お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
手紙262 ドキュメンタリー映画『ザ・パーソナルズ』 こんにちは。 前回までの 地下鉄サリン事件のシリーズを書きながら、 米国に住んでいた頃のことを 久しぶりに思い出していましたが、 「そういえば、こんなことがあったなあ」と 合わせて思い出したことがあったので、 今日はそれについてご紹介することにします。 ニューヨークの病院で働いていたとき、 わたしの仕事の対象は その地域にお住まいの高齢な方々でした。 外来診療も、入院治療も、往診も、 わたしにとってはみんなそれぞれに楽しく 毎日を過ごしていましたが、 ある日、地域医療の担当チームが 「勉強会をする」と言って 一本のドキュメンタリー映画の鑑賞会を 企画しました。 映画のタイトルは「ザ・パーソナルズ」。 数年前にドキュメンタリー部門で アカデミー賞を受賞した作品で、 ユダヤ系アメリカ人が多く住む地域の 高齢者の活動についてのお話だよ、と 担当者は教えてくれました。 患者さんにはユダヤ系アメリカ人はとても多く、 その生活にはとても興味があったので 観てみたいなあと思ったのですが、 あいにくその日は当直で 結局上映に間に合わず、 観に行くことはできませんでした。 後日、映画を観た友人が 「すごく良かったよ。 何というか、 自分はこのような人のために 仕事をしているんだなあ、と 改めて思い直した」 と感想を話してくれました。 そんな話を聞いて、 見そびれたことをとても残念に思っているところに、 彼女は続けてこう言いました。 「そうそう、 監督はニューヨーク大学に 留学していた日本人の女の子で、 卒業制作で作った映画なんだって」 米国に留学した日本人の女性が ニューヨークのお年寄りをテーマに映画を撮り、 それがアカデミー賞を受賞した、という話に わたしはすごく驚くとともに、 自分がその授賞式を テレビで観ていたことに気がつきました。 数年前のアカデミー賞の授賞式で すごくきれいな紫色のドレスを着た 日本人の女性が、 「アジアから来たわたしに こんなチャンスをくださった米国に、 心から感謝します」 というようなことを お母さまへの感謝の言葉と共に おっしゃっていたのが とても印象深く記憶に残っていました。 ああ、あの日本の女性が作った映画が これだったのか、と ようやく事情を知るにいたり、 ますますその映画を観たくなりました。 ところが、 ドキュメンタリー映画というのは 流通が限られていて、 街角にあるレンタルビデオ屋さんや、 ビデオ販売店などでは取り扱っておらず、 上映会で使ったフィルムはすでに返してしまっていて わたしは観ることができませんでした。 ドキュメンタリー専門の会社に 問い合わせてみると、 貸し出しには結構面倒な手続きが必要で、 また、購入するとなると わたしには二の足を踏む値段であることがわかりました。 どうしようかなあ、やっぱり買うしかないのかなあと 思い悩んでいたのですが、 ふと、この映画は 「ニューヨーク大学映画学科の学生の卒業制作」 なんだから、 きっとニューヨーク大学の図書館に行けば 見せてもらえるんじゃないかと思いつきました。 「すみません。 わたくしは“老年医学の研究のため”の 資料を探しておりまして、 こちらの卒業生の 伊比恵子さんの映画『ザ・パーソナルズ』を 視聴させていただけないでしょうか」 大学の身分証を見せながら 注意深く言葉を選びながらお願いすると、 「あ、いいですよ。向こうのブースで見てください」 と、ビデオを貸し出してくれました。 ようやく、「ザ・パーソナルズ」にたどりつけました。 ちょっと長くなってしまったので、 続きは次回にしたいと思います。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 |
2008-05-23-FRI
戻る |