ROBO
風前の灯火。

31人目 ハタさんの家 (1999.5.15〜)

ホストのコメント

前ホストの依頼を受け、
31番目のホストになりました、ハタと申します。
この手の企画には少々抵抗がありましたが
実際ロボットを手にしてみると
意外にも気になって仕方がないものなんですよね。
そんな可愛い自分に驚きつつ、第一報告を下に記します。

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5月15日(土) 11:30

はじめまして、ハタです。
31人目のホストみたいです。
きのうオヤジマチ“新橋”で、お友達の奥ちんから
ロボット(!)を渡されました。
彼は今、まるで洋行帰りのおじさんみたいに
赤いマフラーをして背中にカエルの入れ墨をしているよ。
(かっちょいい)

でも実はそのお姿をかろうじて視界の端っこで
とらえてるだけなんです。きのうから。
照れちゃって正視できないの。まだ握手もしてません。
私はひとりっこで、人見知りが激しい。
観葉植物にすら話しかけることができない……。
一方、なんだか分からない後ろめたさで
いっぱいだったりして。
そんなダメホストの部屋で、
哀しく転げちゃったままのロボット。
今日は土曜日です。
とりあえず、新宿に連れて行くことします。

22:30

ただいま。
新宿でロボットが次ホスト候補とお見合いした。
(男性同士だけど)
残念ながら縁がありませんでした。
彼のメンツをかけて言うと、
決して気に入らなかったということではありません。
むしろ、かわいらしさのあまり
「右腕を折ってみたり…、見ず知らずの人に渡したり…
サイパンに置き去りにしてみたーい」
などと間違った愛し方をしてしまいそうだからでした。
ホントにやります、彼なら。ホスト選びを甘く見てました。
反省をしていたらなんだかロボットに対する情が……。
今夜は枕元(夢枕)に立っていてもらおう。

●おまけ
邦画「39」を観た。
コメディかと見まごうほどの演技者ぞろい。
(やりすぎが絶妙)。
内容はサイコというより、
ヒューマンドラマだと私は言いたい。
  
5月16日(日)

今日は日曜日だけどアルバイトに精を出す。
ロボットには日曜くらい休ませてあげたいな、
と思って1分、時間を遅らせてみました。
けどよく考えたらば、それは留年みたいなもんで
その分仕事が増えることになって、休んだことにならない。
だから元々の時間を含めて2分早めておいた。
7月に世界の終わりが来たら、
ロボットは誰よりも先に大魔王に会えるわけです。
あれ? これがオチでよい?

1999-05-20-THU

31人目 ハタさんの家 (つづき)

ホストのコメント

みなさま、大変申し訳ございません。
ホスト選びが難航しており、
なかなかロボットが旅立てずにおります。
ロボットの目は遠く哀しい。

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5月17日(月)

アルバイトにロボットを連れていく。
次ホストを探すもみんな意外にPCを持っていない。
まあ、バイト連中は一様にお金に困ってるから
そんな嗜好品(!?)は持たないか。
ところで私の周りを見回すとデジタル派、アナログ派と
はっきり二分しています。
デジはデジで猛進するし、アナは徹底的にアナで、
PCはおろか、携帯、プレステすらにも背を向ける。
どっちもかっこ悪い気がするなあ。
てきとーがいいですよね、やっぱ。
で、ロボットはロボットだけに
デジタルな人間のもとに行く運命なのね。


5月18日(火)

友人と会う。
お茶の水のシェーキーズでキッチリ4時間、
精神世界のハナシをする。
彼はイメージトレーニングの重要性を語り、
くよくよ悩んだりする人間は宇宙は
必要としていないのだ、と諭した。
「全ての事象に偶然はないから(←彼の持論)、
例えば必然的な人間関係について悩むことは無意味だ」
とのこと。
無意味なことを延々と考えるような人間は
将来どんどん排斥されるべきなんだってさ。

ちょっとロボットは渡せないタイプのヒトだった。


5月19日(水)

ロボットの格好について。
5月15日に現在のロボットの容貌を記しましたが
あの、よくわかんないとアレなんで。
アレっていうのは、おそらく皆さんが不安がるのでは
というイミです……。
要は、前ホストの奥ちんが
ロボットの首に赤いヒモを巻いて、
カエルのシールを背中に貼ったんですね。
それがこう、彼もいろいろあったんだなあ〜って感じで
裕次郎よろしく哀愁たっぷりなお姿なのです。
新宿2丁目にいそうなおじさんにも見えちゃうところが
またよくて。

ところで今日から、我が家でのロボットの定位置が
決まりました。
風水で南側に光物と時計を置くと恋愛にいいというので
是非、ロボットにその大役をと。効果はいかに……。
「できれば君にずっといて欲しい」
だって2、3日じゃ効かないじゃん。
鬼ホストだわ、私。


5月20日(木)

今日は本来アルバイトが入っている日なのですが、
シフトをカットされてしまいました。不景気のせいです。
まあ、なんてリストラちっくなんでしょう。
なんて落ち込んでもいられず、
母親に(仕事行かないことを)バレないように
(バレたら激怒だからね)、おでかけをする。
もちろんロボットは一緒だったから
全てお見通しだろうけど。
まるで出勤風に9:00に家を出て

9:10 - 10:20  
●近所の図書館
「文学界」を読む。入選者は全員女性でびっくり。
新人賞受賞者の受賞の言葉と選考委員の選評を読んで
時間切れ。

11:00 - 13:30頃 
●日比谷シャンテ
テオ・アンゲロプロスの「永遠と一日」を観る。
超観念映画。なのにラストシーンで泣けた。
と思ったら、それはラストではなかった。
本当に永遠に(今日という)一日が続くんじゃないか
と思うくらい、長い映画だった。
人間が具体化したくない孤独や不安を、
さらにぼんやりとさせて、そして全てを
(孤独や不安でさえも)幸福感に包括するという、
そんな結末でした。
※ロボットは寝ていた。

13:40 - 15:00 
●銀ブラリ
宝クジ売り場が大変な列。あんなの宝クズなのにサ。

15:10 - 18:15 
●丸ノ内ルーブル
テレンス・マリック「シン・レッド・ライン」。
戦争映画で、人間の極限時の「恐怖」を主題にしていると
パンフレットには書いてありましたが、
これもまた「永遠〜」と同様の壮大な映像詩でした。
2人の巨匠はどちらもイノチへのイノリを
謳ってっていたのでした。
    ↑
(安易なもの言いですみません)
※そんなメッセージをヨソにやっぱりロボットは寝ていた。

19:00 - 20:00 
●近所の図書館
朝と同じイスに座り「文学界」の続きを読む。
新人賞の「LA心中」を途中まで読むが
母親にいつもどおり帰宅する約束をしていたことを
思い出し、慌てて帰宅。

一気に読んだり観たりしたので、ちょっとぼうっとした。
ロボットはさすがによく寝たのか、
チクタク元気に動いている。
いいね、悩みなくってサ。
私はあるよ、君を誰に渡すかという重大な悩みがね。

そしてまだまだ報告は続く……。

1999-05-22-SAT

31人目 ハタさんの家 (つづきのつづき)

ホストのコメント

さぞや皆様お待ちのことかと……。
お叱り覚悟しております。
体調不良と多忙が重なり報告が遅れました。
ホスト選び、本当に大変でした。
現代人は警戒心が強すぎるのか、
よほど私が怪しく話していたのか……。
とにかくその後のロボットと私の日々を綴ります。

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5月21日(金)
 
ロボットの居場所を報告し忘れておりました。
最寄りの駅は都営新宿線の東大島です。
新興住宅地であり、残念ながら下町としての
風情はありません。
現在も開発が続き道路や公園やら小学校やらが目の前で
どんどん造られています。
でも町が新しく造られていくのを見るのは楽しい。
毎朝、工事現場のおっちゃんは
体操をして朝礼をして、かったるそうに作業してるけど、
私たちの未来を造っていると思えばかっこいい。

5月22日(土)
(サボリ)

5月23日(日)

中央大学で機械工学を専攻している学生に
ロボットを見せる。
「二足歩行はあんまりねえ……」とひとこと。
四足の方が動きをつけるのにいろいろと便利なんだって。
っていわれてもねえ。
でもちゃんと手にして、いろいろ動かして
ロボットとして観察してくれたのは嬉しかった。

5月24日(月)
AIBO、ずいぶん話題になってる。
25万円だって。(高い? 安い?)
その昔、オンパレードだった「ファジー制御」。
あれがいかにヒトの感覚に即してなかったかを
思い出して欲しい。
AIBOがどんな優れものかは知らないけれど、
それはただ優れものであるだけで、
本当の相棒ではないんだよね。
やっぱり、息をかけただけでも
リアクションをする動物たち(人間も含)には
かなわないじゃん。
んなのあたりまえだ、と言われそうだけど
こういう開発が進むたびに思うのは
本当に便利性だけを追求しているのかどうかということ。
もしそれ以外にあるんだったら、一体それは何なんだろう?

ちなみにわが家のロボットは手動:
片手を上げて「ごあいさつ」
両手を上げて「万歳」或いは「降参」
両手を下げて「好きにして…」
あとは私の想像力のおもむくまま。
一番おりこうなのでした。

5月25、26、27日
(サボリ………お察し下さい。
この頃はロボットのゆく末を真剣に考えておりました。
このまま所持続けたら窃盗罪に処されるのか、
それならいっそのこと心中してしまおうかなどと……。
しかしながらロボットは
私の枕元で「万歳」をしているばかりでした。
ヒトの気も知らないで)

5月28日(金)
初めてロボットを飲み屋に連れていく。
ロボットよ、今日は花金っていうんだよ。
週の疲れを癒しておくれ。明日は明日の風が吹く。
君の人生も私と一緒。何とかなるはず。

5月29日(土)
ロボットを連れて芝居を観にいく。
JALOPY「ネムレナイト」本当に面白かった。
遠い知り合いである作・演出の塩田泰造さんは
とってもスタイリッシュな方なので
演劇の土臭さを一掃してくれるに違いない。
注目すべきユニット。

一方私は観劇のウラでもうひとつの目的を
果たさなければならなかった。

これまでの日記を読んでいると
どうやら皆さんはロボットを謎めかして
手渡しているようである。
実際手渡しする時はどんな雰囲気なのだろう。
私はそこに、どうしても人身売買の匂いを感じてしまう。
だから私の時は大々的にセレモニー化しようと
決心してたのに……。

「ね、ね、大丈夫だから。とにかくこれ持ってって。
ね、ね」と怪しい文句で、有無も言わせず、
相手のカバンにすべりこませてしまった。

泣き叫ぶ子供を無理やり置き去りにしてきたような
悪い感触。
ごめんね。とにかく旅立たせるきっかけが欲しかったの。
本日23:30、幸か不幸か次ホストにロボットを手渡す。

次ホストは、大学の後輩である笠岡という男。
自らを吟遊詩人と称し、ヨガで精神統一し、
ピースボートを乗り回し、ベトナムでインチキ日本語を
教え込み、あ、中学生相手に塾講もやってたか。
現在はVP製作と、何か販売関係もやってます。
決して怪しくない人ではありません。充分怪しいです。
皆様、どうか無事を祈っていてください。

前ホストの奥ちんから聞いて
初めてweb上でロボットを見た時は
全く感想を持たなかった。
そしてわが家に来て、いろいろあって、さよならした。
今度は再びweb上でロボットを見守ることになる。
旧知の間柄として。

こういうの「関係」っていうんだね。

1999-06-01-TUE

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