サセックにおそわったこと。松浦弥太郎さんにきく、旅のはなし。
その3 夜中のコーヒー、土地の歴史。
Q.

旅先での食事はどうしていますか。
おいしいものをたくさん食べる旅なんでしょうか。
また、事前の情報は集めないとのことですが、
じっさい、旅の準備はどんなふうにしているのでしょう。


旅先の食事は出会いがしらです。
基本は行きつけに決めたカフェなり簡易食堂で済ませます。
そりゃあおいしいに越したことはないけれど、
たいして、おいしくないものだって、いいんですよ。
その雰囲気を全部含めての旅ですから。

もちろん美食を追求することをテーマにするような
旅もいいんですが、それをやると、
それがメインになっちゃいますよね。
ふらりと路地裏に入りたくても、入る暇がなくなっちゃう。
いまの僕の旅のスタイルではありません。
以前は、「最高の朝食」を求めて旅をしたこともあります。
有名なパンケーキの店に朝から並んで入ってみたりね。
でもいまは、それを食べても、
「ちょっと待てよ」と思うようになりました。
「これさぁ‥‥僕、これよりおいしいパンケーキ、
 知ってるし!」なんて。
いまは、パンケーキの名店に並ぶよりも、
知りあった人に「朝ご飯食べにおいでよ」なんて言われて、
ご馳走になるとか、
そっちのほうがいいよね、って思います。
薄いトーストと卵とベーコンを焼いてくれて、
それでコーヒーがあれば、最高の朝食でしょう?
窓から朝の光がバーッと入ってきたりしたら、
それをパチッて撮る。いいですよね。

僕は朝型だし、お酒を飲まないので、
夜中に出歩くことは少ないんですが、
眠れない夜にふとコーヒーを飲みに行きたくなって
出かけることはあります。
「夜中の2時かぁ‥‥。コーヒーを飲んで、
 ドーナツが食べたいなぁ。でも夜中の2時かぁ」
と思いつつ、恐々、夜中、外に出て歩くんです。
そうすると、暗闇に明かりがぽっと浮かぶ、
ドーナツだけのカウンターの店を見つけたりして。
そういう所に入っていくと、ムキムキの警察官が、
腰にピストルをつけたまま
ドーナツとコーヒーで休憩しているのに出くわしたり。
ああ、映画の世界だなぁと思います。
「写真撮らせて」「いいよ」なんて会話をしながら、
夜中に食べたドーナツやコーヒーって、
また最高なんですよね。
そうそう、旅をする前に、ただひとつ、
準備としてすることがあります。
それは、旅先の土地の歴史を
ひと通り知っておくということ。
これ、重要な気がするんです。
歴史といっても、ざっとしたことでいいんですよ。
知っておくと、いろいろと腑に落ちる。
街を見たり、人と話していても、
その歴史を前提に会話ができる。
だから、ガイドブックは読まないけれど、
その土地の歴史に関する本を読みます。

ちょっと持ってきたのが参考になるかどうか。
たとえばロンドンに行く時にはこれを読みました。
『イギリス史重要人物101』。
歴史っていうよりも、人の話ですね。
近いところではビートルズくらいまでが出ています。
僕にとって、ロンドンに行く前に、
どんな歴史を勉強していこうかなと思った時、
やっぱり人かなぁと思って、この本を選びました。

『HANCOCK SHAKER VILLAGE』、
これは、ペンシルベニアに行った時、
シェイカーの村を見てきたかったので、
その歴史を前もって予習しておこう、
と思って読んだ本です。
歴史だけではなく、その土地を知る本を
旅先で買うこともあります。
こちらはニューヨークで買った本。
『New York City Tree』っていうんです。
いまでも、すごく好きな本です。
落ち葉を見れば、どんな木かわかるんですよ。
どこにどんな木が生えていて、
そこには何かヒストリカルなことがあるとか、
そういうこともわかる。
これを持ってニューヨークを歩いていると、
葉っぱを見て、これで調べて、
「あぁ、なるほど」と思えます。
これはバークレーに行き始めた頃、
たまたま現地で見つけたクックブックです。
読んでみたら、結構これが、なかなかいい本で。
ちょっとだけ、フォントとかの味わいが、
アーツ・アンド・クラフツな感じがしてね。
どうやらバークレーの地元の団体がつくっているようで、
レシピもすごく簡単だし、
当時から、ちょっとヘルスコンシャスだったりとかして、
気分が盛り上がったのを覚えています。
旅の荷物は小さなスーツケースひとつです。
機内持ち込みのできる大きさです。
1週間の旅でも、洗濯は自分でする前提で、
着替えは3日分だけ。
東京で働いているときの、ふだんの荷物に、
服を3日分足しただけですね。
足りないものがあったら、
昔は現地で買えばいいやと思っていたんだけれど、
なかなか日本みたいに
いいものを売ってなかったりして、
結局、なかなか気に入るものがなくて、
最近はよほど必要でなければ、買い物もしなくなりました。
昔は、アメリカに行かないと買えなかったものとか、
パリに行かなきゃ買えないものってあったけれど、
最近は日本で「あ、売ってるじゃん!」ってことも、
いっぱいありますから。
買い物をしない分、何してるんだろう。
‥‥やっぱり、ぼんやりしているのかな。

次回はいよいよ「サセック」のことをお聞きします。
松浦さんは、いったいサセックのどんなところに、
そんなに惚れ込んだんでしょう? 出逢いは?
おたのしみにー!
2015-11-09-MON