飲むのは、最初とても大変でしたが
病気を治したい、という気持ちの方が
もっとずっと強かったので、
飲まない、という選択肢は、わたしにはありませんでした。

気持ち悪かったのは最初の1週間ぐらいで
あとはだんだん平気になりました。

薬を始めてから、今日まで2年半くらいですが
飲み忘れたことはほとんどありません。
一度だけ、夫と朝から喧嘩をして
腹を立てて家を飛び出したことがあります。
そのときには、つい薬を飲んでくるのを
忘れてしまったのですが、
飲み忘れはその時くらいです。

最近、薬の種類が変わって
1日に1回飲むだけで良くなって
飲むのも楽になってきました。

薬を始めてから、病院で採血をするのが
とても楽しみになってきました。
採血をするたびに
わたしのCD4の数は少しずつ増えていきました。
先日受診したときには、CD4は300を越えました。

HIVのウィルスの量も
薬を飲み始めて4ヶ月くらいでぐんぐん減ってきました。

ウィルスがすごく少なくなることを
検出限界以下、と呼ぶそうですが
もう、2年くらい検出限界以下が続いています。
CD4が増えたり、ウィルスの量が減ったりしているのを
確認するのはとても楽しみです。
ごほうびをもらうみたいで、とてもうれしいです。

(第4回おわり)


HIVの治療で大変なのは、
たくさんの種類の薬を
毎日、必ず、何年にも渡って
確実に飲み続けなければいけないことです。

1日2回ずつ飲む薬であれば
月に60回、飲まなければいけませんが、
この60回のうち、3回忘れると、
薬の効き目がなくなってしまう可能性があります。

この効き目がなくなることを
「薬剤耐性ができる」と呼んでいます。
現在、世界中の患者さんと医師が直面している
大問題のひとつです。

この方の場合は、
お話しになっているように
とてもきっちりと薬を飲み続けていらっしゃるので
治療は非常にうまくいっています。
最初はたくさんあったHIVのウィルスも
現在では数えることができないくらい、
少なくなっています。
大成功です。

では、今日はこの辺で。
次回は
ご家族のことについてお話し下さったことを
ご紹介しようと思います。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2006-05-12-FRI

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