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第14回 写真のために、まわり道をしてみよう。


at Tokyo in Spring
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いよいよ、春一番を幕開けに春がやってきました。
気温の方は、相変わらず行ったり来たりを
繰り返していますが、
その光は、すでにはっきりとしたかたちをしています。
まさに“春の光”です。

今回は、そんな春のはじまりを追いかけて、
“まわり道”をしてみませんか、というお話です。
精神論ではなくって、
ほんとに「遠回りして歩いてみよう」という意味です。
いつもより少しだけ早起きをして
会社に向かう道すがらでも構いませんので、
いつもと違った道を歩いてみましょう。
(といっても、季節の変わり目というのは
 天気も不安定ですから、
 毎日が晴れ、というわけにはいきませんよね。
 それこそ週末だったり、
 お休みの日が晴れてくれたらいいのですが、
 そうでなくとも、がっかりしないで、
 歩きはじめてみましょう。)

春の光が当っている場所に、目を向けてみよう。

まずは、その日のその光が
どういうものか確かめるために、
家をでたらすぐに空を見上げてみてください。
そこに浮かぶ雲に当たっている光が、
今まで以上にキラキラしているのを感じませんか。
そうです、それが春の光です。

しかもその光は、当然のことながら
私たちが暮らす地上界にも降り注がれています。
いつもお話ししているように、
ゆっくりとまわりを見渡してみて、
その春の光が当たっている場所に目を向けてみてください。
そして、少し足を延ばして
新しい場所にも目を向けてみましょう。
すると、そこにある植物をはじめとした
生き物たちはもちろんのこと、
存在するすべてのものたちの、
幸せそうな顔を、見つけることが出来るはずです。
しかもその瞬間に出会うということは、
写真にとっても、何よりの幸福な時間なのです。


at Kyoto
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この写真は、
表通りを離れて、散歩がてらフラフラと
少しまわり道をしてみたときに出会った
京都の町屋の小路です。
ぼくはその小路の先に見えた、きれいな光に惹かれ、
その光の場所にある世界に想像を膨らませながら、
薄暗い路地を進みました。

路地を抜けて、いきなり明るいところに出たわけですから
そのことも手伝って、一瞬、目の前は真っ白になりました。
そして次の瞬間、予想以上のあたたかい光に満ちあふれた
世界が現れたのです。
ぼくはその時に、
「あー、まわり道をしてよかった」と、
とても得したような気分になったと同時に、
ぼく自身まで、とてもあたたかい気持ちに
なることが出来ました。
そして、その光のコントラストの中に、
春ならではの“新しい光”を見つけることが出来たのです。

これは、ぼくが、
たまたま旅の途中で見つけた春の光ですが、
たとえ旅に出なくても、
日常の中で、少しだけ“まわり道”をしてみることで、
きっと同じように、
新しい場所に出会うことが出来るはずです。

たとえば、あなたが、
毎朝、通勤電車の窓から見ている
大きな川が気になっているとします。
そしてその光景は、
天気や季節によって
実は、決して毎日同じではないことに、
すでに、あなたは気が付いているはずです。
もしもそんな場所があったとしたら、
一日だけ早起きしたり、あるいは休みの日に電車に乗って、
いつもだったら絶対に降りることのない
川の近所の駅で下車してみて、
その川辺を歩いてみるのもいいかもしれません。

そうすればきっと、
新しい風景に出会うことも出来るでしょうし、
何よりも、あなた自身が新鮮な気持ちになれるはずです。
それが“まわり道”の
最大の醍醐味とも言えるかもしれません。

しかもその“新しい”感じは、
とても今の季節に似合っています。
何といっても、この国においては、
春という季節は、すべてのはじまりの季節ですものね。
だから、この季節の“まわり道”は
特に写真を撮る上でも、
その新鮮な気分と共に、
新しい出会いであるとか、
新しい発見を見つけることが出来る、
最も有効な方法なのです。

春の光の下では、
あらゆるものがうれしそうに写ります。


そして、実は春の光の下では
写真はいつも以上にきれいに写ります。
特に春の朝の光は、気温もあまり上がらずに、
そのせいで、湿度も少なく、
大気はとても澄んでいます。
そしてその中に、それまでの冬の間の光に比べると、
圧倒的に力のある光が射してきます。
このように、透明度の高い大気の中で、
その分、純度の高い光が地上界に届くことによって、
すべてのものごとは、とてもクリアーなかたちで
“見える”ということになります。
よって、写真も、
いつも以上にきれいに写るのです。

それに、この春の光の中、
この季節特有の“あたたかい光景”を目の前にしたとき、
ぼくたちの目も、とても喜んでいるはずです。
春の光は、とても気持ちがよくて、
幸せな気持ちになれるものですよね。
そして、その時にカメラを手に写真を撮れば、
そのあたたかい感じは、
単なる“感覚”だけのことではなくて、
誰の目にも見える“ほんとうのこと”だということを
改めて、視覚的に知ることが出来るのです。
だからその温度みたいなものを、
意識しながらシャッターを切ってみてください。
するとそこには、新しいものが、新しい光の下で
うれしそうに写っているはずです。

最後に“まわり道”についてもう一つだけ付け加えておくと、
第0回の中で、清野さんが「百科事典の話」を
ぼくを紹介する上でのエピソードのひとつとして
話してくれていますが、
その話も、今回のまわり道の話と、
同じことなのだと思います。
ある目的のために、どこかに向かうとき、
実は本当に大切だったり、楽しかったりするのは、
その目的に到着する前に、引っかかって寄り道する
いろいろだったりしませんか。
まわり道をして写真を撮ると
きっと、それと同じような出会いや
発見を楽しめるはずだと思うのです。
しかも、この春の光の中で見つけた
“あなたにとっての新しい何か”は
驚くほどに、キラキラとしていて、
なおさら特別のことのように見えるのではないでしょうか。



写真にとって、もっとも楽しい季節がやってきました。
まずはどこでもいいので、光に導かれるままに
時には、写真のために、まわり道をしてみましょう。
すると、きっと春ならではの
新しい写真が撮れるはずです。



at Kyoto
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次回は、
「何に対しても、話しかけるように撮ってみよう」
というお話です。お楽しみに。


2006-03-17-FRI
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