【7】東京・港区の土地を1500万円で買う。
買ったままの状態は、こんなでした。
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蟻鱒鳶ルの敷地は、東京の港区にあります。
JRの駅からも遠くなく、
周りには高級マンションがたくさん建っています。
この一等地を資金に余裕のない岡さんたちが
どうやって手に入れたのか、それが今回のテーマです。
■競売に挑戦するが……
岡さん夫妻はふたりとも、
一戸建ての家を建てて住むことを希望していました。
まず土地はどうしようか。
岡さんたちは、まずは競売物件を狙うことにしました。
時間はかかるけど相場より1000万円は安く買える、
土地さえ手に入れてしまえば、
建物のほうは岡さんがなんとかしてくれるだろう、
という作戦です。
「妻の部屋の壁に、
山手線とその周辺が入った地図を貼って、
この辺に住めるといいなあとか、
この辺は今はいいけど将来はどうかとか、
そんな話をふたりでよくしていましたね」
と岡さんはその頃を振り返ります。
しかし繰り返し参加しましたが、
競売にはすべて負けてしまいました。
4回目にアタックした広尾の土地は、
期待も高く現地を何べんも見に行っていただけに、
ダメージも大きかったそうです。
「あと100万円、積み増しておけばなあ、クーッって感じ」
■岡さんが考えた作戦
あきらめきれない岡さんたちは、
自分たちで買えるような土地はないだろうかと
広尾の不動産屋に出向きます。
店主に、自分で設計して建てるので
小さい土地でいいんだけどありませんか?
と聞いてみました。そうして出てきたのが、
建築条件付きで6500万円というものでした。
建築条件とは、土地の上に建てる建物について
格好とか建設業者とかが決まっているというものです。
それは岡さんたちが考える家づくりには邪魔になります。
建築条件を外したらいくらなら買う?
と不動産屋が言ってきたので、
「考えてきます」と行ってその場は立ち去りました。
実はその土地こそ、蟻鱒鳶ルが建つ場所になります。
法務局に行ってその土地について調べてみると、
ある信販会社がバブルのときに
1億円で買った土地でした。
売り払いたいけど売れ残ってるんだなと想像できました。
現地に行ってみると、奥がガケになっているせいか
実際に敷地境界より2メートルも内側に
柵が立っているのです。
これでは敷地が狭く見えます。
「この土地はまず売れないな」と岡さんは思いました。
そこまで情報武装して、
岡さんは再び例の不動産屋を訪れます。
店主も顔を覚えていてくれたようです
「おう、来たか。で、いくらで買う?」
「1400万円」
マンガだったら、ここで
ガクッという音が入ったはずです。
「あのね。ここはどこの地方都市でもなくて、
東京の港区なの、常識ってものがあるでしょ」
「いくらなら買うかと聞かれたから
出せる額を答えたんです」
その日はそれで帰りましたが、
そこには岡さんの作戦もありました。
売れなくて困っている土地に、
まがりなりにも買ってもいいという人が現れたのです。
なんらかのアクションは起こすだろう。
でもあの敷地の状態では、
どんなに努力してもまず売れない。
岡さんはそう踏みました。
■「買いますよ、現金で!」
そうして半年後、再び不動産屋を訪れたのです。
「売れましたか」
「いや」
「僕も買い値を上げることにしました」
岡さんはニヤニヤ笑いながら続けました。
「1割アップで1540万、
それじゃキリが悪いので1550万。これでどうでしょう」
不動産屋は
「また非常識なことを‥‥。そんなの無理だよ」
と言ってましたが、
その時にはこれはなんとかなるかもと思ったそうです。
案の定、2日後に不動産屋から電話があって、
「売ってくれるらしいよ、本気で買うの?」
「買いますよ」
「現金で?」
「現金で」
してやったり、と岡さんは思いました。
建築条件付きで6500万円の土地を
1550万円で手に入れたのです。
数千万円ぶんがもうかったというのも
もちろんハッピーなのですが、それ以上に
「これでメチャクチャな設計をしても
妻も文句を言わないだろう」
と思えたのが岡さんには大きかったそうです。
こうして蟻鱒鳶ルの建設計画は
スタートすることになりました。
■不動産屋との抱擁
後日談です。杭を打つ工事を始めたころ、
敷地の前に一台のクルマがスーッと停まって、
出てきたスーツの紳士は仕事着のままの岡さんを
ぐいっと抱きしめたんだそうです。
「着工したね、岡さんおめでとう」
最初は誰かわからなかったのですが、
よく見たら不動産屋のオジサンでした。
このときは岡さんもすごく嬉しかったそうです。
次回はお金の話をします。
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