ひとりでビルを建てる男。
ひとりでビルを建てる男。
岡啓輔さんの、
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)ができるまで。
最新の記事 2009/05/13
 

【26】子どもたちがやってきた。


ごぶさたしてしまってすいません。
蟻鱒鳶ルの工事は、着実に進んでおります。
これまでのレポートでも触れているとおり、
この工事現場には、
日常的にたくさんの人がやってきます。
工事を手伝いにやってくる岡さんの仲間たち、
どんな建物が建つのか気になっているご近所さん、
たまたま前を通りかかって関心をもった人、
大学で建築を教えている専門家のかたがた、
この家を雑誌やテレビで紹介しようとする
メディア関係者(僕もそのひとりですが)などなど、
挙げていけばキリがないほど、
いろいろな人が訪れています。
そんななか、岡さんがその訪問を
一番、楽しみにしているのが、
東京都小金井市にある回帰船保育所の子どもたちです。
岡さんの知り合いが保育士をしている関係で
訪れるようになり、
半年に一回ほどのペースで来ているそうです。


▲子どもたちが現場に到着「ようこそ!」

■現場のなかをグルグルと回る

今回、やってきたのは、6人の子どもたち。
現場に着くと、子どもたちは自由に動き回っています。
もちろん、保育士の先生が付いているのですが、
原則的には子どもたちを好きなように
遊ばせているようです。



▲工事現場のなかを探検する子どもたち

工事現場ですから、
歩きやすい通路があるわけではありません。
高いところに掛けられた板の上を歩くのは、
大人でも足がすくんだりしますが、
子どもたちは意外にスイスイと、平気で渡っていきます。
階段ができてないので、階の移動には脚立を使います。
大人用の脚立ですから、
子どもにはどう見ても上りづらそうです。
これは無理かなと思って見ていると、
子どもたちは最初のうちこそ恐る恐るという感じですが、
一度成功してしまえば自信を得たようで、
あとは何度でも上り下りをしています。
子どもたちが最も好きなのは、
コンクリート壁の間を抜けることです。
大人では通れないような小さな隙間を探しては、
そこをくぐっていきます。
その結果、敷地の内を一周する道を発見し、
グルグルと回っていました。
まるでフィールドアスレチックにでも来たかのような
騒ぎです。
岡さんはニヤニヤしながら、それを見ています。

「いや、最初は少し怖かったですよ。
 子どもがケガをしたらどうしよう、と。
 でも保育士の先生は、
 たくさんの子どもを預かっているから、
 『これくらいだったら大丈夫』
 という見極めができているんですね。
 『子どもに少しくらいのケガをさせるのも、
  わたしたちの仕事』とも言ってました」


▲梁の上を渡っても「怖くないよ」

■子どもが興奮する空間をイメージ

以前、保育所の子どもたちが来たときには、
小さな石を拾ってこさせて、
それをコンクリートのテーブルの一部に
取り付けたりしました。
子どもたちは工事の参加者でもあります。
岡さん自身には、子どもはいません。
でも子どものことは、
建物を考えるときに初めから頭のなかにあったそうです。

「こんな空間をつくったら、
 子どもは絶対に興奮するだろうなあ、
 とイメージしていたんですよ。
 だから、子どもたちがはしゃぎ回っていると、
 本当にうれしい」

なるほど、岡さんがニヤけていた理由はそれだったのか。
一方、子どもたちは岡さんにとって
手強い相手でもあります。
女の子が岡さんに質問を浴びせます。

「ねえ、この家はいつ完成するの?」
「難しいことを訊くねえ。えーと‥‥」
「わたしの次の誕生日までにはできてる?」
「お誕生日はいつなの?」
「来週」
「うーん、無理無理」

岡さん、タジタジでありました。


▲子どもたちから質問を受ける岡さん

 
 
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