ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2006/10/25
 
【13】「蟻鱒鳶ル」名前の由来。


「蟻鱒鳶ル」と書いて「アリマストンビル」と読みます。
岡さんが建設中の家には、
こういう名前が既に付いています。
工事現場の前を通る人から必ず聞かれる質問が
「この名前にはどんな意味があるのか」だそうです。
というわけで、僕たちもそろそろ、この名前について、
岡さんに聞いておきましょう。


(クリックすると拡大します)

まず、名前を付けるかどうか、
そこから岡さんは考えたそうです。
家に名前が付いているなんて、
よっぽど有名な建築家が建てた作品でなければ、
そんなことはないわけで、
たいていは「○○さんの家」とか、
少し気張って「○○邸」とか呼ぶ以外にないのが普通です。

そんなときに美術家の島袋道浩さんから聞いた話が、
頭の中をよぎったのでした。
それは「名前は重要なんだ」という話です。
名前を付けることは作品にベクトルを生む。
ぼんやりとしたビジョンしかないものが、
はっきりとしてくる。
岡さんは、自分のやりたいことを明確にするためにも、
名前をまず付けようと思ったのでした。

■“ハウス”ではなく“ビル”

そこからは難産でした。
友人のパフォーマンス・アーティスト、
マイアミさんに名付け親を頼んだのですが、
決まるまでには1年ぐらいかかっています。
マイアミさんが最初にもってきた案が「テレテルハウス」。
岡さんがテレ屋なので付けたそうですが、
岡さんは即座に却下。
何がダメだったかというと、
何よりも“ハウス”がイヤとのこと。
すごく小さいけど、
家だけではない様々な要素が入っている建物にしたい。
だからハウスでもホームでもなく、
ビルがいいのだそうです。
最終的にはマイアミさんと岡さんが、
二人で話し合いながら決めることなりました。
そのときの様子を再現します。

「“ありません”じゃなくて
 “あります”がいいよな。肯定的で」
「トンビは鳶職で、僕らの仕事にも関係しているね」
「それに“ル”を付けてビルにしよう」
「アリマストンビル。ヒルトンとかシェラトンとか、
 トンが付くのは繁盛しているホテルみたいでいいかも」
「“蟻”、“鱒”、“鳶”と漢字を当てようか」
「おお、陸海空と揃ったね」
「どれも割と冴えない動物だけど、
 そこが逆に俺たちらしくていい」
「家でなくて“巣”っていう感じも出てくるね」
「実際、この建物には蟻も住むかもしれないしな」
‥‥などという話し合いの結果、
「蟻鱒鳶ル」に決定、とあいなったのでした。

■陸海空、揃っているところがイイ

ところで、岡さんが子どもの頃から
取り付かれているのが、バベルの塔のイメージです。
それを頭の中に思いうかべて、
自分で石をドーム状に積んだりして遊んだりしたそうです。
バベルの塔といえば、
僕ら世代が思い出すのはアニメの「バビル2世」(*)。
物語はバビルの塔に住んでいる超能力少年が主人公で、
それを助ける3つのしもべが登場します。
陸上で活躍する黒豹姿のロデム、
水中で戦うポセイドン、
空を飛ぶロプロスです。

「陸海空と揃っているところが、
 蟻、鱒、鳶と同じですね。
 そう考えると、つまり今、
 僕がつくろうとしているのはバベルの塔なんだ!」

名前を付けると、
いろいろそこに符合することが出てきます。
それを楽しんでいる岡さんなのでした。
*バビル2世:横山光輝作の漫画。
 それをもとにしたアニメもつくられた(1973年)。



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写真=丸井隆人
 
 
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