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虚実1:99
総武線猿紀行

総武線猿紀行第217回
「え、その場面ホント?
 『ラストサムライ』を2倍楽しもう!」
〜佐伯先生と新春・武士の勉強〜その4〜
小雪はオルグレンにアダ討ちをすべきじゃ!

お年玉年賀状、当たりを照らし合わせましたか?
なかなか面倒くさくてできないんだよね。
だいたい切手しかあたらないし。
何%の人が景品もらってるんだろう?
取りに行った人に、ある賞品のすべてを
振り分けるようなシステムにはできないのか?
と思ったりして‥‥。

新春から開始している目からウロコのお勉強ではあります。
武士のイメージって本当に一人歩きしてるんだな〜、
と思うとともに、思い当たるフシもあるというか。
古代からの延長線に
どう戦(イクサ)が行われていたかを考えるならば、
「飛び道具はヒキョウなり!」
という考え方の矛盾が分かるのですね。
戦具は常に最前線です。
しかし、武士道に
西洋の騎士道の影響の可能性ありとは‥‥。
そこが意外でした。
古代から戦国時代までの戦いの、
油断もスキもない戦いのイメージに
ダイレクトにつながる感じを、
この武士論で学んでいただけるとうれしいです。

DVDに日本酒、オシンコでも片手に、
佐伯先生による、確かにお得なウンチク、
新春、新しいジャパネスクなひとときを貴方に‥‥。

先生、こんにちわ。

「こんにちわ」

朝廷方のオルグレン(トム・クルーズ)は捕虜になって、
反乱士族の勝元(渡辺謙)の家に連れて行かれます。
丁重に扱われるのですが、
なんといっても驚かされるのが
「サケ!サケくれ!」と捕虜のくせに、夜中に騒ぐこと。
敵方に着いてそうそうのことです。
捕虜の分際で「サケもってこい!」と勝元側の
自分が殺した相手の
色っぽい美人の奥さん「たか(小雪)」にせがむとは‥‥。
これは、アメリカの通常の捕虜は、
たいそう態度がデカイことをあらわしているのでしょうか?

「西南戦争では、西郷軍は捕虜を
 わりあい人道的に扱ったようですし、
 降参した人を保護する習慣は、
 昔からある程度ありますね。
 高い階級の捕虜に対してはそれなりに丁重に扱うし。
 でもサケまで出してやるかどうかは知らないけどね」


なにげなく出た、西欧人の我がままな作法
ということなんでしょうかね?
それとも捕虜にも酒を飲ますという風習が
向こうにあったりして。

「オルグレンにとって、
 勝元は何でも受け入れてくれる癒やしの人なんですね。
 ちなみにちょっと話はズレるけど、
 蘭学医師のシーボルトには、
 日本人とのハーフの娘がいて、
 大村益次郎のほのかな恋の相手というのが、
 司馬遼太郎の『花神』ですね」


オルグレンにとって、日本人女「たか」は、
そんな恋の相手になるわけです。
エキゾティシズムということですね。
にしても、サケ要求激しすぎ。
その勝元の家ですが、ずいぶんとまあ、広いですね。

「どう見てもお寺ですよね。
 実際、兵庫県の書写山円教寺という、
 とても大きなお寺で撮影してるんです。
 出家入道してる武士もいるけど、
 勝元の場合はどうなんでしょう?
 もっと小ぶりの
 武家屋敷のようなところに住んでいるのが普通です。
 日本の古い建物は皆同じように見えてしまうのかな?」


勝元は僧兵ということになるのか?
とにかくこうした巨大な寺のイメージが日本なのですね。
おそらく奈良とかに観光にいった時に覚えた印象でしょう。
というわけで、勝元の一家、奥さんのたか(小雪)と、
子供達、そしてオルグレンというメンバーで、
朝ごはんをみんなで囲んでいます。
明治の庶民みたいにみんなでひとつの卓を囲んでいますね。

「これだけ大きな家に住んでいれば、
 一人ずつお膳があるのが普通です。
 さらに驚かされるのが、勝元が英語がうまいこと。
 どこで覚えたんだろう?」

その家の人を殺した捕虜(オルグレン)が、
一緒に食卓を囲んでいるのがとにかく異様ですね。

「勝元はもし、オルグレンから朝廷側の情報を得たいのなら
 小雪から引き離すべきですね。
 小雪は、親族を殺されたわけですから、
 感情的になるに決まってます。
 というより、道徳として、直ちに敵討ちすべきですね。
 同じ屋根の下で飯食わせるというのはどうなんでしょう?
 武士の道徳はそんなに寛容ではなくて、
 討たれた側の家族は、基本的に復讐する義務があります」


そうですか? いわゆるアダ討ちですね?
江戸時代には、アダ討ちが社会常識として、
正当とされてましたからね。
全くもって、このカタキと一緒にメシ食うというのは
すごい光景ですよね。
さて、村では、農民と武士が一体となって
農作業と武術訓練をしている様子を、
オルグレンが珍しそうに観察する、
のどかなシーンが続きます。
前回出たように、幕府軍の武士達は、
農民で構成される新政府軍を
「土百姓」とバカにしているぐらいですから、
農民と一緒にいること自体が、設定としておかしい。

しかし、この村では農業と武術が、
混然一体となって行われている様子が描かれています。
この様子は相当ヘンな風景になるわけですね。
なんったって武士は農作業しないし。

「薩摩なんかでは上級の武士と下級の武士でも、
 すごい差別があるんですよ。
 どこの藩でもそうだと思うけど、
 武士内での階級差別がまた激しい。
 土佐藩の坂本竜馬なんか
 郷士の家だからすごくバカにされていたんです。」


そうか、じゃあ、僕らが武士社会の現場にいたら、
身分差別はやっぱりキビしいと音をあげるかも。
「平等社会はやっぱりいいなあ」
と思わずため息つきそうになる状況でしょうか?
誇りの前に、差別という現実があるんですね。
武士の生活は
激しい身分制度とセットで機能していたわけですね。
ましてや、この映画のような
「農武一体の田園風景」の雰囲気は
全くの夢物語なのですね。
ありえないと!

「お祭りでも一緒に、武士が出し物をしたり、
 農民と一緒に騒いだりしてる。
 一種のユートピアとして描かれているんですね。」


それはやはりネイティブインディアンを滅ぼしてしまった
アメリカ人の重苦しい罪意識を、
日本のユートピア発見で、
そらしたいというイメージ設定なのでしょうかね?

「このユートピアに入り込むことで、
 傷ついたオルグレンはよみがえるわけです。
 そういう意味では、この村が、
 というよりも、この映画に出てくる日本という国自体が、
 オルグレンをよみがえらせるために存在する
 夢の国なんですね。
 傷ついた都会人を癒してくれる
 〈心のふるさと〉みたいなもんです。
 勝元はトトロなのかな」



第四回のまとめ

武家屋敷は、寺ではない。
たか(小雪)は、江戸時代の常識なら、
オルグレンにアダ討ちすべきである。
武士の身分制度はキビしいもので、
武士内での差別もとてもキビしい。
誇りうんぬんの前に、その差別あっての階級制度だ。
もちろん農民との距離はハンパなものではない。

ざ〜〜んねん、ギリ!


それでは佐伯先生の著書
「戦場の精神史」を読んでみましょう。
112ページ

「平家物語」などの合戦が、
正々堂々たるフェアプレイという印象を与えるのは、
こうした妙技
(その前の節に書いてある、
 矢をくぐるようなアクロバチックな技)
を語る場面にも一因があるだろうが、
そうした場面は、
合戦の真実を伝えようとする語り口ではなく、
私たちがスポーツやサーカスの妙技を楽しむように、
合戦の場の離れ技を誇大に語り、
楽しもうとする語り口によって
演出されたものであるといえよう。
言い換えれば、
祭りや芸能の場にふさわしいような語り口である。
(中略)
現代人がスポーツやテレビ中継や
グラビア雑誌で楽しむように、
中世の合戦の物語はかたられ、絵に描かれ、
作り物に作られて、人々の目や耳を楽しませた。


サエキの解説:
なにせ、娯楽の少ない昔のこと、
戦記物語は、琵琶法師のような語り部によって
テレビのようなイメージで楽しまれたのでしょう。
なにせスポーツというものがありませんから。
でも、救護設備もない当時の負傷の始末とかは、
さぞやキビシイものだったでしょうね。
先日は、若き琵琶語りの西原鶴真さんと
坂本龍一さんのJウェイヴ放送でご一緒しましたが、
脈々と続く、その伝統は、
メディアの荒波を乗り越える力強さです。


佐伯真一先生
1953年生まれ
専門は中世文学
同志社大学文学部卒
東京大学大学院文学研究科博士課程終了。
著書に「平家物語遡源」(若草書房)他




佐伯先生の「戦場の精神史」をサイン入りで販売します!
(これは珍しいぞ)

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サエキけんぞうトーク&ライブ
「ジョン・レノン・アコースティック
 〜誰も語らなかったジョン」

2005年1月22日(土)at. 鶴見ラバーソウル

OPEN 19:30 START 20:30
CHARGE : ¥2,500(ご飲食代別)

【出演】サエキけんぞう/プラスティック小田バンド

音楽誌連動企画第1弾!
今回はレコード・コレクターズ12月号に
「ジョン・レノンの曲作りプロセス」
について寄稿したサエキ氏が、
曲の演奏を交えて語りつくす‥‥という企画です。
8時30分きっかりに、膨大な量の音源をかけながら、
ジョンの影響を受けたアーティストを、
目からウロコの音源比較で明らかにしていく、
国際的にも注目の発表が始まる! 歌もあり!

協力するのは、
ジョン・レノン・ミュージアム・コンテスト2003で
優秀賞を獲得した「プラスティック小田バンド」です。

鶴見ラバーソウル
http://www.beatle-japan.com/livehouse/
(京浜東北線、鶴見駅下車10分、
 ちょっとだけ迷いそうなところにあるので、
 地図・電話番号を忘れずに。
 地図は上記のURLから。
 美味しいラーメン屋が一階にあります)
第7回テクノエレガンス
新春第一回のテクノエレガンス!

今回は、若さムンムン(死語)
躍進するウサギチャンレコーズから
話題のYMCK! ポータブルなサウンドを堪能あれ!
キューティ・パイはテクノ歌謡ファンには見逃せない
マニアックな少女2人組。
「テクノ情報局」で持ち込み音源かけます! よろしく

1月28日(金) 19:00 OPEN / 23:00 CLOSE
\2,800(1D/当日) / \2,500(1D/ADV)
at. 青い部屋
【GUEST LIVE】
YMCK http://www.ymck.net
CutiePai http://www.cutiepai.com/
【テクノ情報局】
サエキけんぞう&平田順子(元FLOOR net編集部)
【HOST BAND】
ジーニアス http://genius.main.jp/
【DJ】
JUNKO HIRATA ,ELEKTEL
http://www.shinomiya.ne.jp/polymoog/
【VJ】
faction bleu http://www.bleu.ne.jp/

青い部屋
東京都渋谷区渋谷2-12-13八千代ビルB1F
tel / fax03-3407-3564
青い部屋事務局
渋谷区渋谷1-20-22北沢館402(火土日祝日定休)
tel /fax03-3406-2322
info@aoiheya.com
サエキのHPがブログになったよ。
トラックバックとか、コメントとか入れてくれんかいのう。
http://www.saekingdom.com/

サエキさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「サエキさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-01-20-THU
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