お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
手紙235 日本のHIV レベッカ・ブラウン「体の贈り物」の補足 こんにちは。 先日ここでご紹介した レベッカ・ブラウンの二つの作品 「体の贈り物」と「家庭の医学」を 「読んでみたよ」という お知らせをたくさんいただいて、 とてもうれしく思っています。 わたしの外来にいらっしゃる患者さんの中にも 読んだ方が何人かいらして、 その感想を話してくださいました。 その中で 少し気になったことがありましたので、 今日はその補足です。 「体の贈り物」は、 HIVに感染して 体調が思わしくなくなり、 身の回りのことを自分で行うことが 難しくなった患者さんのところに 洗濯や掃除、買い物などの お手伝いをするために派遣される ボランティアの立場からみた、 患者さんとその周囲の人々の日常を 淡々と綴った小説です。 作者のレベッカ・ブラウンさんは 実際にこの仕事をしたことがあって、 その経験がごくごく細かい描写にまで よく生かされている、と感じます。 主人公のボランティアが訪れる患者さんには いろいろな方々がいて、 それぞれにエピソードが 短編小説のように語られています。 さらに、そのそれぞれのお話が 次第に重なり合って 一つの物語として完結する、 すばらしい構成の小説です。 また、その中の一つのエピソードだけでも 十分に完成しているので、 この薄い文庫本の数ページを 選んで読むだけでも、 きっと満足していただけるんじゃないかと 思っています。 話が少しそれました。 今週わたしの外来にいらした 患者さんのおひとりが、 「『体の贈り物』読みましたよ」、と 話してくださいました。 その方は、 「とても良い小説だと思ったけれど、 登場人物がみんな死に向かっている気がして 少し辛くなりました。」 とおっしゃいました。 「良い薬ができてる、とは 聞いていますが、 今でもやはりあんな感じで 体調が悪くなっていくことが あるんでしょうか?」 「体の贈り物」の時代背景は、 今、世界中で使われているHIV感染症の治療法 “Highly Active Antirtroviral Treatment” (強力な抗HIV治療法)が 広く利用される直前で、 現在の治療状況とは、大きく異なります。 HIVに感染することによって起こる さまざまな病気が出現する前に 自分が感染していることを知り、 体を守る免疫の働きが 破壊されつくしてしまう前に 治療をきっちり始めることができれば、 それからの生活は、 ご自分の健康を保ちながら お過ごしになることができます。 もちろん、長い期間にわたって とても強い薬を飲み続けるので、 副作用やその他いろんな問題も出てきますが、 でも、基本的には 「大丈夫。元気になりますよ」と まずはお伝えすることができます。 ですから、「体の贈り物」で 語られている内容が、 すべて今も同じだ、というわけではありません。 しかし、その一方で 「HIV感染症は、一度感染すると 絶対に治りません。 何も治療をしなければ、 数年以内に確実に健康を損ない、 死にいたる可能性があります」 という事実は、 残念ながら「体の贈り物」の時代も 現在も、変わりありません。 ですから、 「あれは昔の話で、 今は“絶対に”そんなことはないんですよ」 と申し上げることは、 残念ながらできないのです。 以前ご紹介したときに、 このことについての説明が 不足していたかもしれない、と思い 今日は補足をいたしました。 では、今日はこの辺で。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 |
2007-08-24-FRI
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