【4】つい土がいとおしくなって。
今回は現場からレポートします。
現在は地下工事の真っ最中で、
この日も二人のお手伝いさんといっしょに、
土を掘っては
袋に詰めていく作業が続けられていました。
まるで遺跡の発掘現場のようです。
階段のようにつくられた土の足がかりを頼りに
おそるおそる降りていくと、
下には土間のような場所ができていました。
日差しの強い昼間でしたが、
ここにくると少しヒンヤリ感じます。
周囲の期待にあおられて手で掘ることに
作業の手を少し休めてもらって岡さんに聞きます。
ここは地下何メートル?
「だいたい2.8メートルですね。
ここが地下1階の床の高さになります」
ここまでショベルカーのような重機を使わず、
全部、人の手で掘り進めてきたわけですよね。
たいへんだったでしょうね?
「最初はそのつもりはなかったんですよ。
土木の業者に相談したら、
4トントラックで100台分の土が出ると言われたから、
手で掘ってたら丸1年かかる。
それは無理だな、どうしようかなあ、
と思っていたんです。
とりあえず手で掘り始めると、
近所の人が現場の前を通りながら
『こいつら本当に手で掘っていくんだろうか、
だったらスゴイよな』
みたいな目で見ていくんですよ。
そういう期待に応えなくちゃ、と思うようになって。
そこからは頑張って、
重機ナシで掘ることにしました」
さいわい、言われたほど土の量はなくて、
2ヶ月と少しの工事で3分の2ぐらいまでは
掘り進められました。あとは梅雨が来る前に
土掘りを終えられるかが勝負だそうです。
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■江戸時代の屋敷で使われていた石
地下は最終的にどんな場所になるんですか?
「これも掘りながら考えたんですけど、
地下庭園にしようと思って」
ということは床面はもしかして土のまま?
「そう。土を掘ることばかりしていたら
土がいとおしくなってきちゃって、これでいいかなと。
最初は雨が吹き込まないように
どうやって塞ごうかとか、
いろいろ考えていたんですけね」
大雨が降ったら水が流れ込んで溜まってしまいますよ。
「1年に1回ぐらい、
そういうことがあってもいいでしょう。
ここが池になったら、きっときれいですよ」
なるほど、ところで岡さんの足下に
ゴロリと転がっている大きな石は何ですか?
「掘っていたら出てきました。
300キログラム以上はあるんじゃないでしょうか。
ちょっとやそっとじゃ動かないほどの重さです。
ひっくり返したら、四角いホゾ穴が現れたので、
家の基礎に使われていた石のようです」
ホゾ穴の掘り方を見ると、相当に昔の技術のようです。
おそらく江戸時代、ここに建っていた
藩邸の基礎だったものでしょう。
近くに住むお年寄りの話によると、
ここには立派なお屋敷があったのだそうです。
そんな由緒のある家を支えていた石ですから、
新しい岡さんの家でも大切に扱われる予定。
今のところの構想では
「地下庭園のしかるべき場所に設置しようかなあ」
とのことでした。
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■掘った土をどう使う?
小さな敷地ですが、掘るとほかにも
いろいろなものが出てきます。
表面に近いところではゴミばかりでしたが、
その下からは瓦が出てきたり、
鉛管が埋まっていたり、
土留めに使われていた大谷石が
大量に発見されたり‥‥。
掘る側からするとやっかいものですが、
いずれもこの土地でどんな歴史のドラマが
繰り広げられてきたのか、
想像をかき立てさせるモノたちです。
さらに深いところを調べると砂の層ですから、
ここがかつては海の底だったことがうかがわれます。
「掘り始めたころはクズばかり出てイヤになったけど、
底の方を掘るときは、自分がこの土に触れた
最初の人間だろうなと思えてきて、
気分がよかったですよね」と岡さん。
なお、この地下工事では、
土を3種類に分けて袋詰めしています。
ひとつは地表に近いゴミ混じりの土。
これは袋詰めしてトラックで運び出して処分します。
その下の黒っぽい土は、畑に使えるいい土だそうです。
これは袋に詰めて現場の奥に保管されています。
岡さんの自邸には屋上庭園の計画もありますから、
そこで家庭菜園をするのに使うかもしれません。
そのさらに深い層にある白っぽい土は、
左官をやっている岡さんの友人によると
焼き物や土壁にも使えそうだとのこと。
現在、少量を持ち出して試験中です。
「土壁なんてダサいと思っていたけど、
自分の土地から出た土となるとかわいいもので、
何か使えないかと考えてしまうよね」
タイルを焼こうかというアイデアも出ています。
いずれにせよ、ここから掘り出された土は、
ほとんどがなんらかの形で岡さんの自邸に
再利用されることになりそうです。
「思わぬ収穫でしたねえ」と岡さん。
土の話をする岡さんはとてもうれしげです。
次回も現場からのレポートを送ります。
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