お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
手紙195 日本のHIV 40代・母親 6)職場での出来事。母親として言いたいこと。 こんにちは。 わたしの外来に通ってくださっている 40代のお母さんに、 ご自分の経験をお話しいただいてきましたが、 今日は、その最終回です。 わたしは自分の病気のことを 職場では誰にも話していません。 同僚と比べても、とても元気だし、 職場で薬を飲むこともないので 誰もわたしがHIVに感染しているとは知りません。 先日、みんなでお昼ご飯を食べているときに 同僚が 「ねえ、北京オリンピックには行かない方がいいわよ」 と話し始めました。 どうしたのかしら、と思ったら 「中国にはエイズがとっても増えているから、 旅行に行ったら、絶対にうつるって聞いたの」と 言うのです。 わたしはエイズの話が急に出てきたことに どぎまぎしながら、 「でも、エイズって 日常生活ではうつらないって言うじゃない?」と 言いました。 その同僚は 「うつるのよ! トイレとか、握手とかで」と なおも話を進めるし、 周りで聞いてる人たちも 「えっ、そうなの。気をつけなくちゃね」と 相づちを打ったりしはじめたので、 これ以上話をしても、しょうがないか と思って、やめました。 エイズのウィルスが握手やトイレでうつるなんて ことは絶対にないのに。 日本では、エイズやHIVのことが まだまだよく知られていないのだと 改めて思いました。 息子に家族のHIV感染のことを話したとき、 このことが、真っ先に頭に思い浮かびました。 息子には、この病気のことを 絶対に家族以外に話してはいけない、と 固く念を押してあります。 でも、その一方で HIVの病気については、 少しでも多くの人に知ってもらいたいと思います。 HIVはゲイや、性交渉の回数がとても多い人が かかる病気だと思っていました。 ましてや親から子に感染する病気だなんて、 知りませんでした。 わたしも、自分がHIVに感染しているのがわかるまで HIVなんて、自分には絶対に縁のない病気だと 信じていました。 でも、ちがいました。 わたしは長男が高校に入学する前後から これは、家族のHIVのことを話すよりも ずっと前からですが、 ガールフレンドとの交際のこと、 そしてコンドームのことなどについては よく話していました。 そのことを長男の友達のお母さんと お茶をしながら話したとき、 「えっ、そんなことまで話してるの? 照れない?」と 言われました。 でも、こんな大事なこと、 お母さんが話さなくて、誰が話すの? と思います。 とくに、女の子をお持ちのお母さんには 「自分の体は自分で守る」ことを ぜひ教えてあげて欲しいと思います。 そして、子供に性的なことを話すのに 恥ずかしがらないで欲しいと思います。 今日、こんな形で 自分と家族の病気について話すことができて すごくよかったです。 わたしにとってHIVのことを こんなにリラックスした気分で話す機会は これまでありませんでしたから。 このような話を 風邪とか高血圧などと同じような感覚で オープンに話すことができるようになる日がくれば どんなに良いだろうと思います。 何だかカウンセリングを受けてるみたいな気分で 言いたいことを全部言うことができました。 ありがとうございました。 辛い経験も含め、 たくさんのお話をしてくださったことに 本当に感謝しています。 わたしの外来には このように、ごく普通の生活の中に HIVが入り込んできてしまった方々が たくさんいらっしゃいます。 その中から、何人かの方々にお願いして ご自身のことをお話ししていただけることになりました。 次回は50代男性のお話を紹介しようと思います。 では、今日はこの辺で。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 |
2006-05-19-FRI
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