PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙197 日本のHIV
ひとりストップエイズキャンペーン始めました・1



こんにちは。

「ずーっと休んでると思ってたら、
 最近よく更新してるねえ」

この連載を時々読んでくれている友人から
連絡がありました。

ほんとに、その通りです。

今日からは、3人目となる
40代男性の経験のご紹介をするつもりだったのですが、
予定を変えて
今回のシリーズについてわたしが考えていることを
少しお話ししてみることにします。

2002年の秋に日本に戻るときに
ひょんなことから、声をかけてもらって
HIV感染症を専門的に診る医療機関で
働くことになりました。

米国に行く前にも1年弱働いていた
馴染みのある職場でしたが、
90年代と比べると
日本のHIV感染の状況は、
びっくりするほど大きく様変わりしてしまっていました。

何より、患者さんの数がものすごく増えていました。
そしてその数は今もぐんぐんと増え続けています。

ゼロから始まったわたしの外来の患者さんの数は
3年半で200人を越えました。

今後ご紹介していく予定ですが、
とても良い治療薬が開発されたので、
きちんと治療を続ければ
HIVに感染しても、感染していない人と比べて遜色ない
寿命が見込めるようになりました。

でも、現時点では
HIVに感染すると治ることはありません。

ですから、
一度患者さんになった方は
ご自分で「もう病院には行かない」と決めない限り
ずっとわたしたちの患者さんであり続けます。

外来に通う患者さんとは
だんだん互いにうち解けて
いろいろな話ができるようになります。

例えば
前回、お話をしてくださった50代の会社役員の方は
「何か自分が役に立てることはないでしょうか」
とおっしゃって、それがきっかけのひとつとなって
今回のシリーズは始まることになりました。

また、仕事のことや家族のことを
話していってくださる方もいます。

でも、最初からこのように
ふつうの世間話ができるわけではありません。

初めて外来で会う患者さんの多くは
診察室で、涙をこぼします。
瞳をうるませるくらいの方もいらっしゃるし、
号泣してしまう方もいらっしゃいます。

そして、多くの方々が
「まさか自分がHIVに感染してしまうなんて
思ってもみなかった」とおっしゃるのです。

いくつかの感染経路はありますが、
HIVは主に性的な接触で人から人にうつる感染症で、
予防方策をきっちり実行すれば
感染の危険をがっちり下げることができます。

毎週わたしの外来に新しくやってくる
患者さんの多くは、
HIVの感染のリスクを十分にご存知だったとは
残念ながら言えません。

知っていたら防げたかもしれない感染症のせいで
初対面の私の前で涙に暮れる方々に
会い続けるのは辛いことです。

日本でエイズが語られるとき、
その多くは
・男性同性愛者に広がる病気として
・薬害エイズに関する政治的な問題として
・アフリカやアジアの開発途上国に山積する問題として
扱われることが多く、
これが
普通の大人の生活を通じて人から人に伝播する
いわゆる生活習慣病のひとつと
いっても良いくらいの病気で、
誰もが感染のリスクを持っている、という
この病気の本質に触れられることはほとんどありません。

多くの方に、この病気のこと、
そして、「この病気は防げる」ということを
知っていただいて、
これ以上外来で涙を流す方々を
増やさないようにするために、
自分でストップエイズキャンペーンを
やってみてはどうか、と思いつきました。

というわけで、今年の春から
わたしは「ひとりストップエイズキャンペーン」を
始めています。

「ほぼ日」での連載もその一環です。
ここではたくさんの方が読んでくださって
感想も寄せていただいています。
心から感謝しています。ありがとうございました。

臨床医として、HIVについて
一般の方々にお伝えしたいことは
山ほどあるのですが、
「ほぼ日」であまり長く書いても読みにくいので
書籍の形もつくってみました。

これは、HIVのことを全然知らない
20代の女性4人に集まっていただいて、
わたしがHIVについてお話をしたときの内容を
そのまま本にしたものです。

本の後半には
今回、「ほぼ日」で紹介しているように、
わたしの外来の患者さんにお願いして、
HIVに感染している人に一度も会ったことのない
同世代の女性を相手に
ご自分の体験を話してもらいました。

彼女は20代半ばの女性で、
感染する前のこと、感染がわかったときのこと、
恋人とのこと、家族とのこと、
現在の病状、今後のことなど
たくさんのことを話してくださいました。

HIVについて興味をお持ちの方に
目を通していただければ、と思っています。

また、一般の方にHIVの話をするときに
よくクイズを使うのですが、
そのクイズを小冊子の形で利用できるようにしました。

これも、ひとりキャンペーンの一環なので、
たくさんの方に使っていただけるように
「ほぼ日」のこのページから、
また、朝日出版社のサイトからも
ダウンロードできるようにしてもらえました。

もしよろしければ、これも合わせて
ご覧になってみて下さいますよう、お願いいたします。

ダウンロードだけではなく、教育機関には
無料で小冊子をお送りすることもできるよう
手配してもらいました。
こちらは朝日出版社のサイトからお申し込み下さい。

と、こんな感じで
わたしのひとりストップエイズキャンペーンは
今年の春からぼちぼち始まっています。

始めたときは
正真正銘の「ひとり」でしたが、
もう、すでにたくさんの方々に
力を貸していただいています。

このシリーズを読んでくださっている方も
わたしにとっては、
すでに「キャンペーン参加者」です。
どうぞよろしくお願いします。

ちょっと興奮して
長くなってしまいました。すみません。

次回は、もうちょっとだけ
このキャンペーンのことをご紹介して、
患者さんのお話を再開していこうと思います。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子


小冊子 『みんなの誤解』をダウンロードいただけます。

『みんなの誤解』ダウンロード 作成方法
 1.ここをクリックして、
 データ(PDF形式)を
 ダウンロードしてください。
 2.データをお持ちのパソコンに保存した後、
 プリンタでA4用紙に
 カラー出力してください。
 印刷すると全部で13ページになります。
 3.最後のページ(13ページ目)に
 小冊子の作り方を解説してあります。
 それに従ってご作成くださいね。

データはPDF形式になっています。
 小冊子をご覧になるには
 「Adobe Reader」が必要です。
 お持ちでなければ、
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 ダウンロードしてください。
 ※ダウンロード版小冊子の出来上がり寸法は、
  左右148ミリ×天地210ミリです。
 

2006-05-26-FRI

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