君は生(なま)サナイを見たか!
「佐内正史&阿部和重トークライブ・レポート」
11月5日(水)新宿ルミネ2のACTホールで、
ほぼ日でおなじみの写真家、佐内正史さんと
作家の阿部和重さんのトークライブが開催されました。
このトークライブは新宿ルミネ2の青山ブックセンターで
開催されていた佐内正史作品集「わからない」の
パネル展と並行して開催されたものです。
注目の若手写真家、佐内さんにナマで会えるとあって、
19時開演の会場には、ゲストのふたりが登場する前から
100名以上のファンが集まっていました。
ほとんど20代前半の女性。すげーです。モテモテです。
新宿ルミネ2の
ACTホールには
100名を越える
佐内ファンが集まった |
登場した佐内さんの出で立ちは、
リーボックのグレーのトレーナーという超ラフなかっこう。
コンビニの前にたむろしているお兄チャンみたいです。
この前「ほぼ日」に遊びに来てくれたときにも、
「首の感じがいいんですよ」と絶賛していた
今いちばんお気に入りの一着です。
対する阿部和重さんは、注目の若手作家として有名なお方。
司会のお姉さんを交えてのトークライブが始まりました。
まずは、作品集「わからない」の表紙写真について
阿部さんがコメント。表紙写真は、佐内さんの愛車である
トヨタ・マークのネームプレートを写したものです。
阿部 |
「表紙のマークの写真を見て、
いいなと思いました。
とうとつにマークが表紙にきてて、
おもしろいんですけど、なぜマークなんですか」。 |
佐内 |
「・・・・・・パールホワイトが、好きなんです。
パールホワイトが・・・気になったんです。
・・・・・・サスペンス劇場が好き、って〜
感じがあって、
エンジのシートとか・・・
グランデって名前もよくて・・・。
サスペンス劇場っぽい感じでしょ」。 |
トーク後のサイン会。
女の子にモテモテ。
うらやましいぜ |
いきなりそうきましたか。
聞けば阿部さんと
佐内さんは初対面とのこと。
高めの声でハキハキ話す
阿部さんとは対照的に、
「・・・・・・」の間の後、
佐内スマイルで
わからないことを
語る佐内さん。
トークは開始5分で、
人間(阿部さん)vs
わからない何か、
のカタチになってきました。
ひきつづき、トークの一部を
かいつまんでみましょう。 |
阿部 |
「被写体の選び方は?」 |
佐内 |
「・・・・・・記憶ですね。
感傷的なノスタルジーじゃなくて・・・・・・。
・・・・・・喪失感というか。
でも、ピントをちゃんと合わせて、
現実感をもたせてます。
・・・・・・あんまり妄想にいってもヤバイ」。 |
阿部 |
「これからの予定というか、撮りたいものは
なんですか?」。 |
佐内 |
「うん。エロいの・・・・・・。
・・・・・・近づいていく感じの」。 |
司会 |
「現像とかプリントとか、ひとりで仕事してるときに
聴く音楽とかってありますか」。 |
佐内 |
「あ〜、・・・・・・ひとりには限界があります。
・・・・・・ひとりは、やりたくない。
人間カンケーとか好きじゃない場合が多いけど、
傷つきながらやるのがいいですね」。
|
この後、同じ質問について阿部さんが語っている間、
客席のいちばん後ろで、たまたま頭を掻いていた私と
目があった佐内さんは、マネをして頭を掻きはじめました。
おいおい、話聞いてなさいって。
で、阿部さんの語りが終わると、
次の発言を待つように客席の視線が佐内さんに集まります。
視線に気づいた佐内さんは、タイミングずれずれで
「へえ〜」と相づちをうつのです。
しだいに場内の注目は佐内さんの言動に
集まりはじめました。
ちょっと見逃せない何かがあるんですよ。 |
司会 |
「デビュー前と後で意識の変化はありましたか?」
(場内、佐内さんに注目) |
佐内 |
「・・・・・・・」。(違うとこを見てる) |
司会 |
「佐内さん、聞いてましたか(笑)」。
(場内、爆笑っス) |
佐内 |
「え、あ〜、オレ?
うん。デビューのきっかけでしょ?」
(ちがうって) |
阿部 |
「デビュー前と後での意識の変化はありましたか? って」。
(ああ、阿部さん、優しい人だ) |
佐内 |
「・・・・・・あ〜、モノクロだったのが
カラーをやるようになりました。
そっちのほうが仕事があるから」。 |
もう、みんなの視線は佐内さんの動きに釘付けだ。
マイクをオデコにコンコンぶつけてみたり。
(きっと、音を楽しんでおられるのでしょう)
マイクで肩を押してみたり。
(すごく気持ちいいのだ。きっと)
そんな佐内さんを見つめる来場者(ほとんど女性)の
視線が、お母さんの目になっていることを私は感じた。
母性愛を刺激するのだ。この写真家の言動は。 |
阿部 |
「それぞれの写真の関係性というのが、
とうとつなんですが、
ある1枚から次の1枚までの間には数100枚の写真が
あるように思うんですけど」。 |
佐内 |
「・・・・・・セレクトに時間がかかります。
セレクトで鍛えられますね。
・・・・・・プリントはめんどくさいので嫌いです。
プリントするときにその写真をよく観るでしょ、
そうするうちに、どんどん少なくなるんです」。 |
阿部 |
「(作品集の)なかに外国で撮った写真が
2点あるんですよね。
外国で写真撮るとお金かかってるから、
もっと使いたいでしょ」。 |
佐内 |
「・・・・・・バンバンバンでこうなっちゃう」。 |
司会 |
「子供のころはどんな映画が好きだったんですか」。 |
佐内 |
「SFですね。スターウォーズとか。
あとブルース・リー。
・・・・・・アクション系」。 |
司会 |
「写真をはじめたのはいつからですか」。 |
佐内 |
「・・・・・・・あ〜、え〜と、25? 24だっけ?
・・・・・それまでは、イカ釣り機を作って販売する
会社でサラリーマンやってて、日本のイカ釣り機のシェアを
70パーセントくらい持ってる会社で。
でも、僕はそこで実力を発揮できなかったんです。
・・・・
まじめだったんだけど、どうしても遅刻とか多いから。
それから1年半くらいパチプロになろうとしてて、
・・・けっこう、こう握ってやってると、
ヤバイ。玉回ってるし・・・・・。
・・・・・こんなこと
やってていいのかと思って。で、ものつくろうと思って。
映画はひとりじゃつくれないけど、
写真はひとりでできるから、ヨドバシカメラの店員さんに
いろいろ訊きながら・・・。ま〜、勘ですけど」。 |
わざわざ立って
サインする人も珍しい。
でも、そうしたいから
そうしてるだけなのだ |
男らしいサラリーマンになろうと思っていた佐内さんだが、
イカ釣り機の会社にいたころは、会社でういていたそうだ。
地元の友だちはトラックの運転手とかパチプロが多くて、
特に写真家を目指していた仲間もいなかったという。 |
佐内 |
「・・・・・・オレが写真やるとき、
友だちはとうとう狂ったと思ったって。
それで食えるのかって」。 |
そうして佐内さんは、
無の状態から24歳で写真家を目指した。
自分の将来に不安はなかったのだろうか、と司会者が訊く。 |
佐内 |
「不安なかったです。
・・・・・・根拠ない自信があって、
でも実際は身体が不安になるときがある。
ヤバイと思うときありますよ。
最近だと・・・・・・オレ可能性ないかな、とか。
でも、いろいろ経験すればわかってくるから・・・・・・」。
|
ああ、くすぐるよ、母性本能を。
みんなの目が、お母さんの目になってるよ。 |
阿部 |
「同業者で意識してる人はいますか」。 |
佐内 |
「・・・・・・えー、写真家はいない。
音楽とかは・・・やられたな・・・と思うことが
あります」。 |
阿部 |
「あえてあげれば」。 |
佐内 |
「・・・・・・・・・ほんと・・・わかんない」。 |
写真少年にアドバイスを求められ、
少年の写真をほめまくる佐内さん。
またひとり写真家が生まれてしまった |
わからない。
作品集のタイトルどおり、最後までわからないのだが、
会場にいたお客さんは、生(なま)で佐内さんに
会えて、みんなご満悦。
写真と同じように、みんなのハートをつかんで
トークライブは終わりました。
トークライブの後、サイン会の列に
ならんでいた女性にインタビューしてみました。
その人は、2年くらい前に
音楽雑誌で佐内さんの写真を
知ったそうです。
インタビューを記事に使わせていただくかもしれないと、
名刺を渡したところ、その夜のうちに「ほぼ日」宛に
メールを送ってくれました。
うーむ、なんて親切なひとなんだ。
それでは、メールを読んでください。
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「佐内正史氏トークライブ」
突然のメールで失礼いたします。
佐内正史さんのトークライブの後で
名刺をいただきました、牧野未央子です。
先程お声をかけていただいた時は、
サインの順番をドキドキしながら待っていたので、
ちゃんとお話できなかったような気がして
(それほどのことでもないのかもしれませんが)
メールを送らせていただこうと、思い立ちました。
佐内さんの写真は、先程も申し上げましたが、
何かを掴んでいる感じがして、
写真集のページをめくった途端、「うわぁ」と
声が出そうになるくらいドキドキする写真もあります。
彼の写真は、撮っている対象を
すごく丁寧に大切にとらえているように私には見えて、
また、一般的に自明とされているような「かっこよさ」は
どうでもよくて、彼自身のモノの見方・視線が、
結果としてかっこいい写真を生んでいる、という気がします。
(これは、表現者としては当たり前かもしれません)
実は以前、佐内さんが中指を立てて(笑)写っている
写真を見たことがあったので、
佐内さんてちょっと恐い人なのかと思っていましたが、
今日実際にお会いしたら、もっとやわらかい感じで、
でもやっぱり彼にしか見えていない世界が
はっきりとあるんだなあと、お話を伺いながら思いました。
実は、今日のトークライブには仕事の時間の関係で
行けないだろうと諦めていたのですが、
やっぱり佐内さんに会いたかったのと、
何とか時間が取れたおかげで、
「外出して9時に戻ります」と上司に告げ、行って来ました。
というわけで、これは会社で書いています。
先程、「ほぼ日刊イトイ新聞」を初めて拝見しました。
インターネットで佐内さんの写真や、
写真集に収録されているテキスト(詩、でしょうか)の
手書きのものが見られるなんて思っていませんでしたので、
名刺をいただけてラッキーだったなあ、と思いました。
これからもちょくちょく見させていただきたいと思います。
長々と書かせていただきましたが、
「ほぼ日刊イトイ新聞」内の佐内さんに関するページ、
楽しみにしております。
それでは、お仕事頑張ってください。
唐突、かつ長いメールで失礼いたしました。
1998年11月4日
牧野未央子
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牧野さん、どうもありがとうございました。
佐内さんの写真の魅力については、
人それぞれ感じることがちがうと思います。
でも、牧野さんのメールに書かれていることは、
佐内さんの写真を味わうときに多くの人が感じる
魅力だと思います。
「また、新作を出そうかなぁ」と言っていた佐内さん。
これからの活動に、目がはなせませんな。
「ほぼ日」もそんな佐内さんを
応援していけたらいいなと思います。
また、生(なま)で佐内さんに会えるイベントがあったら、
お知らせしますぜ。
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