- 山本さんも、つまり
「岡崎」が描きたいから、
描いているわけですよね。
- そうですね。
-
山本さんのケースは、
「描けるに決まってるじゃん」
といってスタートしてる感じがする。
とよ田さんはプロだったし、
小山さんは描きたいから描いちゃったかんじで。
山本さんは、前からプロへの道を歩んでたんですか?
- いえ、ちがいます。
私‥‥もうずっと、高校生のときも、
まんが家に憧れがあって、
なりたいと思ってたんですが、挫折しました。
絵がそんなにうまいとは思わないので、
とっくに挫折してたんです。
最後に描いたのが、たぶん18歳とかそれくらいです。
- へぇえ。
- それから10年間、何も描いていませんでした。
そのまま大人になって、
絵とはぜんぜん関係ない仕事をしました。
描くきっかけをくれたのが、
まんがの「岡崎さん」とは別の、
もうひとりの幼なじみです。
彼が「まんがを描いたほうがいい」って、
すごく説得してくれました。
杉ちゃんという子なんですけど、
「10年前に読んだ、山本さんのまんがが
すごくおもしろかった」
「才能があるとぼくは思うから、描いたほうがいい」
って。
- すごいね、それ。
なんか泣きそうになるよ。
- はい。
- で、「嫌だ」って言ったんです。
- ええぇえ?
- 「ゲームの新作が出るから、嫌だ」って
断ったんですよ。
- ゲームの‥‥。
- でも、「まんが描け、描け」ってすごくうるさくて、
しつこくて、メールまで来ました。
そんな感じで、いやいや描きはじめたので、
まさかこんな‥‥。
- え?
「岡崎に捧ぐ」がはじめて描いたまんがなの?
- そうです。
- すごい!
- すごい。
- この第1話が、
10年経って描いた、はじめてのまんがです。
「岡崎」を描くために
ペンタブとソフトを買いました。
それを使って、まさに1枚め、という感じで‥‥。
- ほんとに?
- スターダム‥‥。
- それは、山本さんがアマチュアとして登ってた階段が、
まったく間違ってなかったってことですね。
知らず知らずかどうかわかんないけど、
自分なりに勉強してたんでしょう。
- そうかもしれないです。
- 趣味の世界のことだったかもしれないけど、
「やっぱりここは見開きでバンと来ないと!」とか
山本さんなりに、散々やったんでしょうね。
- はい。思ってました。
- だから、甲子園で投げてた子が、
急にプロで20勝してるみたいな状態になるんだ。
- 美術の学校にも通ってないんですか?
- 美大をめざしてました。
その「美大をめざしはじめること」が
挫折するきっかけにもなりました。
絵のうまい人が、メッチャいたんです。
- いますね。
- それに比べ、私はすごく絵がへたで
雑なところがあって、
それは「岡崎に捧ぐ」でも直ってないですけど──、
線が真っすぐ描けないとか、そういうレベルで
美術の先生に怒られました。
ですから、自分は向いてないんだと思いました。
- でも、表紙の1枚絵とか、
趣きのある、すごくいい絵を描かれますよ。
- ありがとうございます。
でも、自信もなくて、
私が連載をさせていただいた「note」という場所は
有料にできるサービスなんですけど、
とても自分の絵でお金をもらえるとは
思えませんでした。
1作品描くごとに、幼なじみの杉ちゃんに送って、
おそるおそる見てもらいました。
「どうかな」「つまんなくないかな」
「変なところとか、わかりづらいところないかな」
びくびくして訊いてたくらいですから、
みなさんに対して
「おもしろいから、これ見て」
なんていう自信はまったくなかった。
- 感覚としては、
「教室の後ろのほうでまわしてるまんが」と
同じなんですね。
- あ、ほんと、そんな感じです。
- だけど、このまんがは手を抜いてないですよ。
クラスでまわすまんがを
「ものすごくちゃんと」描いてるわけですね。
- そうなんです。
ありがとうございます。
- うん。クラスのみんなに向けたまんがは、
どうせ見てくれるメンバーがいるから
だんだん手を抜いていくものです。
でも、山本さんのまんがには
「手を抜いたらいけないな」という感じが
一本、通ってますね。
それは、山本さんの性格ですか?
- 絵をずっと描いていなかったので、
描きながら鍛えてたのかもしれないです。
- すごいなぁ。はじめてでこれって。
- 恐ろしいですよね。
でも、みなさん、すごいですよ。
みなさん、恐ろしいことやってます。
- そうですよ、私から見るとみなさんが
ほんとうにすごいです。
- 「岡崎に捧ぐ」は「note」に連載されていたので、
ぼくは代表の加藤貞顕さんから
教えてもらって見ました。
プロになりかけの人とか
アシスタントをしている人とか、
まんが家のタマゴは山ほどいるわけだから
「そういう感じなのかな?」
と思ってたんですけど──
どういえばいいかな、
なんだか、ここまで来た「育ち方」が
いままでの人たちとはちがう気がしたんです。
それはなんなのか謎のままなんだけど‥‥。
分量も、へっちゃらで、ものすごく描いてるでしょ?
- そうですね。
そんなに詰まったりするタイプじゃないです。
- あの‥‥山本さんがTwitterでやってる、
猫がこっち見てるようなまんが‥‥。
あの、激しく省略された猫‥‥。
- 一同
- (笑)
- あの「ひまつぶしまんが」も、
幼なじみの同じ子が‥‥。
- つまり「杉ちゃん」が。
- そうです、杉ちゃんが、
「Twitterで、いま
1ページまんががすごく流行ってるから、
描いたほうがいい」
と言ってきたことがきっかけです。
「働いてるから嫌だ」って
ずっと言いまくってたんですけど‥‥。
- 山本さん、「嫌だ」が多いな(笑)。
- 杉ちゃんに
「1日1枚上げろ」って言われたんです。
「働いてるから」と
さんざん断ったんですけど、
「あんまり内容なくても大丈夫だから!」
みたいなこと言われて。
- 一同
- (笑)
- うん。そうだそうだ。
- そう言われて、Twitterにまんがを
アップしはじめました。
そうすると、むしろそれが話題になって、
人びとが「岡崎」に流れてくれた感じがありました。
- 杉ちゃんすごいね。
- 1ページのまんがも
すごく意義あったことだなと思っています。
- 意義はあります。
あれはすばらしいです。
「内容のないすばらしさ」があるからね。
じゃ、みんなが「内容」と言っているものは
いったいなんだったんだろう?
山本さんのあのまんがを見てて、思います。
2015-10-02-FRI