総武線猿紀行第83回
「追悼ピチカート・ファイヴ!の巻その3」
ハルメンズの「ハルメンズの近代体操」のレコーディング
(「私ヤヨ」という曲が彼女の初ヴォーカルレコーディング)
に現れた野宮真貴は
ビニールでコーティングされた
上下の服(ミニだったと思う)と
ショートカットでかなりSF的なルックスだった。
ディレクターの平田国二郎氏は一発で彼女を気に入った。
オシャレはするものである。
その登場の呼吸ひとつで彼女の人生は変わった(狂った?)。
そしておそらくピチカートの運命もこの、
彼女があの独特の「人形のような笑顔」で
動じずにスタジオの扉を開いて、
ヤアヤアと威勢良く入ってきたときに決まった。
どうやら人生の変化や集団の運命は一瞬で決まる。
そうした瞬間をだれもが必ず目撃することがあるのだろう。
ただしそうとは気付かないで
見過ごすことのほうが多いのかも。
ハルメンズはデビューシングルとなる予定だった
「電車でゴー」(ゲームタイトルに後に冠されることに
なった曲)が選曲変更の末、取り消しとなったり、
苦難続きであったが、
そもそもマーケットを厳密に考えない
丼勘定の体制によって僕等は生まれたのだといえる。
出たとこ勝負の博打が新しいキャラクターを生んでくれる。
上:野宮真貴デビューアルバム
「ピンクの心」(ヴィクター)。
ジャケットは不評だった。
下:ポータブルロック「ビギニングス」
正規の2枚のアルバム発売後、
ソリッドレコードより発売されたデモ音源集には
彼らや野宮の早すぎた非凡な才能が詰まっている。
平田氏にとってはハルメンズに続き
さらに彼の立場を危うくさせる賭けに出ることになった。
ハルメンズと同様の
ムーンライダースの鈴木慶一氏のプロデュースで
野宮真貴のデビューシングル「女ともだち」、
デビューアルバム「ピンクの心」(僕の詞3、5曲含む)が
1981年に発売された。
シングルは化粧品タイアップでプチヒットになったが、
アルバムは売れなかった。
平田氏のレーベルはますます傾いた(笑)・・
そしてつぶれる。
それから彼女は中原信雄(現ヤプーズ)、
鈴木智文(僕の中学高校同級生)と
ポータブルロックを結成する。
このバンドは前回にもさんざん出てきた
ドラムの宮田繁男が準メンバー(ようするに彼はハラボーズ、
ポータブルロック、ピチカートファイヴ、オリジナルラブを
歴任していたことになる)だったのだが、
途中で宮田が忙しすぎる状況になった。
このとき、僕は
「ドラムを打ち込みにしてメンバー3人だけで
テクノっぽい編成でライブをした方がイイ!」
と強く勧めたのだ。
ドラムのいないバンドというのが
未来的に感じたからなのである。
下記にある、現在放送中のラジ@という
インターネット放送収録時に
高浪敬太郎君に聞いたところによれば、
こうしたドラムレスの編成、
男2人、女1人のポータブルロックを目撃した
ピチカート小西氏は、
「すげえかっこいい」と喜んでいたそうである。
こうしてポータブルロックのフォーマットが
ピチカート結成にインスパイアーしていたという
事実があったらしい。
僕の「ドラムレスでいったほうがいい」
という忠告ははっきりいって
ポータブルロックのためになったとはいえない。
つくづく忠告は難しいと思ったものだ。
中原・鈴木の二人は生粋の生演奏ミュージシャンだったので
ドラムマシンに併せるのが
イマイチ性に合わなかったようだった。
しかし、その案が結局、
ピチカート結成に生きているとすれば、
ましてや野宮真貴が最終的にピチカートに加入し
ブレイクすることを考えるとすれば、
なんとうれしいことだろう?
(と勝手に喜んではいるが、
あくまで僕の情報収集による認識です)
それにしても、野宮真貴デビューからピチカート加入、
ブレイクまでざっと雌伏10年。
なんという長い潜伏期間だろう?
その間に平田国二郎氏はレーベルをつぶし、
ジム・ジャームッシュの映画プロデューサーになり、
そして最終的にギャンブラーになった。
ピチカートからは田島貴男が抜けたが、
その後がまにおさまった野宮真貴加入後、
初ライブは今は亡き「鈴江インクスティック」で
たしか1990年末に行われた。
バックをミュージッシャンにまかせた小西高浪のダンスは
やけに心地よく、
もう数年も一緒にバンドをやっていたかのように
野宮真貴はそこにいた。
エレキサウンドを排した小西氏の
ジャズ的なライブキャスティングディレクションは
クールな印象がすでに90年代を先取りしていた。
3番目あたりの女房で(ただし二番目の女房は男)決定!
音楽の世界では極めて珍しい事態だが、
結婚の場合には、人数的にはわりとあることかもしれない。
(この項続く)
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