第2話

とよ田さんの大発明。

とよ田
それまでずっと妻のところばかりにいた子どもが、
ある日、ぼくのところに寄ってきて、
はじめて抱きついてくれたんです。
髪の毛を引っ張られたりしまして、
ぼくは泣くほどうれしくて、
やっぱり我慢しきれず‥‥
ついにまんがに描いてしまいました。
それがTwitterで「最近の赤さん」を描くことになった
きっかけです。
糸井
はい。まんがにその気持ちが出てます(笑)。
とよ田
赤んぼがはじめて
自分のところに来てくれたのがうれしくて、
もうなんでも買ってあげます、という気持ちです。

糸井
わかります、その気持ち。
とよ田
そして、つい描いてしまったら、
Twitterで、まず300人くらいの方が
リツイートしてくださいました。
300人も「RT」してくれるなら、
「もっと自慢していいんですか?」
という気持ちになってきて‥‥。
糸井
なるほど。
とよ田
我慢してた堰のようなものが外れちゃって、
以降、ずっとやっています。

糸井
仕事としてまんがを描いていらっしゃる場所では、
それはそれで、描いていてうれしいわけですよね?
とよ田
ストーリーまんがですか?
糸井
あ、とよ田さん、いま顔が変わりました。
とよ田
いや、‥‥たしかに変わりました(笑)。
あっちのまんがはまじめに考えて描いています。
一方、「最近の赤さん」だって
まじめにやってることはやっているんですが、
なんていうか、ほんとうに「好き」でやってるんです。
「好き」しかない感じ。
エンターテインメントでもなくて、ただかわいい、
記録に留めておきたい。
そういうことだけで描いています。
糸井
ぼくは、「最近の赤さん」には、
見逃せない大発明があると思うんですよ。
つまり、自分の登場人物が、ぜんぶ‥‥
とよ田
あぁ、全員が動物なんです。
糸井
そう。
とよ田
いや、そのほうがこう、
病的でおもしろいかなと思って(笑)。

糸井
きっかけは、なにか?
とよ田
まんがのあとがきで、ぼくはいつも
軽いエッセイを書いてるんです。
2ページくらいの
「どうもありがとうございます」というやつです。
そのエッセイのページに妻を出すことがあるんですが、
妻がぼくのまんがのなかで
「このキャラクターが好きだ」と
言ってくれるものがあって、
「じゃあ、そのキャラクターで出してあげるよ」
ということになって、
妻をタヌキにしたのがきっかけです。
糸井
そうだったんですね。

とよ田
妻がその形になっちゃったから、
妻の子どもはこれかな、ということになりました。
うちの嫁と娘だけが「人外」なのも
バランスが気持ち悪いと思いまして、
いっそのことみんな動物にして
ぼくの見てる幻みたいな感じにしたら
おもしろいかな、ということで
なんとなくそのスタイルでつづいてます。
糸井
その大発明が功を奏したのかわからないけど、
「赤さん」はめっちゃくちゃ、かわいいですよ。
山本さんのTwitterで知って、
「なにそれ!」と思って見たら、
かわいくてやめられなくなっちゃいました。
とよ田
ほんとですか?
ありがとうございます。
本物もかわいいんですよ。
一同
(笑)
糸井
ご本人を見せてくださるんですか?
とよ田
ちょっとだけ。
糸井
(とよ田さんの携帯電話をのぞきこむ)
かわいいです。
とよ田
ありがとうございます(笑)。
山本
ぜんぜん違いますね。
小山
タヌキじゃないですね。
糸井
ひじょうにかわいいです。
とよ田
こんなふうに
携帯でみなさんに写真を見せるようなことを
Twitterでやってる感じです。
「かわいいんです、見てください」
糸井
子どもがいる人で、犬や猫を飼ってる場合、
犬猫を自慢することで
「子どもがかわいい」と言いたい気持ちを
しのいでいる場合がありますよね。
子どものことを言うと、
笑われるんじゃないかと思って、気にして。
とよ田
あぁ、それはありますね。
糸井
でも、とよ田さん、
妻と娘を動物にしちゃったおかげで、
とよ田
あ、そうか。

糸井
やり放題(笑)。
とよ田
あ、そうですね。やりやすいですね。
そうかもしれない。
糸井
いまは雑誌でも
連載しておられるんですよね?
とよ田
はい。最初は完全に個人で描いていた
まんがだったのですが、
「ヒバナ」の編集さんから声がかかって、
「雑誌でやりませんか?」と言っていただきました。
糸井
最初は自分だけでやっていることでも、結局、
そっちに道がつくのでしょうか。
とよ田
そうですね。
ぼくとしては好きでやってるもんだから、
商売抜きでぜんぜんいいのですが。
糸井
誰も見てくれなくても、描きたいんですね。
とよ田
描きたい、ただ描きたい。
そして、受け入れられたから、
「あ、描いていいんだ。よかった」と思えます。
でもあるとき、Twitterで
2000RTくらい行ったことがありまして、
「あ‥‥これ、金の匂いがするかも」
と、ちょっと思っちゃいました。
一同
(笑)
糸井
うん。わかります。
でも、お金が入っちゃったからといって
描けなくなるものでもないでしょ?
とよ田
そうですね。
でも、自分の好きなペースでしか
描かないようにはしています。
「ヒバナ」の編集担当の方も、最初は
「もうちょっとページ数があれば」
とおっしゃっていたんですが、
「Twitterでもアップしたいし、
 気楽にやりたいから、最少ページでお願いします」
とお願いしたんです。
糸井
分量をコントロールできるというのは、
ひじょうに大事なことですね。
とよ田
「このまんがで毎回20ページ描いてください」
ということにもしなったら、
目が「お金」になりながら娘を見る状況になります。
それはちょっとしんどいなと思って。
糸井
「娘にちょっと変なことさせてみよう」とかね。
とよ田
そうです。
「何かおもしろいことやってみろよ」
みたいなことになりかねないです。

つづく!

2015-09-30-WED