お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
手紙194 日本のHIV 40代・母親 5)夫のこと、息子のこと こんにちは。 わたしの外来に通っていらっしゃる方に ご自分の経験をお話しいただいていますが、 今日は、ご家族のことを話してくださいました。 ぜひ、読んでいただけたら、と思います。 わたしがHIVに感染している、と告げたとき 夫は驚いていましたが、 HIVが性交渉で感染する病気であることは 二人とも知っていたので、 「一緒に病院に行って、検査を受けよう」と 話し合って受診しました。 夫がHIVに感染していることがわかったとき、 わたしがそうだったように 夫もすごくショックを受けていました。 HIV感染がわかってから2年以上経ちますが、 どちらが先に感染したのか、ということについて 夫と話したことはありません。 病気の進み具合には個人差があって、 先生からは どっちが先に感染したかを知るのは難しい、と 聞いていますし、 たとえそれがわかったとしても、 今の状況に役に立つことはない、と思うからです。 もしかすると わたしは現状から逃げているのかもしれないと 思うことも時にはありますが、 いずれにせよ わたしたち夫婦がHIVに感染している事実は事実ですし、 今後、元気に生活していくことを 何よりも優先して考えていきたいと思っています。 息子については、心配なことだらけです。 感染がわかったときに小学生だった息子も 中学生になりました。 抵抗力もだんだん落ちてきて、 今月からわたしと同じ治療を始めることになりました。 息子には、 「お母さんと同じ血液の病気で、 これからずっと薬をのまなければいけない」と 話してあります。 まだ、HIVとかエイズというような病気の名前は 教えていませんでした。 治療を始めることが決まったとき、 初めてHIVについて、小児科の先生と一緒に伝えました。 本人がどのくらいこの病気について 理解しているのか、わたしもまだよくわかりません。 「お母さんと一緒の薬を、 がんばって一緒に飲んでいく」ことについては わかってくれているようです。 上の息子は高校生になりました。 家族4人の中で、この子だけがHIVに感染していません。 この子だけでも感染をまぬがれたのは 本当に良かったと思っています。 下の息子に病名を伝えることになったのを 良い機会だと思ったので、 先日、上の息子にもわたしの病気のことを話しました。 「お母さんは、毎日薬を飲んでるでしょう? この病気のことについて、知りたくない?」と 話しかけることから、始めました。 息子は学校で HIVやエイズについての授業を受けたことがありました。 ですから、知識としては少し知っていたようですが、 家族が感染していることについては、 もちろん知りませんでした。 「普通にお家で生活しているだけでは 絶対にこの病気に感染することはないのよ。 お母さんは、3年くらい前は とても体調が悪かったでしょう? でも、今はこんなに元気になって 毎日仕事に行けるし、困ってることは何もないの」 「それは毎日飲んでるあの薬のおかげなの。 良い薬ができたから、 お母さんはたぶんすぐには死なない」 それから、下の息子の病気について、 そして、息子が始める治療について話をしました。 下の息子は、 これから一生、何十年も HIVの治療薬を飲み続けなければなりません。 「糖尿病や高血圧のように、完全には治らなくて、 ずっと薬を続けなければいけない病気があるでしょう? HIVも、そんな病気なのね」 「この病気は治らないの。 お母さんもお父さんも、今はとても調子がいいけど、 今後あの子に困ったことが起きたときに もしかすると、 お母さんやお父さんはもういないかもしれない」 「その時に力になれるのは兄弟しかいないのよ。 だから、どうか、助けてあげてね。 二人仲良くしてね」 わたしたちがいなくなってしまったとき、 下の息子のことを託すことができるのは 上の息子だけです。 兄としてサポートしてほしい、というわたしの願いを 長男はだまって聞いていました。 話を終えた後、 息子は居間でテレビを見ていました。 1人にしておくのがとても心配だったので 一緒に夜中までバラエティー番組を見ながら過ごしました。 次回は、彼女のお話の最終回です。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 |
2006-05-16-TUE
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