MUSIC
虚実1:99
総武線猿紀行

第38回
「これが本物のコレクターだ!」


いやあ、ご無沙汰してしまいました!
前回で書いたように、DRIVE to 2000という1週間で
100アーティストに出てもらうイベントを
新宿ロフトで10月末にやって、もうその前は
何もできなかったし、後も後始末とたまってた事で、
もう何もできなかったのです。
ハルマゲドンはいじると大変なことになる。
しかし、イベントは奇跡ともいえる大成功を収め、
動員は延べで4000人を大きく超えました。
ありがとうございましたああ!
1ヶ月たとうとする今も、まだ気持ちの整理が
ついていないのでレポートは次回以降に
書かせていただきます!

さて、今日はミュージックマガジン社から出ている
「レコード・コレクター紳士録」という本を
読んだのですが、かなり面白かったので
感想や連想したことを書きます。

誰でもレコードマニアになろうとする時代ですが、
「僕も今日からなろうかな?」っていう人に
是非読んで欲しい本です。コレクター業界のVIPを訪問。
その人たちの生の声で「マニア道」を聞きまくるのです。

曰く「コレクターは結婚してはいけない」(中野D児氏)
「尿管結石の痛みを我慢してでも目の前のレコードは
逃さない」(岩渕悟氏)
「レコードの買い入れ資金を借りるために
銀行を騙すのなんてわけない」
(新井精太郎氏=えとせとらレコード社長)など、
道を極めた人の凄みたっぷりの面白い話しが満載なのです。

わけても中野D児氏の発言は大きな波紋を呼んだようで、
実際コレクターの人には独身がかなり多い。
歌謡曲マニアの集まりに行ったときは、
30歳〜40歳の集まりで30人中結婚してるのが
2人ってこともあったな。
レコードを集めると女が寄らないのか?
そもそもレコードを集めてると女は眼中になくなるのか?
とにかく「女」と「レコード」を天秤にかけざるを得ない、
その立場って一体何?

前述の岩渕氏はその昔、当時付き合ってたガールフレンドが
突然訪ねて来たが、その日はレコード買いに行く日と
決めていたから、とりあえず外に出て、電車の乗換駅で
「僕は今日レコード店回りするから悪いけどゴメンね」
と彼女を置いてきてしまったそうです。
(で、現在も独身中)。
スゴイ「紳士」録もあったものです。

そういえば僕も学生の時につきあってた彼女は、
レコード店の前に行くと、つないだ手を強引にひっぱり、
「ここには入っちゃダメ!」と断固として妨害されたのを
覚えてます。

マニア談義で一時定説になっていたのが
「女にレコードコレクターは少ない」ということですが、
最近ではかなりの数の女性レコードコレクターが
出てきています。
彼女たちも「男はいらない」のでしょうか?
そういえば思い当たる節もあるような…。

しかし、この本には夫婦のコレクターも出てきます。
その夫妻はレコードのトレードをした事があるそうです。
奥さんがどうしてもお金に困って売りたいレコードが
あったのだが、夫がそのレコードを売ってほしくないので、
自分の他のレコードと交換したという、
素人から見るとわけわからない事をやっているのです。
そういえば僕の友人のマニア夫婦は
夫婦で同じレコードを別々に所有しているというし、
萩原健太・能地祐子夫妻は別々に外出して、
神保町のレコード屋でバッタリ鉢合わせなんてことが
しょっちゅうだそうです。

ちなみに僕はレコード好きではありますが、
コレクターではありません。
(いくつか揃えているアーティストはいる)
今時は1万枚レコード持っている人はザラで、
僕はそれには及ばないし、ガンガンCD化しているから。
そして僕はお金があれば、なるべく新しい曲や
アーティストを買おうとするほうで、それもノンジャンル。
バージョン違いを買うなら他のアーティストを発掘したいと
思う方なのです。そこは、とにかく岩盤を切削するように
揃えていくコレクターの気持ちと大きく違うのです。
実はマニアがうらやましいところもあるのですが。
同じレコード好きでありながら、対象アーティストを
ひろげようという気持ちは、現実的にはマニアのそれと
相反することになってしまったりするのです。

しかし、僕にも、決めていることがあります。
一生、賭け事と水商売には浸らないようにする。
(一見は否定しない。もしもの時の予防線。
友だちに連れられて競馬にいくことぐらいはあるから)
そんな金あったらレコード、CDを買います。
その辺はマニアと似てるかも。
でも結婚しないってのはスゴイなあ。

ところで7〜8年前に某雑誌で山下達郎氏が書いていた
すごいセリフに
「もう一生聞ききれないレコードを買ってしまった」
というのがあります。1日に必ず3枚新しいアルバムを
聞いたとして(それはけっこう大変というか、
仕事している人は無理かも)365日・1年で1095枚。
30年で3万2850枚。それだけがんばっても
3万枚しか(しかかどうかはわからない)聞けない。
しかも今はCD化されているから、1枚の収録時間が長い。
山下氏の発言が正しいだろうことは裏付けられます。
人間はどんなにがんばっても、1度に2枚のCDを聞くことが
できないのだから、一生使っても限られた音楽にしか
接することができないのです。

これはけっこうショッキングな事です。
少なくとも昭和30年代以前に生まれた人の感性には
そうではないでしょうか?
そうか、所詮は自分は文化の大海にうかぶボウフラのような
存在か……と思いませんか?
でも最近生まれた子はそうは思わないのかもしれませんね。

だってCD時代になって音源の発掘が進み、
サントラ盤なんかは事実上「無限」にあるらしいのです。
中古盤が「無限に存在する」。
これはかなりいいえて妙な比喩で、もちろん科学的には
有限なはずなのですが、現実的には人知を使って
いくら発掘しても、底が見えないらしいのです。
その意味ではどうやら「無限」らしいのです。

なんかクラクラきませんか?
2000年以降はますますその状況が加速されるのです。
なんといってもネット配信なんてことになれば、
ネット上にはまさに本当に無限のディスコグラフィが
誕生することになります。
どんな珍しい音源でもネット上からたちどころに
引き落とされるようになるとしたら、
「レア」とはどういうことになるのでしょうか?
やはり「ブツ」でしょうか?
ネット配信拒否した超レアCDとか。
でも拒否しても載せられちゃうかもね。
やっぱりアナログが残りそうだな。

とにかく「モノ」が「電脳情報」に置き換わった時、
こうしたマニアとかコレクターの発生がどうなっていくのか
見ものではあります。
それは進化なのだろうか?
(ネット配信がもたらす状況については
十分に話し合われていないことや気付かれてないことが
たくさんありそうなので、みなさん、もし気付いたことが
あったら教えてください。僕も今度まとめてみます)。

さて、前述の本はゴム付き軍手でレコードを探し回る
山下達郎氏のインタビューも読めます。
著者の大鷹俊一氏の愛情のこもった文章も読みやすく、
コレクターの背中の向こうに、レコードを通して
戦後の時間の流れや人間的風景がヴィヴィッドに
伝わるところが醍醐味なのです。
またこれはレコードコレクターズ誌の連載を
まとめたものですが、この本のために各氏の近況が
付けられています。それがけっこうイイ味だしてる。
実は中野D児氏がストーンズレクターをやめていたり
(さては結婚か)、もっとフカミにはまっている人が
いたり。近況だけでまた深みを出しているところが
この本のスゴさ。

君もコレクターになってみないか?
(コレクターって英語で怖い意味も入ってるんだよね。
映画見ましたか?)

なお僕の恒例のイベント「コアトーク」は
次回12月15日水曜日。「音楽雑誌を作ろう」で
青木優氏や伊藤英嗣氏などがゲストで
今年出た新譜などを聞きまくるし、レアな話しが聞けます。

at新宿ロフトプラスワン新宿歌舞伎町1-14-7林ビルB2F
TEL03-3205-6864
FAX03-3205-6874

なるべくすぐ再見!

1999-11-27-SAT

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