新聞で見つけた、「奈良ブランド募集」の記事。
締切りがあることで、発奮したふたりは、
そこに「あたらしい靴下」で応募をすることを決めます。
けれども、糸も編み方もかたちも、
具体的なことは、なにも決まらないまま!
ふたりはそれから、どうしたんだろう?
「県主催の奈良ブランド開発支援事業の
会議に行くまでは、
ブランドというものがよくわからなかったんですよ。
『奈良ブランドということは、
シカのマークつけるんかなあ?』とか(笑)」
そうして出かけた最初の会議で、
ふたりは重要なキーワードにめぐりあいます。
それは、「ロングセラー」そして「定番」でした。
「使い手とつくり手が共有・共感できる
ロングセラーのものをつくろう」
「定番をつくろう」ということです。
「自分たちの気持ちにピッタリで、
ほんとうに、おどろきました」
奈良ブランドといっても、
奈良発信であればよくって、
シカのマークは、もちろん不要。
自分たちの想いが
つくったものにあれば、それでいい。
自分たちでものをつくり、
ブランドを育てていくという、
学びと実践が始まりました。
「じゃあ、自分たちの『想い』のある靴下って、
どんなものなんだろう?」
相棒の杉田さんといっしょに、田中さんは、
ディスカッションを重ねます。
(それまで「ディスカッション」すら、
したことがなかったのだそうです。)
毎晩、仕事が終わった後に
自分たちで1つ1つカードに、
キーワードを書き込みます。
「むれない」
「絞めつけない」
「素足でいるよりも気持ちいい」
「ふくらはぎにゴムのあとがつかない」
「自分たちが毎日履きたい」
「足がよろこぶ」
「私たち主婦が手に届く値段(だいじ)」
‥‥などなど。
「抽象的ですが、
はいているとなんだかうれしくなるような靴下を
つくりたいなって考えたんです。
それからだんだん素材選びをはじめて、
工場の職人のおっちゃんに
何度も何度も試作してもらって、
納得のいく靴下ができるまでに、
1年以上かかりました」
そうしてできあがったのが、
いまも続く、Ponte de pie!(ポンテ・デ・ピエ!)の靴下でした。
紙繊維と綿などを独自にブレンドして使っています。
ゴムをできるだけ使わず、
編み方の工夫で、ずり落ちないようにしています。
足をやさしく包み込むようなフィット感です。
土踏まずをサポートすると足の指が開きやすくなり、
力がしっかり入り、
立ったとき、歩いたときに安定感があります。
コンピュータ化した高速織機で編んだ靴下に比べて、
昔の織機で編んだ靴下は、足先が丸くて広め。
足先がしめつけられず、楽に動けます。
水洗いをした後に、自然乾燥をしています。
このことで編み目がよい案配に締まり、
気持ちよい風合いが出ます。
プレスをして生地にムリをさせてかたちを整えたり、
柔軟剤を使うことはしていません。
職人が昔の織機を使って、
機械の調子を読みながらゆっくり編んでいるから、
繊細な糸を使って編むことができ、
やさしいフィット感を生み出します。
また、はいたときの気持ちよさや
風合いを大切にするために、
水洗いと自然乾燥で仕上げている靴下は、
手間と時間がかかることもあり、
とてもめずらしいと思います。
少量生産だから、できることです。
2014-09-26-FRI