虚実1:99 総武線猿紀行 |
総武線猿紀行第219回 「え、その場面ホント? 『ラストサムライ』を2倍楽しもう!」 〜佐伯先生と新春・武士の勉強〜その6〜 アメリカではサケは堕落の象徴かもしれないけど、 日本ではそんなことないンダヨ! 糸井さんが先日、 「1月はあくまで正月。 正月いっぱいはけっこうのんびりしたもんダ」 といった内容のことを書かれました。 その言葉に、ジーンと来ましたね。 時代は西友24時間営業。 過酷な営業努力に泣けてきます。 その一方で、24時間営業を検討するコンビニも 出てきたようではありますが‥‥。 ところで、暗闇。 都市部では、年々、夜が夜らしくなくなってる日本ですが、 30年前の夜が、もっとなんとも深く、 トロっとしていたことを、僕は思い出します。 さらに100年前、あるいは、江戸時代、戦国時代の闇とは、 いったいどれほど深いものだったのでしょう? まだまだ正月。ギリギリ正月。 昔の武士は、正月の闇に何を期したんでしょうか? レンタルDVDに焼酎、キュウリにミソでもつけて、 佐伯先生による、頭脳を整えるお得なウンチク、 新春、新しいジャパネスクなひとときを貴方に‥‥。 先生、こんにちわ。 「こんにちわ」 村はずれの小さな水源で、 裸で行水しているたか(小雪)を、 通りがかった反乱軍の捕虜 オルグレン(トム・クルーズ)が見ます。 「失礼」といいながらも、 小雪をしげしげと見るオルグレン。 この映画唯一のエロティックなシーンです。 「本当にすごく失礼だよ」 そうですね(笑)。 さてその後、明治政府の「忍者軍団」を使った 村祭りへの闇討ちのあと、新橋か横浜らしきところに、 オルグレンが釈放されて戻ってきます。 そこでは、武士のチョンマゲを警察官らしき人が 無理やり断髪したりしているシーンが印象的です。 こうしたことは、まあ、 明治の風物詩になったのかもしれません。 しかし、一方で、坂本竜馬をはじめとして、 いわれなくても断髪していた武士も多いのでは? 実際のところ、チョンマゲはどの程度、 武士の魂だったんでしょうか? 「チョンマゲは武士以外もみんなしてましたから、 別に武士の魂ではないです。 それに、散髪は一応自由意志なんですよね。 いつまでもマゲを結っている人もいたはずです。 しかし、それほど厳しい強制をしなくても、 多くの日本人がザンギリ頭にしたのではないでしょうか。 帯刀をやめさせる問題ほどの抵抗は なかったと思います」 そうですか? 刀を持つことをやめさせることのほうが 抵抗があったわけですね。 アメリカも銃規制に対する反対は根強いですからね〜。 そして、この後、 反乱軍の勝元、捕虜のオルグレンは 江戸城にて天皇陛下に接見をします。 これはちょっとヘンですね。 「いやはや、全く勝元さんの立場がわからない。 政府側に呼び出されている。 天皇が身の安全を保証した ということになるわけですよね。 勝元は政府軍の偉い人をすでに殺している。 そんな反乱軍の親玉を許すのはおかしい。 一度、反乱を起こしたものが 身の安全を保証されるわけがないですね〜」 それで、天皇は勝元にノンビリと 「ソナタは私にも弓を引くのか?」 とか質問もしている。 「前にも言ったけど、 天皇と直接話しちゃいけないんだって」 この勝元と天皇が ノンビリ立ち話しているシーンは印象的ですね。 「天皇に限らず、貴人が用もないのに 歩きながら話すことはないですね。 とってもお行儀が悪いです。 まして、反乱軍の親玉と歩きながら話しませんよ。 天皇は御簾の奥に座って、 言葉を一々誰かに取り次いでもらいながら 話さなきゃいけません。 こんなことしてたら危険なのはもちろんですが、 清くあるべき天皇がケガレてしまいますね」 そういえば、タランティーノ監督の「キルビルvol.1」には 忍者姿の主人公女性が、飛行機にカタナを持って乗る、 ありえないシーンがあります。 今は、ボンナイフも持って乗れませんからね。 一種のサービスのように思えました。 この映画でも勝元が、 天皇の前でカタナを持っていますが‥‥? 一応、武士の魂ではありますけど‥‥。 「護衛の兵以外は、天皇の前でカタナを持ってはいけない。 危ないから。 そうとうヘンなシーンなんですよ。これも。 それから、勝元に対して、 天皇がカタナをたてまつろうとするけど、 そんなわけがない。 要するに、 天皇が武士の親分みたいに描かれているわけですが、 それは全くもっておかしいです。 本来、天皇は、武家に対立する公家の親分なのです」 そうですよね。確かにそこは日本歴史の根本ですね。 「アーサー王を思わせる。 王様自ら、カタナを持って切り込む というイメージでしょうか?」 さて、大村益次郎と名前だけしか似ていない、 元老院議員、大村ですが。 大村がオルグレンにサケを勧める。 捕虜としてはサケを要求したオルグレンは、 ここでは、サケを拒否します。 大村はサケを呑みますが、 オルグレンは、村で更生したというイメージで語られます。 「オルグレンは武士道で更生したということなんでしょう。 サケはアメリカ人にとって腐敗堕落の象徴なんですね。 アメリカは清教徒(ピューリタン)の国だから。 そういう感覚がこのシーンにはあるんですね。 しかし、実際は日本の武士は サケを戦の前に好んで飲むのです。 勢いつけて、さあいくぞ、てなもんです。 日本ではサケは御神酒(おみき)で、 命の源みたいな扱いですしね。 近代文明の腐敗の象徴として 酒がとらえられているところに、 西洋文化というか、 アメリカ的なイメージが入っています」 第六回のまとめ 昔の天皇は歩きながら話さない。 武士と天皇家は、対立した存在である。 アメリカでは、サケは堕落の象徴。日本では命の源。 残念、ギリ! それでは佐伯先生の著書 「戦場の精神史」を読んでみましょう。 160ページ 『太平記』が竹沢や江戸 (註:だまし討ちを成功させた登場人物) のことを悪く書いているのは、 人々を戒める深慮があってのことである。 皆がこうした陰謀を好むようになっては、 敵も味方も安心できず、 まことに危ういことになるからである。 良将は、一生に三度の大事に限って、 このような謀略を用いる。 将がいつもは虚言をせず、 必ず約束を守るようにしているのは、 いざという時にこうした謀略を成功させるためなのである。 (『太平記』について、戦国時代末期に書かれた解説) <サエキの解説> みんながだまし討ちや陰謀を 年がら年中するようになっては、 危なくて世間は安全もへったくれもない。 だから、道徳としてはそれを戒めておかなければならない。 それに、年がら年中ウソついてると、警戒されてしまう。 だから、ふだんは正直にしておいて、 大切なとき=一生に三回ぐらいは、 伝家の宝刀を抜いて、だまし討ちをする! のですと。 いざというときの謀略を成功させるために、 普段は正直な生活をする。 なんとまあ、油断もすきもない時代だったのですね‥‥ 戦国時代という時代は。
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2005-01-27-THU
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