SOFTWARE
シェアウェアは
ひょっとすると
デジタルユートピア
かもしれない。

シェアウエア作家に聞いてみよう-ドメスティック編
『千年日記』の相沢さん

さて、国内での送金代行システムの現状の
そのあとは、シェアウエアを実際つくっている
作者の方々へのインタビューです。
以前は、鼻息あらく、グローバルグローバルと
さわぎ、国外のシェアウエア作家の方に
メールでインタビューしてきましたが、
今度は、日本国内です。
正直言うと、ややホッとしております。
なにせ、英語でないんですもの。

というわけで、まずは、
「千年日記」という、日記ソフトを作っておられる、
相沢さん。

どうやって彼に渡りをつけたのかと言えば、
相沢さんが、「シェアウエア、シェアしてるかな?」の
アンケートを公開しているときに、
「参考になれば」といって、
いろいろな情報を教えてくれたのです。

このメールをみのがす訳にはいきません。
ということで、さっそく、イロイロ聞かせてもらおうと、
メールをだしたわけです。
もちろん、快く受けてくださった。
イイひとだ。

さて、じゃあ、インタビューに移る前に、
相沢さんの「千年日記」を詳しく御紹介。
これは、今年、去年、おととし、さきおととし………の
今日が、ズラズラズラっといっぺんに読むことが
できるという、日記ソフト。
よく、本屋さんとかで売ってる。
けど、それは、紙でできているから、
さかのぼれる年数が限られてしまってるけど、
「千年日記」は、
もう千年でもガンガンさかのぼっていけるわけです
(自分が生きてればね。)
そんな、ソフトです。
OSはウインドウズ。
(私は日常使えなくてチョイと残念。)
ホームページは、
http://www.sto.co.jp/member/mindware/
です。

興味がある人は、ページにいって、
そして、実際に試してみよう。

ということで、じゃ、いきましょう!!

(1)いつからソフトウエアを作っているのですか?
製作しようと思ったきっかけなど交えて
お教えねがえませんでしょうか?


就職してから本業として作っています。
私は40歳ですから15年以上になります。
別のことにうつつをぬかし、
卒業を間近にしてまったく就職活動をしていなかった私は、
文科系のくせして、当時猫の手も借りたかった
情報処理産業にもぐりこむことに成功しました。
それまでは、 キーボードすら
打ったことがありませんでした。

(2)現在相沢さんがリリースなさっている
「千年日記」はいつ頃製作されたものなのでしょうか?

1995年に最初のバージョンを公開しました。
以下のような推移です。
Ver.1.00 1995/02/21
Ver.2.00 1996/01/28
Ver.2.01 1997/01/10
Ver.3.01 1997/04/17
Ver.3.02 1997/04/20
Ver.3.03 1997/07/18
Ver.3.04 1998/08/17

(3)製作にはどの程度の時間がかかるものなのでしょうか?

ソフトによってまちまちですが、千年日記の場合は、
1から2ヶ月みっちりがんばるとできるという感じですね。
バグを直すだけのバージョンアップはすぐ終わりますが、
大幅な機能アップのようなときは、
ほとんど1から作りなおすような
感じでやることもあります。

(4)ふだん、シェアウエア関係の作業に
どのくらいの時間をかけるのでしょうか?
そのなかでも時間がかかるものっていうのは
どんな作業ですか?


私の場合は、バージョンアップのための
プログラミングをしていないときで、
毎日30分から1時間ぐらいです。
千年日記は、お金を払うと、
その人専用の登録番号と暗証番号を発行するので、
それをメールで送ります。
時にはFAXや郵便で送ることもあります。
その時間がほとんどです。
パソコンが壊れて、
登録番号と暗証番号をなくしたから
もう一回送ってくれというのも含みます。
それと、要望メールや質問メールに対する回答ですね。

バージョンアップ版の開発をしているときは、
いっぱい時間を使います。

(5)製作なさったソフトをシェアウエアに
しようと思ったのはなぜでしょうか?
フリーウエアではなくて、 シェアウエアにしたのは
何故なのかという点についても
教えていただけますか?


そりゃやっぱり小遣い稼ぎでしょうね。
WORDやEXELのような
いわゆるパッケージソフトを開発して売り出すには
膨大な資源が必要です。
たくさんの優秀な技術者とそれを
製品に仕立てて売るためのお金です。
たとえばMicrosoftのEXELでは50人ぐらいの人が
1年から2年かけて作っているそうです。
また製品化、流通、宣伝などに膨大な人とお金をかけます。
でも、個人やうちのような零細ソフトハウスでは、
人的にも金銭的にもそんな資源はありません。
シェアウエアなら、
CD-ROMに焼いたりパッケージにしたり
流通させたりの手間が一切かかりません。
作ったら圧縮ファイルにして、
そのファイルをパソコン通信や
インターネットのベクター、窓の杜、
そして自分のホームページに送るだけです。
そうすると、新着情報が
いろいろなホームページに載ったり、
たくさんのパソコン雑誌の付録CD-ROMに
載ったりするので、自然に流通します。
それで、気に入った人がお金を払ってくれれば、
嬉しいということです。

(6)「千年日記」は価格が1200円と設定されていますが、
この価格をお決めになられた理由を教えていただけますか?


「このソフトの内容だと、値ごろ感は何円か」を
考えて決めました。
本当は1000円にしようと思ったのですが、
ニフティなどの送金代行システムは
1割ほど手数料を引かれるので、
その分をあらかじめ上乗せっていう感じでしょうか。
1995年に決めてから値上げはしていません。

(7)本当はズバリ
いくらくらいの利益があがっているのか
教えていただきたいのですが、
ムリなときは、比喩的な表現で構いませんので、
このシェアウエアをつくって 、
相沢さんのフトコロに入ってきた
金銭的なことをおしえていただけませんでしょうか?


これまでに3000人強の登録ユーザがいますから、
3,000人 * 1,200円 = 360万円
ここから送金代行手数料約1割を引くと
360万円 * 0.9 = 324万円
というところです。
まる4年で324万円が多いのか
少ないのかは分かりませんが、
労力を考えると決して黒字ではありません。
とんとんか、むしろ赤字ではないでしょうか。

近頃は、毎月10万円ぐらい入ってきます。
でも、これでは生活はできませんね。
(本業のソフト受託開発から見ると、とても少ないです)

もちろん、なかにはシェアウエアだけで
生活している人もいます。
秀丸エディタや秀タームで有名な
秀まるおさんなどがその代表でしょう。
でも、それは少数の人で、大部分の人は、
儲かってはいないと思います。
「いいソフトを作ってくれてありがとう」
というメールを励みに、
「もっとこういう機能があったらいいのに」
という声に答えながらこつこつと
バージョンアップをしている、
というのが大方の作者の姿だと思います。

作者の中には、ソフト会社の社員が、
家で小遣い稼ぎのために
シェアウエアを作っているというひとも
たくさんいると思います。
私もそのつもりだったのですが、
税務署が税務調査に来たときに
「社長が自分の会社と同じ業務範囲の仕事で、
個人で利益を得ると背任行為になる」と言われ、
以来千年日記の売上は、会社の利益になっちゃいました。
私は残業代もボーナスも出ない固定給制なので、
いくらがんばってシェアウエアを維持しても、
自分の懐にはぜんぜん入ってこないということで、
やれやれです。

(8)インターネットでのシェアウエアの
送金が可能になってから、
全体の送金に関しては増加しているのでしょうか?


全体的には増加傾向にあります。
3割増加というあたりです。が、
それよりもバージョンアップが大きく左右します。
千年日記も含めてほとんどのシェアウエアは、
パッケージソフトと違ってバージョンアップは無料です。
ですから、常に新しいユーザを獲得し続けないと、
お金が入ってきません。
バージョンアップをすると、
前述のようにいろいろなホームページに載ったり、
パソコン雑誌に紹介されたりするので、
新規ユーザの目に止まる機会が増え、
その後1、2ヶ月の送金がぐっと増えます。
通常の月の2から3倍になります。

(9)ユーザーからのメールは結構頻繁にくるものなのですか?
その主な内容はどんなものなのでしょうか?


日によって違いますが、1日に5、6件くらいでしょうか。

1 HDが壊れたのでOSを入れなおしたら
 未送金状態に戻ってしまい、
 登録番号と暗証番号を忘れたからもう一度送ってくれ。
2 要望がある。こんな機能をつけて欲しい。
3 銀行振込や郵便振替で送金したから登録番号と
 暗証番号を送ってくれ。
4 ソフトがおかしくなっちゃんたんだけど、
 どーしたらいいの。

が、主な内容です。
私のようにユーザごとに
個別パスワードを発行している人でなければ、
1はあまり来ないでしょうね。

(10)シェアウエアにお金を払わずに
使いつづける人が中にはいると思います。
「ソフトに仕掛けをしてあるから、
はらわないのだったら使えなくなっちゃうから」
という観点からではなくて、一般的に、
そういう「悪いひと」について
シェアウエア作者としてはどんな感想をお持ちですか?



シェアウエアフィーというのは、
もともと義捐金みたいなものです。
金額を決めずに
「好きに使っていいけど、もし気に入って、
作者を応援したくなったらお金を払ってね」
というのがもともとの発想だろうと思います。
気に入ったらビール券を送ってねというのも
あるくらいです。
最近はパッケージソフトのかわりに
シェアウエアで経費を浮かせてお金儲けという姿勢の
会社や個人が増えているみたいです。
私もどちらかというとそちら寄りですが、
前述の通り儲かってはいません。
「使ってみて気に入らないからお金を払わない」
「気に入ったから今後も使うけど、
ちょっといまいちの部分もあるから、お金を払わない。」
という人に対しては、要望をもらいながら
こつこつとバージョンアップして、
お金を払う気になるような
良いソフトにしたいというのが本当のところでしょうか。
「気に入った。手放せない。でもお金は払わない」
という人が一定数いることは、
シェアウエアという形態で流通させている以上
しかたがないと思います。
パッケージソフトの違法コピーと違って、
私には、それを取り締まるパワーはないですからね。


(11)市販ソフトに対して、
シェアウエアが勝っているなと思う点は
どんなところがありますか?


フリーソフトやシェアウエアは、
個人名で出しているものがほとんどです。
だから、メールをくれる人も、
会社やサポートセンター宛てという文面でなく、
個人に宛てたメールをくれます。
こちらとしても、使って
くれる人とコミュニケートできるのは、
とても嬉しいことです。
たまにはすっごく変な人もいますけど。
なかには、初心者で、
人に薦められたからダウンロードしたけど、
インストールの方法がわからないという人が
メールをくれることもあります。
そういうときは、できるだけ分かりやすく説明します。
めんどうですけど、そのあと
「使えました」というメールをもらうと
とても嬉しくなります。
そういう意味で作者の顔が見える、
直接コミュニケートできるというのは、
市販ソフトに対する優位な点ではないかと思います。

それと、もっと大切なのは、
試用できる点だと思います。
パッケージソフトは、
はじめに買ってこなければ使えませんからね。

あとユーザの要望がバージョンアップに
反映されやすいこと、かな。
最近バージョンアップをサボっている間に、
要望がいっぱいたまっているので
あまり大きなお声では言えませんが。
ソフトによっては、パソコン通信の会議室に、
使っている人の要望やバグ報告が大量にあつまり、
作者を含めて話し合いをしながら良いソフトに
育てていくという具合に
バージョンアップをしていくものもあります。
定番ソフトといわれているものには、
そういうものが多いです。

(12)シェアウエアを作っている時に
ウレシイことって何ですか?
逆にツラい事ってどんなことですか?

うれしいことは、ユーザからメールをもらえること。
つらいことは、べつにないなあ。

シェアウエアを作ってるひとは、
・お金をもらう喜び
・自分が作ったものを使ってもらう喜び
・いろんなメールをもらう喜びをいくらかずつ
 合わせ持っていると思います。
 私もそうです。

(13)まだ、書き足りないことなどありましたら、
御自由に書いてください。


最近、千年日記のように、
お金を払うとパスワードをもらえて、
それを入力するといつまでも使えるという
シェアウエアが増えてきました。

それに伴い、パスワード破りや、
パスワードの流出が問題になることも多くなりました。
どこかからかき集めたり
自分で解読した登録キーをホームページに
載せちゃうひとがいるんですね。
私も見たことがありますが、
有名パッケージソフトや有名シェアウエアが
大量に載っています。
これにはホントにまいります。
ニフティのシェアウエア作者が集まる会議室でも、
よく話題になります。

それに対抗しようと、
とても難しいパスワード生成方法を考えたり、
正規ユーザかどうかを認証する
複雑な仕組みを組み込んだりする
ソフトもあるようです。
また、不正に流通したパスワードを入力すると
使えなくなってしまうというのもあるようです。

みなさん苦労しています。
でも、それって、とても大変なことの割には
徒労だと思います。
どんなにがんばっても、悪意を持っている人は
それを破るだろうからです。
登録の仕組みを複雑にしたために、
普通のちゃんとお金を払うユーザの手続きが
煩雑になったりしたら
本末転倒じゃなかろうかと私は思います。
そのあたりの努力はほどほどにして、
本来のソフトを良くすることに労力を傾けたほうが、
たくさんの人が喜ぶんじゃなかろうかと。

昔は日本も、パッケージソフトの違法コピー天国でした。
企業ぐるみ、学校ぐるみで大量にコピーして
使っていました。
罪の意識が薄かったんですね。
でも、啓蒙活動のおかげで、だいぶ減ってきたそうです。
シェアウエア作者の地位向上のために、
継続使用をするときはシェアウエアフィーを
払いましょうという啓蒙活動をしている
団体がありますが、私はその考え方に賛成です
(私はその団体には属していません)。
パスワードの仕組みを難しくするよりは
意味があることのように思えます。


どうなんだろう。
この赤裸々に答えてくれるっぷりは。
ありがたし。

相沢さんの回答を読んでいて、
結局のところ、ユーザーにしても、
作家の方にしてもシェアウエアは、
良心というか、ひとの心の介在する
プロダクトなのかなあと強く思った。
やっぱり人に対して、寛大で解放されてる感じがする。

シェアウエアの料金をはらってもらうために
すべきことは、いまあるものを守るために、
パスワードの仕組みを難しくするんじゃなくて、
『ソフトウエアを良くすること』だというのです。


さて、そして、相沢さんのおかげで、
ここに『果報は寝て待て』状態出現。

相沢さんが、所属しているニフティサーブの
シェアウエア作者が集まる会議室に、
上の質問を、アレンジして書き込みをしてくださった。

わたしは、その回答を待つのである。
そしてまっていたら回答がやって来たのである。

次回より、相沢さんの書き込みをみて回答を
くれたシェアウエア作家のかたを御紹介していきます。

1999-03-07-SUN

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