サエキ |
で、「神楽」なんだけど、
エンちゃんは島根出身で、
地元にあったから子供の頃から親しんでたと。 |
エンちゃん |
そうそう。久しぶりに会う人は
みんなびっくりすんだけどね、
いきなり俺が「神楽」とか言うとさ。
島根県は出雲と石見にわかれるんだけど、
石見は人口が20万人くらいで、
中でも俺の田舎の浜田市は
今は合併して6万弱。
で、その人口のとこで、
神楽の社中が50社中もあるわけです。 |
サエキ |
そりゃすごいね。約1000人に1社中だ。 |
エンちゃん |
石見地方には150から
200社中あるっていわれてます。
もともと出雲が
「神話の里」で有名なんだけど、
どういうわけか神楽は石見が盛んで。 |
サエキ |
エンちゃん自身も
小さい頃からやってたの? |
エンちゃん |
それがさー俺はさ、当時人口5万人の中で
シティーボーイだったのよ。
神楽の社中があるのは農村地域だから山間部で、
シティーボーイだった
俺のとこにはなかったのよ。
だけど、祭りにはいろんな社中が来てた。
ひとつの団体が年間に
30回くらい公演してるからね。
全部の社中あわせたら
何百回やってんのってかんじでしょ。
だから空気のようにありましたよ。 |
サエキ |
ところで基本的な質問。
神楽って日本全国で
どのくらいやってるものなの? |
エンちゃん |
本によれば、昔は2000くらいあったと。
今も北から南まであるよ。
有名所では、岩手の花巻のあたりの
「早池峰神楽(はやちねかぐら)」。
東京の「江戸の里神楽」も
四社中あって、うまいよ。 |
サエキ |
へー。 |
エンちゃん |
中部地方ではちょっと神楽とは違うけど
奥三河の「花祭」、
あとはうちの「岩見神楽」、
岡山の「備中神楽」。
四国は「本川神楽(ほんかわかぐら)」。
俺、見に行ったけど。
ほんと山の中で、修験道系なんだよ。
九州は有名な「高千穂神楽」
「銀鏡神楽(しろみかぐら)」とか
‥‥ってわけで、日本全国にあるわけですよ。 |
サエキ |
神楽の起源ってどういうもんなの? |
エンちゃん |
よくいわれるのは、
古事記にある「天の岩戸開き」。
アマテラスが隠れて、
その前でアメノウズメが踊ったって
いわれる話とされてるけど、
そんなのはわかんないよね。
神話なんて後づけで書いてるもんだし。 |
サエキ |
直感的には、どのくらいの時期に
はじまってると思える? |
エンちゃん |
直感として、古事記より古いと思います。 |
サエキ |
原始祭祀ってこと? |
エンちゃん |
そうそう。弥生時代、
ヘタしたら縄文時代、
それぞれの集落で、
神様への畏れだとか、
収穫に対してのお願いだとか、
必ず宗教的な何かやってたでしょ。
みんなで酒飲んで騒いだりしてさ。
そういうのが名前は違うけど
神楽なんですよ。
神を楽しませるためのものなんだから。 |
サエキ |
だとしたら、神楽っていうのは、
地方によってかなり
違うものになるはずだよね。
2000年もあるんだから。 |
エンちゃん |
なるなる。ただ、神楽の一番基本は
「神懸かり」だと言われていて。
いわゆる「神降ろし」をして、
神様の託宣(たくせん)を
聞くっていうのがあるんだけど、
それが神楽のベースで、
そこから来てるんだと。 |
サエキ |
どんな神様を降ろすの? |
エンちゃん |
いわゆる記紀神話
(「古事記」と「日本書紀」)系の
神様じゃなくて、
名前もしらない鎮守の神様、
おらが村の神様。名前のある神じゃなくて、
山の神、とかそういう。 |
サエキ |
もっと、地域密着な神ですね。 |
エンちゃん |
俺の田舎の山奥のほうにある
「大元神楽(おおもとかぐら)」では、
神懸かりさせる「託舞(たくまい)」を
今でもやってます。
「託太夫(たくだゆう)」っていう
神懸かりをする役割の人がいて、
その人を揉んでいって神懸かりすると
藁蛇(わらじゃ:蛇に見立てられた巨大な縄。
龍神、水の神の意)にしがみついて、
それを乗り越えようとするようになるの。
藁蛇はつまり注連縄(しめなわ)で
結界の意味があるからさ、
乗り越えると死ぬって言われてて、
その状況になるのが懸かった証しになる。
で、乗り越える前に神職が落として、
「山の神様、
今日のお祭りはいかがでしたか?」
って聞くの。
その後は「おかえりください」って戻す。
今は、これを司る神主さん自体が
いなくなりつつあるから、
なかなかできない。
俺も3回くらい見に行ったけど、
ここ10年くらい、
懸かったのは1回だけだったな。 |
サエキ |
懸かる人は特別なの? |
エンちゃん |
こういう時にどういう人が
懸かるかっていうと、
「正直者」っていわれてて。
汚い心をもった、
俺のようなやつはダメなの(笑)。
懸かかりやすい人は当然いて、
昔は氏子も懸かったりしたよ。
前回に続けて同じ人が
懸かったりするんだけど、
今回も前回と同じ社中の代表者が懸かった。
その方はもうお歳なんで、
代替わりしたがってるらしいんだけど、
一人目の若い託太夫の時は
うまくいかなかったのに、
彼の番になったらすぐ。
昔は「うわああああ」
って凄い勢いだったけど、
さすがに年のせいか、
少し勢いは落さえめだったけど(笑)。 |
サエキ |
あはは(笑)。
<インタビュー中、
エンちゃん所有の神楽のビデオを見る。
トランス状態、神懸かりになった人の様子も。
とりつかれたように縄にしがみつく。
いわゆる狐つきみたいな、
発作的な行動にも似ていた。
もちろん、YouTubeには載っていない。
石見の代表的なヤマタノオロチの
ビデオが上がっていたので、
そのエキサイティングな様子は
例えばこんな感じ>。
▲福岡ユタカ蔵の現地ビデオより。
激しく舞い踊る神主の姿。
YouTubeにはあまり良い映像がありません。 |
エンちゃん |
ま、そんなわけでおらが鎮守の
神様を降ろして、神懸かりになってやる、
それが神楽の基本なわけですよ。
それから次に
古いものが残っているという意味では、
陰陽道の影響がかなり入ってますね。
|
サエキ |
どう入ってるんですか? |
エンちゃん |
舞殿の作りとか全部ね。
東西南北、色がわけられていて、
各々の神様の名前が付けられてたりとか。
演目にも陰陽道にちなんだのがいろいろあって、
こういうのの起源は古いらしい。
かえって記紀神話系の演目は
江戸時代から加わったんじゃないかって
言われてます。 |
サエキ |
江戸からなんだ。 |
エンちゃん |
「国学」の影響で
「日本神話を元に日本を立て直すべし」、
みたいな運動から記紀神話をもとにした
神楽が出て来たんじゃないかと。
あとね、明治の廃仏毀釈で、
神職に歌舞音曲禁止令が出て
「神職は踊ったり、歌ったりするのはやめろ」
となったのも大きな変化。
それまで神社と寺が全部一緒に
グダグダやってたのを、明治になって
「国体をちゃんとしなきゃいけない」
と神職と仏教を別れさせた。
で、オーバーにいえば
「神楽みたいなふしだらなマネはやめろ」
となったと。 |
サエキ |
神楽にも地方の祭にあるような、
性的な要素があったんだ。 |
エンちゃん |
そうそう。今もあるよ。
で、歌舞音曲禁止令が出た当時の石見では、
すでに相当盛んだったから、
神職が神楽を氏子に全部教えたと。
それを氏子が全部覚えて、
社中がどんどんできて栄えた。 |
サエキ |
そこに境目があったんだ。
残るか残んないかの。 |
エンちゃん |
わかんないけどね、たぶん。
ま、でも、全国に神楽は残ってるけど、
異様に盛り上がってるのは
岩見神楽なんですよ。
明治に民衆におりてきたら、
元々神楽好きだから神楽バカが増えちゃって。
で、どんどん、変革していくわけですよ。
浜田は漁師町でもあって
漁師は気が短いから
テンポも早くなったりね。
面も昔は木だったのが、
今は石州半紙(せきしゅうばんし)を
10枚くらい張り合わせて作ってある。
繊維が長くて、
すごく丈夫な和紙なんだよね。
ま、そういうふうに変えてったわけです。 |
サエキ |
ほー。 |
エンちゃん |
ご多分にもれず、
うちの田舎も景気が悪いし、
若者が東京に出てっちゃうとか
そういうのもあるんだけど、
うれしいことに、神楽がやりたいから、
田舎に残るっていう若者がいるんですよ。
ちなみに神楽の面とか衣装とか
作ってる職人も浜田にいるんだけど、
彼らはプロで
何年先までも受注が入ってるって。
全国から注文がくるんでクライアントは
500社中超えるらしい。
▲神楽に使用されるお面で、福岡ユタカ氏蔵。
全国から発注が来るという。
これが石見の重要な産業になってもいる。 |
サエキ |
神楽をやるために、地元に人が残って、
衣装の産業もちゃんとなりたってるんだ。
すごいねー石見神楽は。 |
エンちゃん |
ただね、どんどん派手に
なったところもあるんで、
無形文化財にはならない。
だって、国が保護しないで
放っといても全然オッケーなんだもん。
「神楽はずっと同じこと
やってるんじゃダメなんだ」とは
前に高千穂の人も言ってたけど、
宵の口からオールナイトで、
しかも飲みながらやるのが基本で、
そういう中で観客と共に
育っていくもんだから
「ここは絶対変えちゃいけない」
っていうもんでもない。 |
サエキ |
伝統があるのに、自由なんだね。 |
エンちゃん |
うちのほうは、
多少エスカレートしてるところはあるんだけどね。
家元制度とかもないから、
社中も立ち上げてもいいし、
新しいことをしたいとか、
面白いことしたいってやつも出てくるの。
ようするにバンドと一緒なのよ。
練習場所も作って、衣装もだーんと買って、
なんとか社中って立ち上げちゃう。
流行り廃りもあるから
「あそこの社中はこんなことやってる、
俺らんとこもやろうぜ」みたいな。
でもやりすぎると、下手したら
「トラック野郎」みたいに
なんじゃねーかって(笑)。 |
サエキ |
ちょっとヤンキー文化っぽい? |
エンちゃん |
そういう感じもあるわけですよ。
ある意味、レゲエ神楽っていうか、
ストリート神楽なんですよ。
実際に盛んで、民衆の中で今も生きてるんだよね。 |
サエキ |
とはいえ神事は神事なんでしょう?
変わって行く中でも
守らなければならない
スピリットのようなものは、
はっきりと実態として感じてるもんなの? |
エンちゃん |
一応、社中の中にも
保守派とか改革派とか理論派とか、
いろいろいることはいるのよ。
だけど、普通はあんまり
考えてないんじゃないかな。
「昔から続いていることをやってる」
って気持ちはもちろんあるだろうけど。 |
サエキ |
僕らは神社に行くといっても、
ただおみくじ引きに行くようなもんで、
なかなか神を体感することはない。
神楽でそういう実感があるとしたら、凄いね。
普通の現代人は、
神を感じられないから
ストレイシープ(迷える子羊)に
なってると思う。 |
エンちゃん |
たぶんね、「今も生きてるものである」
ってことは、もっと自然な感覚なんだよ。
だからあんまり考えてない。
あとね、山陰は交通の便がすごく悪くて、
エンターテインメントなんて
他からこなかったわけ。
だから神楽が神事とあわせて
全部引き受けてたんですよ。
民衆の表現したいって欲求とか
祭りの欲求までね。 |
サエキ |
なるほどね。
その交通の便が悪いから
生き延びたっていうのは重要だね。
今って徹底的にグローバル化することで
ローカルが駆逐されて、
いろんな芸能とかが
潰されていっているわけだけど、
そんな中でも面白いことに
神楽が盛り上がっていると。 |
エンちゃん |
たしかに、そういうのは
2000年頃から俺も感じてた。
えっとね、たとえば
アマチュアバンドが
うちの田舎にもあるわけですよ。
でもね、行くと、あんまり元気ないの。 |
サエキ |
わかるわかる。 |
エンちゃん |
でね、俺らがロックはじめた頃って、
「俺らより上の奴らなんか知らねえ、
俺らの音楽だぜ」
みたいな感じだったじゃないですか。
でも今の若者がロックとかいっても
「そのギターの弾き方ちゃう!」
ってオヤジから言われるわけじゃん。
「お前、知らないね」って。
それじゃかわいそうだよね。 |
サエキ |
上から何もいわれないから、
僕らはノビノビできたんだよね(笑) |
エンちゃん |
かわいそうだよ。
神楽だって依り代としては、
昔からあるものなんだけど。
だけど彼らにとってみれば
新しいものかもしれないよね。
石見の若者にとって、
ロックよりも
ノビノビとできるのかもしれない。
そこが長く続いてる理由なのかもしれない。
あとは周縁文化論じゃないけど、
中心はどんどん変わっても、
地方にはまだ古いものが残ってるわけで、
それが逆コースの地域活性で、
今度は中央に入っていったら面白いな、
とも思うよね。
今度の東京での試みが、
その第一歩と思ってるんだ! |
サエキ |
「東京目線で辺境が面白い」
っていう1980年代の
ワールドミュージック的な
地方文化の見方があった。
都市中心の興業と消費で終わった。
高みから見てて、
本当の地方活性につながらなかったんだ。
で、地方を潰したんだよね。
でも、デジタル化時代で
みんな東京化した結果、
良くわからないんだけど、
一部で本当の意味での
地方活性化が起こっている場合がある。
千葉九十九里浜沿いの、
海の祭りなんかもそう。 |
エンちゃん |
早い話、神楽ってのは
「地域コミュニティ」
そのものでもあるんですよ。
俺の中では、そのプラットフォームが
壊れないうちに、
うちらの仲間でやろうというのもある。
花祭やってる奥三河なんて
限界集落に近づいてるからね。
だったら、難しいこと言ってる間に、
原点に戻ったほうがいい。
生活の上にたつプラットフォーム作りって、
深い話しでね。
そんなものがツイッターなんかで
できますか? ってね。 |
サエキ |
そうだよね!
お互いツイッターやってるけどそう思うよね! |
エンちゃん |
俺はネット系の世界が
新しいプラットフォームになるかなんて、
どう考えても無理だと思う。
だとしたら、俺たちの場合は
神楽を再構築したほうがよっぽどいいじゃん。
手っ取り早いし。確実だし。 |
サエキ |
すでに「いいな」と思ってる若者もいると。 |
エンちゃん |
そうだよ。
絶対、こっちのほうがいいに決まってんじゃん。 |
サエキ |
エンちゃんの物のいい方は身近ですよ。
やっぱり高みから言わないところで、
本物の文化は活性化してくんだなー。
東京公演は、エンちゃんのグループも
出るんだよね! |
エンちゃん |
頑張ります! おかげさまで売り切れた。
またやりますので、
その時は必ず見に来て欲しい! |