紳士淑女の持ち物は「屋外用」と「屋内用」に
分類することができるのです。
コートは屋外。
カバンも底に鋲が打っているようなものは、
地面に置いてもいいようにできているから屋外用。
帽子だって、サングラスだって屋外用にできていて、
それをお店の中という屋内に持ち込むことは
慎む方が良いのです。
例外なのはご婦人方のお帽子で、あれはおしゃれ。
だから英国王室のウェディングセレモニーにも
かぶっていける。
問題は、それら屋外のモノを
脱いだり手放したりするタイミング。
できることなら自分から脱いだりすることのないように。
お店の人から「お脱ぎになりますか?」
という合図がでるまで頑なに、
じっと着たまま、持ったまま。
それらをお店の人たちの手元に渡すことが、
お店の正式なお客様になる許しを得ること。
そんなふうに思ってお店の入り口の儀式に望めば、
とても凛々しくスマートなお客様としてふるまえる。
さて、そんな彼ら。
お店の人に、まずはこちらにお越しくださいと、
入り口の方に案内されつつ
「お名前をお伺いできますか?」なんて質問されてる。
名前をポツリ。
「お待ちいたしておりました」。
そしてめでたく、コートをや帽子をクロークにあずけて、
彼らのテーブルに案内される。
「あら、予約は大丈夫だったみたいね」
なんて、軽く流してシャンパングラスを持ち上げて、
ひと口喉を潤そう‥‥、とした瞬間に、
母が大きく目を見開いて「あら、いけないわ」と声をだす。
なにがそんなに、いけなかったのか。
また来週のおたのしみ。
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