総武線猿紀行第296回
「ジ・エンドへのカウントダウン
そのマイナス5番」
斎藤環先生とカサヴェテス「こわれゆく女」を語る!
超お久しぶりです!
いよいよあと5回!
今回は、精神科医&評論家の斎藤環先生です!
なぜ、先生との対談が実現したか、というと、
僕がこのたび見た映画について、
意気投合したからなのです。
その映画は、ニュープリントの回顧上映が行われている
ジョン・カサヴェテスの作品、
「こわれゆく女」(1974年)。
『ジョン・カサヴェデス レトロスペクティブ』
オフィシャルホームページはこちら。
カサヴェテスはニューヨーク市出身で
ドキュメント作品
「アメリカの影」(59年)でデビュー。
ハリウッドのスタジオシステムを拒否した
インディーズの走りの作家です。
ゴダール、ジム・ジャームッシュ、
ヴィム・ヴェンダース、ショーン・ペン、
マーティン・スコセッシ、園子温など、
きら星のような信奉者達がいます。
「こわれゆく女」は、あのグッチが支援しての
復元ニュープリントということで、
オシャレな雰囲気を感じましたが、
映画の内容には驚きを隠せませんでした。
妻(ジーナ・ローランズ)を持て余す中年男
(刑事コロンボのピーター・フォーク!)は、
市のベテラン水道工事員で、職場でも慕われている。
しょっちゅう家を空ける夫に、
妻の気持ちは次第に昂ぶり、
ついに狂気の世界へ足を踏み入れる、という話。
この映画には、過去に色々なあらすじや解説が、
出ていますが、総じて全く、的を得てないと思えました。
主人公妻の狂気性について、どうも映画業界は、
まったく持て余しているように思えたのです。
そこで、同じこの映画に感銘を受けた
精神学者の斎藤環先生との対談を
企画したというわけです。
映画「ヘルター・スケルター」の原点となるような
この映画の秘密のサワリ‥‥ぜひ、ご覧下さい!
サエキ |
主人公の女性は、もうしょっぱなから、
神経症丸出しといえますよね。
この女性は、冒頭から
「ミスターグッドバー」にでかけ、
有無をいわさずオトコを拉致するように
逆ナン、自宅に連れ込んでSEXという
衝撃的な映画の幕開けです。
男を意識するとき、その表情が
くるくると絵巻物のように代わる。
神経症というか、統合失調症というか?
この映画が撮られたのは1974年ですが、
そうした病気には、時代は関係あるのですか? |
斎藤 |
この映画の撮られたのは1974年なんですが、
その頃はまだ多重人格というものが
十分知られておらず、
今のように流行してなかったんですよ。
辞書に載っているのも『二重人格』までです。 |
サエキ |
え? ザ・フーの
『四重人格』というアルバムが
1973年に出ているんですけど、
予言的ってことですね。 |
斎藤 |
多重人格、正確には
『解離性同一性障害』が
精神医学界で流行するのは
アメリカでは1980年代以降なんです。
日本では少し遅れて1990年代から。 |
サエキ |
すると、YMOを始めとする
ニューウェイヴ音楽が流行するのと、
ほぼ同時ですね。
実は、この主人公の神経症気味の妻
(ジーナ・ローランズ)の見せる
狂気の百変化の表情は
ニューウェイヴ時代の女性、
例えばニナ・ハーゲンやリーナ・ラヴィッチ、
フランスのリオといった
女性アーティストといった
女性とそっくりなんですよ。 |
斎藤 |
なるほど。1990年代以降の心理主義化の影響で、
映画の狂気表現はどんどん洗練されていきましたが、
カサヴェテスの狂気表現は
その意味ではまだ未分化ですね。
まだ“憑依”系が強いような印象もあります。 |
サエキ |
ああ、そうなんですか?
やはり文明の進化と関係ありそうですね。
で、先にあげた多重人格性を
アピールするアーティストは
みんな女性なんですが、
多重人格には、男性、女性の性差があるんですか? |
斎藤 |
多重人格は、女性に多いんです。 |
サエキ |
え? なぜ女性が多重人格が多いんでしょう? |
斎藤 |
多重人格は、
ヒステリーの現れ方の現代版ともいえると
私は思ってます。
そして、ヒステリーは男性もいますが、
やはり女性のほうがずっと多い。 |
サエキ |
ヒステリーは、時代時代に現れ方が違うんですか。 |
斎藤 |
ヒステリーというのは、
時代時代のリアリティを反映しやすい疾患なのです。
サエキ:
ああ、そうか。例えば江戸時代とかの
「キツネ憑き」は、その時代のリアルを表している? |
斎藤 |
そうですね。当時はおきつね様がリアルだったから、
それを演じられたわけですね。 |
サエキ |
ほほ〜! すると多重人格は、
現代的な女性のリアリティといえるんですね?
1978年頃にニューウェイヴ音楽がブームになり、
ニナ・ハーゲンや
リーナ・ラヴィッチが出てきたことは、
世界の女性の精神状況と対応していたのか?
かつ『こわれゆく女』は1974年ですから、
極めて予言的な作品といえることになりますね! |
斎藤 |
従来の様式的な狂気とは異なる
リアルな狂気を描いたという点からも、
この作品は予言的といえると思います。
ただ混乱もしていますね。
診断的にはかなり混沌とした狂気です。
多重人格的だったり、躁うつ病的だったり、
統合失調症のように見えたり。
もし今こうしたものを描くとすれば、
もっと我々が診断できるような
狂気になると思います。 |
サエキ |
でも診断するために
映画があるわけじゃないわけですから(笑)。
しかし、すると人格は、
物質的な環境や社会状況によって
どんどん変わっていってしまうんですね? |
斎藤 |
人格の居所、座のようなものは
どんどん変わっていってると思いますね。
以前は病むのは個人の主体でしたけど、
今はむしろ「人格の主体」なんて考え方よりも、
いきなり「脳」そのものに行ってしまうか、
あるいは「すべては環境の効果」とするか、
両極端な立場が主流のように思います。
まあ私の考えでは、
『脳』も『心』の環境みたいな所がありますから、
両者は実は一致するわけですが。 |
サエキ |
この『こわれゆく女』の主人公女性は
多重人格といえますか? |
斎藤 |
ボーダーライン(境界性人格障害)と
いえるような表現は沢山出てきますね。
孤独に耐えられなくて、男を誘ってしまったり、
傍目には“痛い”パフォーマンスに
走ってしまったりとか。
一種の人中毒ですね。 |
サエキ |
人中毒? 人に会わずに、
からまずにいられない状態ですね?
それは今でも、すごく現れやすい症状ですね。 |
斎藤 |
昔は、精神科医やカウンセラーなど、
治療者にからんでくる患者が沢山いたんですけど、
今は減りましたね。
ネットやゲームがあるせいかもしれません。
人中毒的な欲求は、
ネットゲーム上で依存しあうような
方向に向かっているのかも。
ネット中毒とか、ゲーム廃人とか。 |
サエキ |
そうした時代が、人格の扉を開く様子が、
この映画には明快に見て取れますね。
例えば、現代はイメクラのように
「私、今日、どんなキャラでいけばいい?」
みたいな商売さえ成立している。
多重人格性が
ビジネスになってきてるわけですね‥‥。 |
対談はまだまだ続きますが、
残念ながら、本日はここまでにします。
サエキがデビューしたパンク・ニューウェイヴで
花開いた、ニナハーゲンのような
アヴァンギャルドに性的な多重人格的に
狂気と花開かせるマナーは、
この夏映画に公開される岡崎京子原作の映画
「ヘルター・スケルター」にも関連してくると、
斎藤環先生はおっしゃいますし、僕もそう思います。
話しは、女性の多重人格性の開花は、
家庭やコミュニティの変化、
家父長制的な社会の崩壊とも結びつけられて
展開しますが、続きは、
またいつかどこかでできたらいいな、と思います。
またその日まで。
サエキのこの原稿UPが遅れている間に、
イメージ・フォーラムでの上映が
6月29日で終了してしまいましたが、、
8月11日より吉祥寺バウスシアターでの上映が
急きょ決定いたしました!(良かった!)
『ジョン・カサヴェテス
レトロスペクティヴ』
2012年 8/11(土)よりロードショー
吉祥寺バウスシアター 【終了日:8/31(金)】
上映時間 未定
料金 一般1,800円/学生1,500円/シニア・会員1,000円
『アメリカの影』、『フェイシズ』、
『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』、
『オープニング・ナイト』、『こわれゆく女』、
『ラヴ・ストリームス』
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なんとパール兄弟の新録音
「青いキングダム2012」
あの代表曲「青いキングダム」が
新たな詞とメロディーを加え、
難波弘之、坂田学の参加で、2012年蘇った!
難波弘之プロデュース、
フクシマレコーズ4thアルバム
「明日への扉」に収録!
2012年7月13日先行発売開始!
FKSR-1004
価格:¥3,045 (税込)
フクシマレコーズ4thアルバム「明日への扉」
01. THE DOOR INTO SUMMER
/ Sense Of Wonder & 吉良知彦 feat.玲里
02. 青いキングダム2012 / パール兄弟
03. いつまでも変わらぬ愛を / 織田哲郎
04. (They long to be) Close to you
/『みちしたの音楽』
05. ラブリー / 大橋トリオ
06. Sukiyaki 〜上を向いて歩こう / Akiko Tsuruga
07. ISN’T SHE LOVELY / THE NOB
08. TIME OF THE SEASON / 織田哲郎 & 難波弘之
09. The Shadow Of Your Smile / JOYA feat. Stay"G"
10. I Like It / Jazztronik
11. So Far Away / 鈴木桃子
12. 風になりたい / Happy Island feat. ZOOCO
問い合わせ
Fukushima Records事務局
(エスプロデューサーズ(株)内)
info@fukushimarecords.com
『夏のパリ祭 〜毬谷友子さんを迎えて〜』
出演:サエキけんぞう&クラブ・ジュテーム、
田ノ岡三郎
ゲスト:毬谷友子
元宝塚女優としても有名な毬谷友子さんと
セルジュ・ゲンスブールカバーでは世界一の
サエキけんぞう&クラブ・ジュテームが共演!
毬谷友子さんは、戸川純や
ニューウェイヴの歌姫達を思わせる
カラフルな表情を魅せるカルト的な歌手です!
ぜひ、この饗宴をお見逃しなく!
2012年8月4日(土)
開場:17:30 / 開演:18:00
■料金:予約 2,300円+1drink(500円)
/ 当日 2,800円+1drink(500円)
予約はお店横浜 黄金町 試聴室その2
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