本田 |
1992年頃にストップエイズキャンペーンという
大きなキャンペーンがあって、
たくさんの有名な方々にも
ご参加いただいたようなのです。
たぶん大貫さんにも
依頼があったんじゃないかと思うのですが。 |
大貫 |
確か、小林さん(註・小林武史さん)から
お話があったように記憶しています。
その頃、小林さんと私のアルバムつくりを
していたので。
でも、結局
そのコンサートには参加しませんでしたが。 |
本田 |
あのときのキャンペーンは
とてもたくさんの人の記憶に残っていて、
実際にその年にHIV検査を受けた人も
前年の6倍くらいいたんです。
その結果
HIVに感染していることがわかった人の数も
倍になりました。
すばらしい効果を上げたと
言って良いと思います。
でもその年だけだったんです。残念なことに。
あの年の盛り上がりが
あまりに一時的になってしまって
「HIVはあの時に流行った病気で、
今は、もうない」
という印象を残してしまうことになりました。
だから、今
広く知ってもらえるためのキャンペーンを
またやってみるといいだろうなと思って、
糸井さんのところで細々とやってるところです。 |
大貫 |
HIVについて、学校では教えてないの? |
本田 |
教育項目としてはあるんですけど。 |
大貫 |
保健体育とかで? |
本田 |
はいそうです。
最近、ときどき学校で
HIVについての話をすることがあって、
教育現場の先生方から
お話を伺う機会も増えてきたのですが、
学校でお教えになる先生方も
実際にHIV感染症がどのようなものなのか、
患者さんと一緒に
過ごした経験がある方は少ないので、
リアリティーをもって子供たちに伝えることが
なかなか難しいようです。
知識として、正しい内容を
教えていることは間違いないのですが、
その内容が子供たちに
現実感を伴って届いているのかどうかは、
わからない、という話を
いくつかの学校で伺いました。 |
大貫 |
伝え方はどうであれ、
今や、その内容を伝えるのは
教育の義務ではないかとさえ思いますね。
最近の親から子への性教育は、
どのようなかたちで
行われているかわかりませんが
親が触れられないなら
少なくとも学校は正しい知識として
教えるべきだと思いますけどね。
ただ、先生がお話しなさるより
本田さんのような方がお話なさった方が
生徒は聞くと思いますけれど。 |
本田 |
学校によっても差がありますし、
最近は度を超えた性教育をしている、と
批判を受けて
性教育自体をためらうこともあるんだそうです。 |
大貫 |
自分の中学時代を振り返ってみても、
誰に教えられた、ということもなく。
そういうことは
自然と耳に入って来た記憶があるので。
その内容を初めて知ったときには
やっぱりものすごくショックで。
その日は、ごはんも食べられなかった。
今の子供たちは、私たちの時代より
はるかに情報が多いので
友達同士の話しの中で、
当然知ってはいると思いますけどね。 |
本田 |
性的なことを行うときに、
臨床医の立場から一番お願いしたいことは
「自分を守る」ということなんですけれど、
実際には「自分」よりも重要なことがあって、
相手の気持ちを優先してしまう、ということが
とりわけ若い女の子には顕著だなあと
思うことがよくあります。 |
大貫 |
拒むと嫌われるんじゃないかって
思うんでしょうね。
「自分を守る」も大切だけれど
「相手を守る」という視点が、
それ以上に大切だと思います。
男の子と女の子では、
別の教育が必要なんじゃないんでしょうか。
その昔は、
男女共学なんていうのはなかったわけで
性が違うということは、
ある意味未知なものを
理解しようとすることですから。
共学制度が一般になって、
同じ人間だから、同じようなことを
考えているんだろうという
単純な思考が理解のなさを助長していると
言えるのではないかと、最近思いますけど。
でも、それが現実であるなら
やはり性交渉とか妊娠とかを教えるときには
病気についてもセットで教えた方がいいと
思うんですよね。HIVにかぎらず。
輪を掛けて、若いときの恋愛って、
性的な感情を抜きにできませんからね。
理性的になれという方が無理。
街を歩いていても、電車の中でも
もう、べた~~っと、くっついてるのを見ると
そんなときに「自分を守る」なんて言葉は
とりあえず、聞こえない、お互いに。
だから、精神的に
「自分を大切にする」という
気持ちはわかりますが、
頭でわかっていても、やっぱり無理でしょ。
そうなってしまうことを前提に、
「じゃあ、どうすればいいか」ということを
考えていくしかないと思うんですよね。
性交渉には、妊娠もエイズもクラミジアも
セットになって、おこる可能性がある。
ということを、とりあえず頭の中にだけでも
つねに入っている状態まで、インフォメーション
しておく必要はあるかもしれませんね。
いろいろなメディアを通してでも。
性交渉に至るまでには
そのカップルには
ある程度の段階があるんだろうから、
その間に話す機会が
一回でもあるといいですよね。
でも恋愛のピークの時に、その話は、
やっぱり冷めますよねぇ。
それに、そういうことも、
どーでもよくなっちゃうのが
そういう時だから。
つねに携帯できるような、女の子にとっての
避妊具のようなもの、あるんですか? |
本田 |
女の子向けのコンドームや殺精剤があります。
殺精剤は妊娠を防ぐには
ある程度は役に立つのですが、
HIVやその他の感染症には
効き目はまったくないんです。
女の子向けのコンドームはもっと確実ですが
あまり知られていなくて、残念です。
ただ、今はmicrobicideといって、
コンドームを手に入れることすら難しい
途上国の女性に対して、
少しでもHIV感染の危険を
下げるために使われる
女性向けの薬剤の開発は進みつつあるんですよ。
これは、膣の中に入れて使います。
microbicideについてのプロジェクトは、
マイクロソフト社のビル・ゲイツさんの奥様、
メリンダさんがとりわけ熱心に
援助をしていらっしゃいます。 |
大貫 |
でも、粘膜のように
とても浸透性が高いところに使うのは
怖いですよね。 |
本田 |
逆に浸透性の高いところだからこそ、
水際で防ぐという意味で
効果を狙えるものなんです。
基本的に性行為感染症の多くは
粘膜と粘膜との濃厚な接触によってうつります。
たとえば淋病やクラミジアなど、
何でもいいんですけれど、
何らかの性感染症に感染すると
粘膜が持っているバリアの機能が低下するので、
ますますその他の性感染症に
感染しやすくなってしまうんです。
残念なことです。 |
大貫 |
医薬品もいろいろ進歩しているようだし、
予防についても、
もっと良いものができてくればいいですよね。
でも、これさえあれば安心、というような
予防薬ができたとしても、
問題の本質は、
そういうところにあるとは思わないんですが。 |
本田 |
そうですね。
万が一HIVに感染したとしても、
一回この薬を飲めば治りますよ、というような
薬が開発できればいいんですけれど、
これは今のところ望み薄です。
ワクチンもありませんし。
HIVは変異を繰り返すウィルスなので
敵を定めることができなくて、
ワクチンもなかなか作れないんです。 |