本田 |
HIVの治療は
この20年間にものすごく進歩したのですが、
薬の値段もものすごく高くて、
また飲むことによって生じる副作用も
とても大変なので、
「もしかしたら、
本当に必要なときだけHIVの治療をすれば、
副作用は減らせるし、
治療費も減るんじゃないか」と考えて、
数年前に世界中の患者さんに協力してもらって、
お薬をずっと飲み続けるグループと、
免疫の力があるレベルを下回ったときだけ
治療薬をのむグループの
二つに分けて臨床試験をやったんです。
でも、お薬を飲むのを休むと、
患者さんにいろいろと
悪いことが起こるのがわかったので、
9年間続ける予定だったのを早々に中止して、
すべての患者さんに
薬をずっと続けて飲んでいただくように
お願いすることになりました。 |
大貫 |
どんな薬を
いま患者さんは飲んでいるんですか? |
本田 |
お薬の種類ですか?
だいたい3種類から4種類のお薬を
毎日のんでいらっしゃいます。 |
大貫 |
その薬は何のための薬なの? |
本田 |
HIVの増殖を抑える薬です。
HIVは体の中に入って、
わたしたちの血液の中にいる
リンパ球という細胞を壊すんです。
リンパ球はわたしたちの体を守る
兵隊のようなもので、
この兵隊の中に潜り込んで増えていって、
最終的にこの兵隊を破壊してしまいます。
HIVのウィルスが体の中で増殖するときには
わたしたちのリンパ球に入り込んで、
ウィルスの遺伝情報を
わたしたちのリンパ球に組み込んでしまいます。
これを組み込ませないようにする薬が
最も古いHIVの治療薬です。
他には
ウィルスができあがる時に
必要な酵素を邪魔する薬や、
そもそもウィルスがリンパ球に入り込むことを
防ぐ薬もあります。
世界中の研究者が
さまざまな働きをもつ薬を開発した結果、
実際に亡くなる患者さんの数は激減しています。
でも、いずれの薬も
まだ完全にHIVを根絶させることはできなくて、
複数の薬を組み合わせて
一生ずーっと飲み続けなければいけないんです。
現在は親指の爪くらいの大きさの薬を
一日に一回4粒のむ、というのが
一番飲みやすい組み合わせだと思います。 |
大貫 |
良い薬ができているんですね。
でも、副作用もあるんですよね。 |
本田 |
大変なんです。
気持ち悪くなって吐いたり、下痢をしたり、
というのはよくあることですし、
細胞のミトコンドリアの働きが
薬の作用で妨げられてしまって
人によっては
手足や顔の皮下脂肪がげっそり落ちたり、
コレステロールや中性脂肪が
とんでもない値になってしまったり、
本当に大変です。
HIVは自分の身をすぐ変えてしまうので、
変異を起こさせないためには
血液の中の薬の濃度を
一定にしておくことが大切です。
ですから、
決まった時間にきちんと決まった量の、
具体的には
手のひらいっぱいになるくらいの量の薬を
飲み続ける、ということが
何よりも大事になんですけど、
これが、また大変で。
何度も繰り返してしまうんですけれど、
ほんとに大変なんです。 |
大貫 |
薬の値段っていくらくらいするんですか? |
本田 |
全然安くないです。
一ヶ月分の薬を全部自分で買うと
20万円くらいかかります。
血圧の薬と同じように健康保険が使えるので、
自己負担は3割ですから月6万円です。
でも、これを一生払い続けるのは大変なので、
自治体が補助する制度があります。
そうすると、ご本人の収入にもよりますが
だいたい一ヶ月の自己負担額は
無料の人もいるし多くても2万円程度です。 |