HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 中竹竜二×糸井重里 にわかラグビーファン、U20日本代表ヘッドコーチに会う。
7 ビジネスとラグビーの共通点。
糸井
百戦錬磨の選手たちの中でも、
より成長できる選手と、そうじゃない選手がいますよね。
そこはもう、才能ではありませんよね。
中竹
そうですね。自分を追い込めるかどうかは、
才能というより、もっと根本的な部分で、
「オフザボール」の部分に影響が出ると思うんです。
自分がボールを持っていないときに、
ボーッとせずに集中できるかどうか。
楽をしたい気持ちもあるだろうけど、
ゲーム中には一切の妥協をしない。
我々がセレクションで選手の才能を見るときも、
迷ったときには、ボールを持ってない時の動きを見て、
その人の本質を見るようにしているんです。
糸井
ドラマなんかでも、いい役者というのは、
自分に台詞がないシーンでも、
しゃべっている人を見ているときの聞きかたが、
ものすごくいいんですよね。
素人芝居だと、台詞がないときには、
集団の中でボーッとしてしまいます。
あるいは、過剰に「そうだ! そうだ!」とうなずく。
どこかで自分のあり方を諦めて、
そこだけをやればいいと思っているんです。
それって、オフザボールにも通じるところですよね。
中竹
そうですね。
糸井
会社の中でも、人事や経理といった
「管理系」といわれているような人たちは、
じかにボールを持っていないように見えますが、
ボールの流れをコントロールしていく役割です。
人の目が届いているか、いないかは別として、
お互いの仕事を理解しあわないと、
何のゲームをしているのか、わからなくなる。

僕はずっとフリーで仕事してきたので、
管理系の仕事が見えなくて、
そこに対する敬愛の念が薄かったんです。
でも、自分の会社で管理の仕事を実際に見ていると、
その大事さが、心からわかってきました。
「ほぼ日」では定期的に、席替えをするんですが、
隣に座る人が、自分と違う職種の人になることが、
しょっちゅうあるわけです。
お互いの仕事がなんだかわからないけれど、
隣りにいると、ちょっとなじんでいくわけです。
中竹
物理的な距離は大切ですね。
糸井
おもしろさや、たいせつさをお互いに知れたら、
ちょっと尊敬しあえるようになると思うんです。
フリーのときに、いろんな会社へ行きましたが、
たとえば経理をやっている人たちと、
デザインをする人たちは別のフロアにいたりして、
フロア同士の仲が悪かったりするんですよね。
中竹
うーん、よくあることですよね。
糸井
「あいつら、なんでわかんねえんだよ!」って、
お互いに言い合っているんです。
でも、会社の目的は、一緒にうまくやっていくことです。
自分の会社でそれをやったら嫌だなと思って、
すぐに理解できないなりにも、
お互いの仕事を覗けるようにしたんです。
中竹
いや、大事ですよね。
お互いのやっていることに興味や関心を持つだけで、
コミュニケーションは変わってきますから。
糸井
そうですね。
中竹
僕自身もU20のチーム作りで大事にしていることは、
「オンザボール」と「オフザボール」の話が出ましたが、
「オンザフィールド」と「オフザフィールド」でも
分けて考えていました。
つまり、ラグビーをする場所ではない、
食事やストレッチしているところも大事なんです。
せっかく代表チームに来ているのだから、
同じ高校だったとか、同じ大学だとかじゃなくて、
もっといろんな人と話すように伝えていました。
食事も同じグループで固まるんじゃなくて、
ひとりのヤツがいたら呼んであげる。
それが自然にできるのがチームですよね。
糸井
そうですね。
中竹
「バックス、ボール落としやがって」とか
「フォワード、押されやがって」みたいなものも、
チームがどんどん進化していくと、
ちょっとした気づかいで解消できるんです。

だから、本当にストレスが溜まってきた時には、
フォワードにバックスの練習をさせて、
バックスにフォワードの練習をさせます。
そうすると、お互いのつらいところがわかるから。
「うわっ、モールってこんなに痛いの」
「バックスってこんなにパス難しいの」みたいな。
動きながら他の人と触れることをしておかないと、
組織はうまくいかないし、文化もつくれない気がします。
糸井
自己組織化して
コミュニケーションの変化をつくれるのは、
きっと強いチームですよね。
中竹
僕らのなかでも、
「オフザフィールドの、こういうのを頑張ろうね」
と言って、今年はうまくいっていましたが、
来年はどうしようかなと思っています。
学校じゃないんだから、言いすぎるのも気持ち悪いし。
けれど、チェックポイントとしては参考になって、
ランチで隣の席に居合わせた選手たちが、
みんなでごはんを食べながら、
次の試合に向けた真剣な話をしていたりすると、
チームが強くなっているなって感じられるんです。
糸井
うん、それは強いチームですよね。
中竹
何も指示しなくてもそういう会話になって、
「じゃあ、コーチがいるから聞こうぜ」って、
コーチと選手がいっしょに話しだす。
その時にチームの成長を感じました。
こっちからはなるべく指示しないことが理想で、
「オフザフィールド」をあまりに言い過ぎたら、
そっちも、「オン」になっちゃう気がするんです。
コントロールが難しいですよね。
糸井
大きな課題ですね。
できるだけルールがない方が本当はいいんだけど、
ルールがないと、自分の目盛りができにくい。
たとえば、はっきりしたことを指示していない、
あいまいな言葉ってありますよね。
たとえば、糸井事務所で求人をしたときに、
「こういう人が欲しい、ああいう人が欲しい」
とミーティングで話すような言葉だと、
その目盛りに合わせたことに
応えてくれる人ばかりが集まりますよね。
それじゃあダメだなと思って、
結局、求人のページで
「いい人募集。」って言ったんです(笑)。
中竹
うん、おもしろい。
糸井
「アイツいいよね」とか、
「こんど来た誰々はいいよね」とかっていう、
みんなが示している「いい」というものが
それぞれに違うんですね。
中竹
ああ、そうですね。
糸井
ラグビーの選手でも「いい選手だね」というのは、
数字に表れない部分を含めて、
「どこがいいの?」ってなったら、
「うん、奥底にあるガッツがね」とか、
いろいろと説明ができるんでしょうけど、
でも言いきれてないですよね。
中竹
言いきれていませんね。
言いきると、そこに固まっちゃう。
糸井
そうなんですよね。
言いきれないことなんだけど、
みんながわかる何かの形で、
ときどき、目盛りをつけてあげることが
必要なのかもしれません。
中竹
それはいいかもしれませんね。
<つづきます>
2016-02-18-THU