おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)
ところでセレブリティって、
一体、どういう人たちなのでしょう?
そしてそのセレブリティって、
一体、どういうことをレストランに求めるのでしょう。
そこからちょっと、考えてみませんか。

セレブリティの人たちが必要とするモノ。
それはプライバシー。
目立たず、自分たちの時間を楽しむことができる自由‥‥、
つまりプライバシーでありますね。

例えばファーストクラスが
なんで飛行機の一番前にあるのか‥‥。
その理由を考えてみたことがありますか?
サービスが一番、行き届く場所だから。
一番前、という心理的に選ばれた人たちのための場所、
という場所だから。
あるいは、出入り口に近いから。
そんな理由をあれこれ、ひねり出すことができるでしょう。
でも、多分、一番の理由はひとつ。
それはココが他の人たちから目立たない場所であるから。
セレブリティ。
ただでさえ目だってしまう人たちが、
なるべくならば飛行機の中くらいでは目立ちたくなぁ、
という気持ちにこたえるために、
用意されているのが一番端っこ。
つまりそこは、「一番前」じゃなくて「一番端っこ」である、
というコトなんですね。
これが大切。
それが真実。

自分がそこにいることを
他人に自慢したいような人は本当のセレブリティじゃない。
そこにその人がいるということを、
同じ場所にいる他の人たちが
思わず自慢したくなるような人が、本当のセレブリティ。
セレブリティは隅っこにいても目立つモノであります。
存在感。
オーラ。
そんな言葉で、セレブリティは普通の人たちと
区別される存在でもあるのですネ。
そのオーラを閉じ込めておくようなそんな場所。
つまり、レストランの隅っことか柱の影とか、
つまり目立たない場所がセレブリティのための場所‥‥、
であるわけです。


100%のプライバシーを手に入れようと思えば
個室を使えばよい。
有名人御用達の店の中には、
専用入り口付きの個室なんてのを
完備しているレストランがあったりします。
完璧でしょう。
誰とも顔をあわせることなく、自由自在に出入りが出来る。
しかも個室の中で何を食べようが、
何をしようが、誰にみられることさえもない。
完璧です。

あるいはレストランの貸切。
ある意味、コレが一番、
手っ取り早くいプライバシーを
手に入れる手段かもしれない。
お金と不遜な怖いもの知らずの鼻っ柱さえ用意すれば、
どんなレストランだって大抵は貸切にできるモノ。
‥‥、でありましょうから。

が‥‥。

それでは楽しくもなんともない。
お客様抜きのレストランで食事するくらいなら、
おかかえ料理人を雇って自分の家で食事する方が、
ずっと合理的だし快適でしょう。
だって本物のセレブリティの家の
ダイニングルームなんて、
ちょっとしたレストランよりも
ずっと快適であるに違いない。
彼らの豪邸のキッチンは、
ちょっとしたレストランの厨房よりも
設備が整っているのでありましょうから、
ワザワザ、レストランに行く意味なんて
それほどないに違いない。

にもかかわらず、レストランで食事する。
いろんな人たちが集まって、
それぞれのシアワセが共鳴しあって、
より大きなシアワセを作り出していくような、
そんな空間に身をおくシアワセ。
それがレストランで食事することの、
まず一番最初の楽しみ。
自分の家では楽しめぬコト。
とはいえ、それと同じように、
あるいはそれ以上に楽しいコトが
そこに集う人たちのことを観察することが出来る‥‥、
というコト。

人間観察。
ちょっと根暗で、ひねくれモノのようでありますけれど、
でもレストランに集まる人たちのシアワセを
ちょっと遠くから眺めて、
おすそ分けしてもらうようなそんな楽しさ。
特に、いつも人から観察されることが
当たり前のセレブリティにとって、
最大のオゴチソウは人から観察される心配もなく、
逆に他人を観察することができる‥‥、というコト。
間違いはないでしょう。

例えばオペラハウスの中二階にあるバルコニー席。
音響効果に優れているワケじゃない。
舞台に近いワケでなく、
舞台全体を真正面から見渡せるような席でも決してなく、
でもそんなオペラを観るコトにかけては
不都合だらけの場所こそが、
セレブリティのために用意されている特別席である。
‥‥、という事実。
理由は、劇場に集まる人たちを観察するのに、
これほど適した場所はないから、というコトですネ。
レストランもしかり。
‥‥、なのであります。



ビバリーヒルズのホテルの
コーヒーショップでの思い出です。
朝食どき。
宿泊客がまばらにポツンポツンとテーブルの
半分ほどを埋める程度の緩やかな時間帯。
レストランの入り口あたりが、
ちょっとザワザワ、ひときわにぎやかな気配になった。
どうしたんだろう‥‥、とそちらをみると、
帽子とサングラスのいかにも有名人風の
男女のカップルが一組、
ホテルの支配人に案内されてレストランの中に入ってきた。
誰なんだろう‥‥?
怪訝な空気は一瞬にして、
あっと息をのむような驚きに変わっていきました。

ハリウッドスター夫婦、であったのです‥‥、その二人。
しかも二人とも超一流。
今では残念ながら離婚して別々の人生を歩いている、
でも当時はシアワセの真っ只中にあった
美男美女の夫婦です。
一人でも十分なオーラを放って当然な
ハリウッドスターが、二人。
しかも二人のオーラが共鳴し合って、
驚くような存在感が
レストラン中に充満しはじめたのでありました。

そして二人は、レストランホール全体を見渡せる
ちょっと一段上がったような、でも一番奥のテーブル。
その周りにはバラの木々がうっそうと茂っていて、
程よいくらいにボクらから
二人の姿を見事にきれいに隠してた。
まるで劇場のバルコニーのようなテーブルに、
正真正銘のセレブがいる。
そんな空間で、楽しくステキな時間が始まった。

ボクも出演者の一人となった、
楽しい舞台のはじまりはじまり‥‥、でありました。
 
2006-10-05-THU