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虚実1:99
総武線猿紀行

総武線猿紀行第293回
「ジ・エンドへのカウントダウン
 そのマイナス8番」
〜これからの方々と、対談10番勝負〜
その3「『神楽』で日本の未来を切り開け!
元PINK福岡ユタカ!」

今回のお客様は、サエキが80年代に
パール兄弟をやっていたとき、
ライバルorちょっとだけ先輩バンドとして、
超絶テク集団の名を馳せたバンド、
PINKのエンちゃんこと
福岡“雄たけび”エンちゃんの登場です!
PINKは、ラルクのプロデューサー・岡野ハジメや、
ホッピー神山を輩出、
PINKの前身は、近田春夫とヴィブラトーンズで、
パール兄弟の窪田晴男が在籍。
PINKとパール兄弟は兄弟バンドなのです。

さて、そのPINKで、現代人とは思えない
雄たけびボーカルを披露していた
ボーカリストの福岡ユタカさんは、
原始の香りがする強烈なキャラクター。
バリ島の音楽“ケチャ”のグループの長の人に、
その民族音楽的センスを買われ
「一緒にケチャをやらないか?」といわれたこともある。
それは外国人には極めて異例の名誉なこと。
仲間はエンちゃんの実力を思い知ったもの。

報道番組「ニュースステーション」のテーマ曲
『NEW STREAM 2000』の雄たけびでも有名な彼が、
最近、故郷島根の神楽を
熱心に紹介していることが気になった。
5月30日には、
「石見神楽東京公演」
@有楽町朝日ホール(美川西神楽保存会主催)を
身をなげうって応援するという。
総勢30名ほどの社中の皆さんの手で行われる興業は、
単独社中としては東京で初めての大きな試みとのこと。
エンちゃんの「オタケビ神楽団」も
神楽との新しい試みをここで披露するそうです。

グローバル化で過疎化が進む日本で、
魂の故郷を求めるようなエンちゃんの
神楽への想いを聴いてみることにしました。

サエキ で、「神楽」なんだけど、
エンちゃんは島根出身で、
地元にあったから子供の頃から親しんでたと。
エンちゃん そうそう。久しぶりに会う人は
みんなびっくりすんだけどね、
いきなり俺が「神楽」とか言うとさ。
島根県は出雲と石見にわかれるんだけど、
石見は人口が20万人くらいで、
中でも俺の田舎の浜田市は
今は合併して6万弱。
で、その人口のとこで、
神楽の社中が50社中もあるわけです。
サエキ そりゃすごいね。約1000人に1社中だ。
エンちゃん 石見地方には150から
200社中あるっていわれてます。
もともと出雲が
「神話の里」で有名なんだけど、
どういうわけか神楽は石見が盛んで。
サエキ エンちゃん自身も
小さい頃からやってたの?
エンちゃん それがさー俺はさ、当時人口5万人の中で
シティーボーイだったのよ。
神楽の社中があるのは農村地域だから山間部で、
シティーボーイだった
俺のとこにはなかったのよ。
だけど、祭りにはいろんな社中が来てた。
ひとつの団体が年間に
30回くらい公演してるからね。
全部の社中あわせたら
何百回やってんのってかんじでしょ。
だから空気のようにありましたよ。
サエキ ところで基本的な質問。
神楽って日本全国で
どのくらいやってるものなの?
エンちゃん 本によれば、昔は2000くらいあったと。
今も北から南まであるよ。
有名所では、岩手の花巻のあたりの
「早池峰神楽(はやちねかぐら)」。
東京の「江戸の里神楽」も
四社中あって、うまいよ。
サエキ へー。
エンちゃん 中部地方ではちょっと神楽とは違うけど
奥三河の「花祭」、
あとはうちの「岩見神楽」、
岡山の「備中神楽」。
四国は「本川神楽(ほんかわかぐら)」。
俺、見に行ったけど。
ほんと山の中で、修験道系なんだよ。
九州は有名な「高千穂神楽」
「銀鏡神楽(しろみかぐら)」とか
‥‥ってわけで、日本全国にあるわけですよ。
サエキ 神楽の起源ってどういうもんなの?
エンちゃん よくいわれるのは、
古事記にある「天の岩戸開き」。
アマテラスが隠れて、
その前でアメノウズメが踊ったって
いわれる話とされてるけど、
そんなのはわかんないよね。
神話なんて後づけで書いてるもんだし。
サエキ 直感的には、どのくらいの時期に
はじまってると思える?
エンちゃん 直感として、古事記より古いと思います。
サエキ 原始祭祀ってこと?
エンちゃん そうそう。弥生時代、
ヘタしたら縄文時代、
それぞれの集落で、
神様への畏れだとか、
収穫に対してのお願いだとか、
必ず宗教的な何かやってたでしょ。
みんなで酒飲んで騒いだりしてさ。
そういうのが名前は違うけど
神楽なんですよ。
神を楽しませるためのものなんだから。
サエキ だとしたら、神楽っていうのは、
地方によってかなり
違うものになるはずだよね。
2000年もあるんだから。
エンちゃん なるなる。ただ、神楽の一番基本は
「神懸かり」だと言われていて。
いわゆる「神降ろし」をして、
神様の託宣(たくせん)を
聞くっていうのがあるんだけど、
それが神楽のベースで、
そこから来てるんだと。
サエキ どんな神様を降ろすの?
エンちゃん いわゆる記紀神話
(「古事記」と「日本書紀」)系の
神様じゃなくて、
名前もしらない鎮守の神様、
おらが村の神様。名前のある神じゃなくて、
山の神、とかそういう。
サエキ もっと、地域密着な神ですね。
エンちゃん 俺の田舎の山奥のほうにある
「大元神楽(おおもとかぐら)」では、
神懸かりさせる「託舞(たくまい)」を
今でもやってます。
「託太夫(たくだゆう)」っていう
神懸かりをする役割の人がいて、
その人を揉んでいって神懸かりすると
藁蛇(わらじゃ:蛇に見立てられた巨大な縄。
龍神、水の神の意)にしがみついて、
それを乗り越えようとするようになるの。
藁蛇はつまり注連縄(しめなわ)で
結界の意味があるからさ、
乗り越えると死ぬって言われてて、
その状況になるのが懸かった証しになる。
で、乗り越える前に神職が落として、
「山の神様、
 今日のお祭りはいかがでしたか?」
って聞くの。
その後は「おかえりください」って戻す。
今は、これを司る神主さん自体が
いなくなりつつあるから、
なかなかできない。
俺も3回くらい見に行ったけど、
ここ10年くらい、
懸かったのは1回だけだったな。
サエキ 懸かる人は特別なの?
エンちゃん こういう時にどういう人が
懸かるかっていうと、
「正直者」っていわれてて。
汚い心をもった、
俺のようなやつはダメなの(笑)。
懸かかりやすい人は当然いて、
昔は氏子も懸かったりしたよ。
前回に続けて同じ人が
懸かったりするんだけど、
今回も前回と同じ社中の代表者が懸かった。
その方はもうお歳なんで、
代替わりしたがってるらしいんだけど、
一人目の若い託太夫の時は
うまくいかなかったのに、
彼の番になったらすぐ。
昔は「うわああああ」
って凄い勢いだったけど、
さすがに年のせいか、
少し勢いは落さえめだったけど(笑)。
サエキ

あはは(笑)。

<インタビュー中、
 エンちゃん所有の神楽のビデオを見る。
 トランス状態、神懸かりになった人の様子も。
 とりつかれたように縄にしがみつく。
 いわゆる狐つきみたいな、
 発作的な行動にも似ていた。
 もちろん、YouTubeには載っていない。
 石見の代表的なヤマタノオロチの
 ビデオが上がっていたので、
 そのエキサイティングな様子は
 例えばこんな感じ>。


▲福岡ユタカ蔵の現地ビデオより。
 激しく舞い踊る神主の姿。
 YouTubeにはあまり良い映像がありません。

エンちゃん ま、そんなわけでおらが鎮守の
神様を降ろして、神懸かりになってやる、
それが神楽の基本なわけですよ。
それから次に
古いものが残っているという意味では、
陰陽道の影響がかなり入ってますね。
サエキ どう入ってるんですか?
エンちゃん 舞殿の作りとか全部ね。
東西南北、色がわけられていて、
各々の神様の名前が付けられてたりとか。
演目にも陰陽道にちなんだのがいろいろあって、
こういうのの起源は古いらしい。
かえって記紀神話系の演目は
江戸時代から加わったんじゃないかって
言われてます。
サエキ 江戸からなんだ。
エンちゃん 「国学」の影響で
「日本神話を元に日本を立て直すべし」、
みたいな運動から記紀神話をもとにした
神楽が出て来たんじゃないかと。
あとね、明治の廃仏毀釈で、
神職に歌舞音曲禁止令が出て
「神職は踊ったり、歌ったりするのはやめろ」
となったのも大きな変化。
それまで神社と寺が全部一緒に
グダグダやってたのを、明治になって
「国体をちゃんとしなきゃいけない」
と神職と仏教を別れさせた。
で、オーバーにいえば
「神楽みたいなふしだらなマネはやめろ」
となったと。
サエキ 神楽にも地方の祭にあるような、
性的な要素があったんだ。
エンちゃん そうそう。今もあるよ。
で、歌舞音曲禁止令が出た当時の石見では、
すでに相当盛んだったから、
神職が神楽を氏子に全部教えたと。
それを氏子が全部覚えて、
社中がどんどんできて栄えた。
サエキ そこに境目があったんだ。
残るか残んないかの。
エンちゃん わかんないけどね、たぶん。
ま、でも、全国に神楽は残ってるけど、
異様に盛り上がってるのは
岩見神楽なんですよ。
明治に民衆におりてきたら、
元々神楽好きだから神楽バカが増えちゃって。
で、どんどん、変革していくわけですよ。
浜田は漁師町でもあって
漁師は気が短いから
テンポも早くなったりね。
面も昔は木だったのが、
今は石州半紙(せきしゅうばんし)を
10枚くらい張り合わせて作ってある。
繊維が長くて、
すごく丈夫な和紙なんだよね。
ま、そういうふうに変えてったわけです。
サエキ ほー。
エンちゃん

ご多分にもれず、
うちの田舎も景気が悪いし、
若者が東京に出てっちゃうとか
そういうのもあるんだけど、
うれしいことに、神楽がやりたいから、
田舎に残るっていう若者がいるんですよ。
ちなみに神楽の面とか衣装とか
作ってる職人も浜田にいるんだけど、
彼らはプロで
何年先までも受注が入ってるって。
全国から注文がくるんでクライアントは
500社中超えるらしい。


▲神楽に使用されるお面で、福岡ユタカ氏蔵。
全国から発注が来るという。
これが石見の重要な産業になってもいる。

サエキ 神楽をやるために、地元に人が残って、
衣装の産業もちゃんとなりたってるんだ。
すごいねー石見神楽は。
エンちゃん ただね、どんどん派手に
なったところもあるんで、
無形文化財にはならない。
だって、国が保護しないで
放っといても全然オッケーなんだもん。
「神楽はずっと同じこと
 やってるんじゃダメなんだ」とは
前に高千穂の人も言ってたけど、
宵の口からオールナイトで、
しかも飲みながらやるのが基本で、
そういう中で観客と共に
育っていくもんだから
「ここは絶対変えちゃいけない」
っていうもんでもない。
サエキ 伝統があるのに、自由なんだね。
エンちゃん うちのほうは、
多少エスカレートしてるところはあるんだけどね。
家元制度とかもないから、
社中も立ち上げてもいいし、
新しいことをしたいとか、
面白いことしたいってやつも出てくるの。
ようするにバンドと一緒なのよ。
練習場所も作って、衣装もだーんと買って、
なんとか社中って立ち上げちゃう。
流行り廃りもあるから
「あそこの社中はこんなことやってる、
 俺らんとこもやろうぜ」みたいな。
でもやりすぎると、下手したら
「トラック野郎」みたいに
なんじゃねーかって(笑)。
サエキ ちょっとヤンキー文化っぽい?
エンちゃん そういう感じもあるわけですよ。
ある意味、レゲエ神楽っていうか、
ストリート神楽なんですよ。
実際に盛んで、民衆の中で今も生きてるんだよね。
サエキ とはいえ神事は神事なんでしょう?
変わって行く中でも
守らなければならない
スピリットのようなものは、
はっきりと実態として感じてるもんなの?
エンちゃん 一応、社中の中にも
保守派とか改革派とか理論派とか、
いろいろいることはいるのよ。
だけど、普通はあんまり
考えてないんじゃないかな。
「昔から続いていることをやってる」
って気持ちはもちろんあるだろうけど。
サエキ 僕らは神社に行くといっても、
ただおみくじ引きに行くようなもんで、
なかなか神を体感することはない。
神楽でそういう実感があるとしたら、凄いね。
普通の現代人は、
神を感じられないから
ストレイシープ(迷える子羊)に
なってると思う。
エンちゃん たぶんね、「今も生きてるものである」
ってことは、もっと自然な感覚なんだよ。
だからあんまり考えてない。
あとね、山陰は交通の便がすごく悪くて、
エンターテインメントなんて
他からこなかったわけ。
だから神楽が神事とあわせて
全部引き受けてたんですよ。
民衆の表現したいって欲求とか
祭りの欲求までね。
サエキ なるほどね。
その交通の便が悪いから
生き延びたっていうのは重要だね。
今って徹底的にグローバル化することで
ローカルが駆逐されて、
いろんな芸能とかが
潰されていっているわけだけど、
そんな中でも面白いことに
神楽が盛り上がっていると。
エンちゃん たしかに、そういうのは
2000年頃から俺も感じてた。
えっとね、たとえば
アマチュアバンドが
うちの田舎にもあるわけですよ。
でもね、行くと、あんまり元気ないの。
サエキ わかるわかる。
エンちゃん でね、俺らがロックはじめた頃って、
「俺らより上の奴らなんか知らねえ、
 俺らの音楽だぜ」
みたいな感じだったじゃないですか。
でも今の若者がロックとかいっても
「そのギターの弾き方ちゃう!」
ってオヤジから言われるわけじゃん。
「お前、知らないね」って。
それじゃかわいそうだよね。
サエキ 上から何もいわれないから、
僕らはノビノビできたんだよね(笑)
エンちゃん かわいそうだよ。
神楽だって依り代としては、
昔からあるものなんだけど。
だけど彼らにとってみれば
新しいものかもしれないよね。
石見の若者にとって、
ロックよりも
ノビノビとできるのかもしれない。
そこが長く続いてる理由なのかもしれない。
あとは周縁文化論じゃないけど、
中心はどんどん変わっても、
地方にはまだ古いものが残ってるわけで、
それが逆コースの地域活性で、
今度は中央に入っていったら面白いな、
とも思うよね。
今度の東京での試みが、
その第一歩と思ってるんだ!
サエキ 「東京目線で辺境が面白い」
っていう1980年代の
ワールドミュージック的な
地方文化の見方があった。
都市中心の興業と消費で終わった。
高みから見てて、
本当の地方活性につながらなかったんだ。
で、地方を潰したんだよね。
でも、デジタル化時代で
みんな東京化した結果、
良くわからないんだけど、
一部で本当の意味での
地方活性化が起こっている場合がある。
千葉九十九里浜沿いの、
海の祭りなんかもそう。
エンちゃん 早い話、神楽ってのは
「地域コミュニティ」
そのものでもあるんですよ。
俺の中では、そのプラットフォームが
壊れないうちに、
うちらの仲間でやろうというのもある。
花祭やってる奥三河なんて
限界集落に近づいてるからね。
だったら、難しいこと言ってる間に、
原点に戻ったほうがいい。
生活の上にたつプラットフォーム作りって、
深い話しでね。
そんなものがツイッターなんかで
できますか? ってね。
サエキ そうだよね!
お互いツイッターやってるけどそう思うよね!
エンちゃん 俺はネット系の世界が
新しいプラットフォームになるかなんて、
どう考えても無理だと思う。
だとしたら、俺たちの場合は
神楽を再構築したほうがよっぽどいいじゃん。
手っ取り早いし。確実だし。
サエキ すでに「いいな」と思ってる若者もいると。
エンちゃん そうだよ。
絶対、こっちのほうがいいに決まってんじゃん。
サエキ エンちゃんの物のいい方は身近ですよ。
やっぱり高みから言わないところで、
本物の文化は活性化してくんだなー。
東京公演は、エンちゃんのグループも
出るんだよね!
エンちゃん 頑張ります! おかげさまで売り切れた。
またやりますので、
その時は必ず見に来て欲しい!


「石見神楽東京公演」
5月30日(日) 有楽町朝日ホール
東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11階
*島根県浜田市の石見神楽社中「美川西神楽保存会」の
 初東京公演
【出演】美川西神楽保存会
    オタケビ神楽団(福岡ユタカ)
●前売券/全席自由(税込)
大人¥4,500 小人(3歳〜高校生)¥2,000
(当日大人¥5,000、小人¥2,500) ※3歳未満無料
●主催:美川西神楽保存会
【チケットに関するお問合せ】
サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
【公演に関するお問合せ】
美川西神楽保存会(事務局 下野)080−4206−1456
福岡ユタカ公式サイト
美川西神楽保存会公式サイト

チケットは完売した模様ですが、
興味がある方はお問い合わせ下さい。
以下、当日もちょっとだけあります。
「〜Early Summer
 〜ポール・マッカートニー初来日公演を歌う」

ポール・マッカートニー初来日から20年を迎える2010年。
そんなポールが街の片隅のパブでもしも歌っていたら‥‥
初夏の夕暮れにふさわしく、
オープンエアーのブリティッシュ・パブで
ビールとフィッシュ&チップス片手に
大人の時間を楽しみませんか?
5月27日(木)18:30 open/19:30 start
出演:伊豆田洋之
司会:サエキけんぞう
会場:大崎 FOOTNiK
(ThinkPark 1F TEL: 03-5759-1044)
アクセス:JR大崎駅・南改札口を出て
夢さん橋を新西口方面へ約50m、
右手エスカレーターを降りた正面です(徒歩約1分)
料金:前売 3,500円 / 当日4.000円 (共に飲食別)
お問合せ: パールネット
pearlnet@nifty.com
サエキけんぞうHPも来てね!
http://www.saekingdom.com/

サエキさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「サエキさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2010-05-26-WED
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