ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2006/11/01
 
【14】鉄筋工事が始まる。


地下室の鉄筋を組む工事が始まった、と聞いて
現場を見て来ました。
この日は、岡さんと
手伝いに来ている小池さんのふたりでの作業でした。
壁になる箇所で鉄筋をカゴのように組んでいき、
先端がカギ状に曲がった
小さな工具を使って針金で結びます。
この工具の名前を「ハッカー」といいます。
コンピューターを操って普通の人が
予想もできないスゴイことを成し遂げる
天才少年みたいで、なんだかカッコいいですね。


これがハッカーです。
(クリックすると拡大します)


岡さんはこのハッカーを使って、
鮮やかな手際でクリクリッっと針金をねじっていきます。
小池さんは岡さんにやり方を教わりながらの作業なので
進み方は遅いですが、次第に慣れていく様子。
小池さんは大学の建築学科の3年生で、
「ほぼ日」の記事を読んで
この工事に参加するようになり、
この日の手伝いが10回目くらいになるとのこと。
こういう仲間が少しずつ増えているようで、
記事を書いているこちらとしてもうれしくなります。

どうして岡さんの工事を手伝いたいと思ったの?
と訪ねると、
「これくらいの太さの鉄筋が
 これだけの割合で入っていれば建物は壊れないんだな、
 というのが身体でわかる感じがするんです。
 それは大学や設計事務所のアルバイトでは
 得られない体験です」
との答え。
たしかにそうですね。
こういう人ばかりなら、
耐震強度偽装問題みたいなことも起こらないはず。
小池さんは大学を出たら、
構造デザインの分野に進みたいと希望をもっています。
この若者の将来も楽しみです。


左のハデな背中が岡さん、右が小池さんです。
(クリックすると拡大します)



■千本のノックのような作業

現場には短く切った鉄筋をコの字型に曲げたものが、
八百屋の果物のように積んであります。
これは「振れ止め」というもので、
内側と外側の鉄筋をつないで止めるためのものです。
これをつくるのも意外に手間がかかっていて、
この一山をつくるのにまる一日かかってしまったそうです。
「まるで千本ノックのような作業だった」
と岡さん。専用の機械を使えば速いのですが、
買うと30万円はします。
時間はかかるけど、
今回は人力でつくることにしました。
人の手でできることはなるべく人の手で。
それが蟻鱒鳶ルの工事のやり方です。

作業箇所の反対側を見ると、
すでに一部は鉄筋を組み終えて
型枠(*1)もできていました。
壁の全周のうちの4分の1ぐらいは
組み上がっているといっていいでしょうか。
もっとも高さは70センチ程度ですが。
こちらは打設(*2)を待つばかりです。


■原始人の住みかみたいになるかも

ふと目にとまったのは型枠の両側に置かれている石です。
岡さんに聞くと、これは大谷石で、
敷地のなかに埋まっていたものだそうです。
敷地には50個ほどの大谷石が埋まっていて、
相当な苦労をして掘り出しました。
敷地から出てきたものは、
なるべく建物に使ってあげたい、
そんな考えが岡さんにはありますから、
この石もなんとか使おうということで、
コンクリートを打設する時の
境目のところに入れてみることにしたというわけです。
コンクリート打ち放しの一部に大谷石がはまっている、
そんな壁面ができあがると、
完成した地下室はどんな雰囲気になるのでしょうか。
少なくとも、建築家の安藤忠雄さんがつくるような
美しいコンクリートの壁面というわけには
いかないでしょうね。
「ごつごつした岩が剥き出しの、
 原始人の住みかみたいな空間になるのかも」
岡さんはそういって笑っています。


作業する岡さん。
(クリックすると拡大します)


*1 ドロドロのコンクリートが固まるまで
   形を保たせる仮設の構造物
*2 練り混ぜたコンクリートを流し込む作業のこと
 
 
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