【9】強いコンクリートを打つために。
地下を掘る工事が終われば、
次はいよいよコンクリートを打つ工事に入ります。
まずは地下の部分から。
例の「70センチ打法」がここで始まるわけですが、
地下は杭が構造として受けもってくれているので、
鉄筋コンクリートは
それほど構造的に重要ではありません。
それを救いに、ここではコンクリートの打設を
ある程度は練習としてやることができます。
トライアンドエラーが許されるのも、
自邸セルフビルドのいいところ。
岡さんによれば、試した結果で
それからのつくり方も変わる可能性もあるとのことです。
「70センチ打法が60センチ打法になるかも」
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■コンクリートに何を混ぜるか
ここで蟻鱒鳶ルで使われるコンクリートについて
説明をしておきましょう。
コンクリートは、セメント、砂、砂利、
水などを混ぜ合わせたものです。
岡さんは150万円の大枚をはたいて、
ミキサーを買いました。
超高層ビルの根本に使う
高強度コンクリートでも練れる強力な機械です。
これを使ってよく混ぜ合わせた生コン
(固まる前のドロドロとした状態の
コンクリートのこと)を、
型枠の間に流し込んだあと、
次にバイブレーターという道具をあてて、
すみずみまで行き渡らせます。
コンクリートで大切なのは、材料の調合です。
どんな砂利をどれくらい混ぜるか、
それによって鉄筋コンクリートの強さや
施工のしやすさが大きく変わってくるからです。
蟻鱒鳶ルのコンクリートは、
調合設計を工学院大学の
助手のXさんに担当してもらいました。
岡さんの高専の後輩ということで
協力してもらっているとのこと。
「さすがに専門家ですね。ためになります」
ここでの調合設計は、
岡さんが工事にどれくらいの人数を動員できるか、
それによって一日に打てるコンクリートの量が決まって、
そうすると継ぎ目がこうなるおそれがあるから、
それを防ぐためにこういうふうにしておこう、
そんな考え方で進められています。
コンクリートに交ぜる砂利も、
普通は玉砂利がいいとされていて、
岡さんも最初はそれを探していたのですが、
Xさんはそれをストップさせました。
「今回の工事の場合、
現場に材料をストックするわけだから、
水分を吸いやすい玉砂利だと
全体の水分量がコントロールできなくなってくる。
むしろ砕石の方が水を吸いにくいからいい。
外にほったらかしにしておいても大丈夫な、
いい砕石を見つけてあげる」
などとアドバイスしてくれたそうです。
一見、力仕事ばかりで成り立っているような
岡さんの現場ですが、
実はこんなふうに科学的な裏付けが
しっかりと組み込まれているのでありました。
■業者探しにひと苦労
セルフビルドでは業者も全部、
自分で手配しなければなりません。
建設工事の慣例として、
そういうやり方はありませんから、
岡さんもなにかと苦労があるようです。
例えば杭工事の業者はなかなか決まりませんでした。
普通通りにH鋼
(アルファベットの“H”の断面形をした鋼材のこと)
を打とうと思って、
10社ぐらい鉄骨屋に当たりましたが
どこも請け負ってくれません。
素性の知れない個人なんて
相手にできないよと言うのです。
地下に杭を打つ工事は危険を伴いますから、
何か事故が起こったら困るということで、
やはり逃げ腰になるようです。
結局、構造設計者の名和研二さんの紹介で、
丸い断面の鋼管杭を扱っている会社が見つかって、
それを使うことになります。
小さな会社のようで、社長自らが現場に来て
溶接していったとのことです。
「建物自体の重さを支える杭と、
周りの土からの圧力を受け止める杭と、
普通はそれぞれに打つのですが、
丸い杭だと両方を兼用できるんですね。
だから決まるまではたいへんでしたが、
結果的にはよかったです」
と岡さん。杭だけでも200万円くらいは
安あがりになったのでは、と言います。
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■来たれ、やる気のある学生たち
「それよりも期待はずれだったのは」
と岡さんは頭を掻きながら言います。
「もっと知り合いがたくさん
手伝いに来てくれるかなと思ってたんですけど‥‥」
岡さんと同年代の友人も、
それぞれに自分の仕事を抱えて忙しくしていますから、
そう頻繁に来られないのはしかたがありません。
望みをかけていたのは学生たちでした。
しかし「春休みになったらガンガン行きますから!」
と元気に声をかけてくれていた彼らも、
実際にはほとんどだれも来てくれませんでした。
岡さんは決して、いじけているわけではありません。
建築工事をナマで経験できる
滅多にないチャンスですから、
これを通じてみんなに建築のつくり方を
習得してもらいたいと思っているのです。
まだまだ工事は続きます。
どうですか、建築を勉強している学生さんたち。
アルバイト代は出ず、食事の支給のみだそうですが、
ほかでは学べないいろいろなことが勉強できますよ。
岡さんは、君たちのことを、待ってます。
写真=丸井隆人 |