PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙220 日本のHIV 50代・会社員
「HIVに感染してはいるけど、病人ではありません」



こんにちは。
今回もHIVに感染していることがわかってから
もう十数年になる方のお話をご紹介します。

この方の場合は
治療薬の副作用がいろいろと大変でしたが
今はとても落ち着いて、お元気に通院中です。

僕がHIVに感染したのは13年前です。
治療薬を飲み始めてから10年以上たちました。

薬を始めてからは
副作用がなかなか大変で、
「これで、このまま元気にやっていける」と
実感できるまでには2年くらいかかりました。

薬を毎日欠かさず飲み続けることは
最初は苦痛で苦痛でたまりませんでしたが
今ようやく生活の一部として
組み込めるようになりました。

今でも時々
薬の副作用で集中力が落ちてしまって
辛いときがありますし、
年に数回のことですけど、
薬を飲むのをやめてしまいたくなることがあります。

でも、薬を飲むことは
僕の使命なのだと自分に言い聞かせて
続けるようにしています。

病院からもらった薬のハンドブックには
その値段も書いてあって、
僕が飲んでいる薬の値段は
1日分が6000円くらいと知りました。
1ヶ月だと18万円です。
自分ではとても払いきれないけれど、
国の制度を利用しているので
自分で負担しているのは月に1万円程度です。

こんなに助けてもらっているのに、
薬を無駄にしてはもったいないことですし、
自分にとっての食糧のつもりで飲んでいます。

この病気は今のところ治る見込みはないので、
僕は終わりのない治療を
一生続けていくことになります。
こう考えると結構辛いです。

この終わりのない辛さを
何とか自分でコントロールしていくことが
目下のところ一番大切かな、と思います。

どうしても気分が沈んでしまうときには
友人に愚痴を聞いてもらうようにしています。
この友人もまた、HIVに感染している人です。

病気のことや、かかっている病院について
情報交換ができるので、
自分と同じ病気を持っている人と知り合うことは
僕の場合はとても良かったです。

職場の人間関係や仕事の内容について
イライラしたりストレスを
感じたりすることはありますが、
これは別にこの病気のせいではないし、
ともかく、HIVに関することでも、
無関係なことでも
毎日の生活の中で
ストレスを溜めないように心がけています。

「気分」というのはとても大切なものだと
最近強く思うようになりました。

何も自覚症状がなくて検査を受けた人が
「あなたはHIVに感染しています」と言われたら、
その人はいきなり自分が
「病人になってしまった」と思って
ショックを受けると思います。

でも、10年以上たった今になって僕は思うのですが、
「病人になってしまった」のではなくて、
HIVと共に暮らす人生が始まったのだと思います。
HIVに感染してはいるけれど、
別に病人ではありません。

まず、「自分自身を病人として扱わない」ことが
HIVと一生つきあう覚悟を決める上で
大切なことなのじゃないかと思います。


最近、公式な英語の文章では
「HIVの患者さん; HIV patients」とは言わず
「HIVと共に生きる人; people living with HIV」と
記述することが多くなってきました。

この方のご様子を間近で見ている者として、
「HIVと共に生きる」という表現は
ぴったりだと思います。

これは別に
HIV感染症に限ったことではなく、
高血圧、糖尿病やがんなどの
病気一般についても言えるかもしれません。

では、今日はこの辺で。
次回はこの方と周りにいらっしゃる方々との関係について
お話しいただくことにします。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2007-02-09-FRI

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