【31】「顔」が見えてきた
■着実に進んでます
報告が滞って、前回の記事から
1年以上が経ってしまいました(スミマセン)。
2006年春に始まった蟻鱒鳶ルの工事は、
いまだ完成に至っていません。
当初の計画では、もうとっくに
出来上がっているはずでした。
岡さんは頭をかきかき、告白します。
「まずは自分の家をせいぜい3年間ぐらいで完成させて、
その後は同じやり方で、
頼まれた家をたくさんつくっていきたいと
思ってました。
ビジネスとしてやっていけるだろうと
目論んでいたんです。でも5年になろうというのに、
まだまだ自分の家ができあがらない。
これじゃ誰も頼んでくれないですよね。
これがスタートのはずだったのに、
これが最後になってしまうかも‥‥」
そんな若干の弱気を見せつつも、
岡さんは焦る様子はありません。
なぜなら工事は着実に進んでいるからです。
▲前面道路から見た蟻鱒鳶ルの工事現場。
■ファサードができた
工事現場の目立った変化を挙げると、
1階のファサードが姿を現しました。
ファサードとは、道路に面した建物正面のことです。
まちの中に建っているたいがいのビルは、
つるりとした面でファサードがつくられています。
一方、蟻鱒鳶ルのファサードは、
丸い石が飛び出していたり、
三角形の穴が開いていたりと、
独特の表情をもっています。
壁の一部には縦長の大きな亀裂が走っていて、
そこは建物の入り口となる予定です。
▲一部が出来上がったファサードの前に立つ岡さん。
ファサードの細かなデザインは、
岡さんが自分で鉄筋コンクリートを打ちながら、
その時のノリでデザインを考えていきました。
壁面をよく見ると、カタカナで
「アリマストンビル」の名前が
浮かび上がっているところがあります。
表札の役割を果たすのかなと思いましたが、
「ス」と「ル」の字は見えません。
「文字をくりぬいた型枠でつくったんだけど、
ちょっとミスってしまって‥‥」
で、その失敗箇所を
後からコンクリートの出っ張りで隠したのが、
現在の状態です。
▲ファサードに浮かび上がった「アリマ○トンビ○」の文字。
■ビルに「こんにちは」
ファサードとは、もともと「顔」という意味です。
顔はその人の心や人生を映し出す鏡のようなもの。
顔がないのっぺらぼうは、
いろいろな怪談話に出てきますが、不気味なものです。
私たちも電話で話していて、
顔がわからない同士だとなかなか話が進みません。
会ったことがなくても、
顔がわかると途端に話やすくなるものです。
蟻鱒鳶ルも、顔が見えてきたことで、
親しみやすさがぐんと増したような気がします。
ここでどんな建物が建てられようとしているのかが
伝わって、
工事現場の前を歩く人の認知度も高まることでしょう。
そんなことを思いながら、工事現場にたたずんでいると、
いきなりかわいい声がしました。
「こんにちはー!」
前の道路を、幼稚園児たちが先生に連れられ、
通り過ぎるところでした。
子供たちは、現場で働いている
岡さんに向かってというよりも、
工事中のビルに向かって
挨拶しているようにも感じられました。
▲冬の現場には欠かせない練炭コンロ。
壊れそうになったのでコンクリートで補強した。
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