第6話

冒険まんがを描くべきか?

糸井
みなさんこれから「どうなりたい」というような
ビジョンはあるんでしょうか。
小山
最近、悩むことがありまして。
糸井
はい。
小山
自分のやっている、日記のようなまんがの分野で
好きな作家さんもいるんですけど、
やっぱりぼくが昔から読んでいたのは
ファンタジーや冒険もので、
ストーリーがある太いテーマの
実直に「おもしろい」まんがなんです。
でも、自分はそれを描かなくて
大丈夫なのか? っていう(笑)。
一同
(笑)
とよ田
いわゆる「ジャンプ」的なやつを。
糸井
小山さんは、そういうのは
その‥‥ぜんぜん、描いてないですよね。
小山
はい、ぜんぜん(笑)、描いてないです。
だけどなんだかこう、自分のやっているものが
まんが家への道の裏ワザみたいなもんに思えてきて。
糸井
みんなそうですよ。
とよ田
そうです。
糸井
まんが家への道としては、当然
「少年ジャンプ」みたいなものを
考えるわけですか?
小山
はい。
ちゃんとこう、32ページくらいの。
糸井
そんな「ジャンプ」の呪いを
インターネットが解かしたんだね。
小山
解けたんですね、そうですね、
自由系というか、なんというか。
糸井
自由系(笑)。
小山
このまま、ちゃんとした雑誌で
連載できるようになれればいいですけど‥‥。
というようりもあのぅ、
「ぼくは雑誌で連載したい!」
という思いがあります。
ちゃんとした雑誌に連載するには、
「ワンピース」みたいな作品を
描かなくちゃいけないんじゃないだろうか、
という呪いは、ぼくは解けてないです。
糸井
もしも「ワンピース」みたいなのやってください、
と言われちゃったら、どうしましょうか。
小山
いやぁ、そうですね、そうですね、
やっぱり自分が影響を受けたまんがから考えると、
かわいい女の子が出てきて、
大きなロボットが出てくる‥‥
そういうのを描ければ描きたいです。
糸井
まずは絵をどうするかですね。
小山さんは、ちがう種類の絵も描くんですか?
小山
えぇと、絵はたぶん、
このまま行くと思います。
糸井
このままで、「アベンジャーズ」みたいな?
小山
「アベンジャーズ」みたいな。

一同
(笑)
糸井
でもまじめに、ちょっと見てみたい気もする。
ほかのみなさんはどうですか?
そういった野心はあるでしょうか。
山本さんも
「この絵のままアベンジャーズ」はいけそう。

山本
そうですね、いつかは
ストーリーのあるものを描きたいです。
とよ田
山本さんも、ストーリーまんがは
描いたことないんですか?
山本
ないです。
10代の頃の、ノートに手描きしたような
恥ずかしいやつはありますけど。
とよ田
あるよね。
小山
あるある。
とよ田
俺、それみんな燃やしたよ。
一同
(笑)
糸井
simicoさんは、
猫から離れるのか離れないのか、
という問題があるでしょう。
simico
あ、私は、
猫以外はたぶん描けないんじゃないかなと思います。
糸井
なるほど、「猫以外は行かないと決める」という
やり方はひとつ、ありますよね。
simico
描いたとしても、たぶんあまり誰も
おもしろいと思わないでしょう(笑)。
自分は「飼いぬし」としてまんがに出るんですが、
回によっては私が前面に出てしまうこともあります。
「comico」は、まんがの回ごとに
読んでくださった方からのコメントがつくんですが、
たまに「作者要らない」とか書かれます(笑)。

糸井
そうなのかなぁ。
でもまぁ、いまは、simicoさんは
猫で行こうと思ってらっしゃる、
一方、とよ田さんは、
もともとストーリーものを描いてらっしゃるし‥‥。
とよ田
はい。ぼくの場合は、もともと
ストーリーまんがを描いていますが、
一応、人気とか売上とか、気にしながら描くわけです。
そういうことに対する、
ちょっとうんざりした気持ちが
ぼくの中にはあります。
糸井
いつも激しい競争の中にいるわけですよね。
とよ田
そうです。だから、多かれ少なかれ、人気に合わせて
自分の描きたいことじゃないものも描きますし、
そういうことに対するストレスがあります。
そこから逃れて
好きなことだけを描きたい、ということで
「最近の赤さん」を描いているという一面があります。
だから、別にあれが売れようが売れまいが、
ぼくにとってはどうでもいいことです。
「娘かわいい」「俺が好きなんだ」
というだけの記録ですからね。
ストレスがかかることは仕事としてやってます(笑)。

糸井
これを描くことで、
ストーリーまんがのほうが
楽になったとか、そういうことはありますか?
とよ田
あります。
おかしなものでして、
ぼくはビジネスを考えてやったもののほうが
あんまり売り上げがよくなくて、
逆に人気なんてどうでもいいと思ったマンガのほうが
ウケがいい。
「最近の赤さん」はこれまで
同人誌でしか出してないですけど、
けっこう反応がいいんです。
下手したら、これがぼくの
キャリアハイになるかも、くらいの
反応が起きています。
糸井
「最近の赤さん」、おもしろいもの。
とよ田
へんに読者さんが喜ぶことを考えるよりは、
自分のリビドーのままに描いたもののほうが
受け入れられることが多いんじゃないかと
思いはじめています。
糸井
うん、うん。
simicoさんなんか、絶対それですね。
simico
もう、そうですよね。
とよ田
だから、逆に、
商売のために描いているまんがも、
もっと自分の自由でいいのかな。
そういうことなのかなぁ。
糸井
読者もそれを望んでる気がする。
読者といっても、俺のことだけど(笑)。
小山
ぼくも、ストーリーまんがを描こうと思って、
登場人物を考えるわけなんですが──
主人公がいて、ニヒルなライバルがいて、
こういう悪いやつがいて──って考えるんですけど、
どう考えても、それよりも、
過去にぼくが会ったやつ、
ほんとうにあった出来事のほうが
おもしろいんです。
とよ田
うん、うんうん。
小山
フィクションがノンフィクションに負けてる。
読むほうも、
「これが実際にあったことなんだ」
と思って読むと、
そのおもしろさって強烈やな、と思いまして。
とよ田
フィクションのものより、完全に
プラスアルファがありますよね。
リアリティがもちろんあって、
ハラハラ感が増す。
小山
「東京のここのあたりに住んでて、
 こういう人は実在してて、
 マジでこうなんです」
糸井
ストーリーのある映画でも、最後に、
「これはほんとうにあったことで」
というメッセージをくっつけたりしますね。
山本
ありますね。
糸井
「あったの? ないの?」
というところでのお客さんの反応って
馬鹿にならないですよ。
「岡崎なんかいない」って、言われたら!
一同
(笑)
糸井
たいへんな抗議が来そうです。

つづく!

2015-10-06-TUE