- 私、じつはいま
バイトを辞めようかと思っていて。
- おぉ!
- いままでメインでやってた仕事を辞めて、
まんが一本にするかどうか‥‥いや、でも、
不安だから、ちょっとキープしています。
みなさんは、どこかで辞めたんですよね?
- ぼくは最初、まんが賞に作品を送りました。
そのとき、90万円ほどの賞金をいただいたんですが、
賞を獲ったことを、
バイト先のロッカールームで着替えてるときに、
携帯の留守電で知りました。
90万もらうとわかった瞬間に、その足で
店長のところへ行って
「辞めさせてください」って言いました(笑)。
- それがデビューなんだ。
- そうです。
その90万を使って
「これでしばらくバイトしなくていいや。
できるだけ作品描こう」
と思いました。
- simicoさんは、バイトはバイトでも、
ご自分に向いてるバイトが
いま、できてるわけですよね?
- そうなんです。
辞めちゃうのが、いま、もったいない。
もしまんががだめだったら、
後悔するんじゃないかなぁ。
- むずかしいですよね、たしかに。
- ぼく個人の意見でいえば、それは
そのままやってればいいんじゃないかな、
と思います。
そのままでいて、そのうち、
はっきりわかる日が来ます。
- あぁ、きっとそうですね。
- おのずとね。
とよ田さんは最初から辞めるつもりで
バイトしてましたか。
- そうですね、
絶対に辞めてやると思ってやってました(笑)。
- 辞めるときが来なかったら、
「俺は芽が出ない」ってことですね。
だから、ほんとうは辞めるに決まってた話なんですよ。
いま、simicoさんは、
決めるときが来ていないのです。
辞めたい気持ちはあるけど、じつはいま、
うまくまわっているんですよ。
- はい、そうですね。
- もっとまんがを描きたくなっちゃったら、
もっとずーっと、悩みます。
そのときちゃんと答えは出ますよ。
- 人生相談みたいになってます(笑)。
- ついつい。
- 一同
- (笑)
- 自分にもそういうことがあったんです。
昔のことを思い出すと、
「あの時代、悩まなければほんとうによかったのに」
ということが多い。
こうして若い子たちが悩んでるのが
「そんな余計なこと考えて」
と言いたいことだらけなんです。
自分がどうなっていきたいか、というところが
やっぱりいちばんおもしろいんですよ。
- でもね、ぼくはこの先、
自分の行動として
「出版社に持ち込む」という
段階があると思うんですけど、
そのやり方が具体的によくわからなくて、
ただただ、待っているという状態なんです。
- 小山さん、2冊も本が出てるわけですし
けっこう声がかかるでしょう?
- いや、ないんです。
だから出版社に持ち込もうと思ってて。
ぼくはいつも
コピー用紙に鉛筆で描いてるんですが‥‥
- そうなんだ。
- はい。そんな原稿を持っていって
ほんとに大丈夫なのかとか(笑)、
そういうことすらわからないんです。
- ‥‥これ、鉛筆なんですか?
- そうなんですよ。
ほら、これも鉛筆で(絵を出す)。
- 見たい、見たいです。
ああ!
これ、鉛筆なんだ。
- いいな、こういう会話。
- あの絵が、鉛筆!
- 「コピー用紙に鉛筆」だと、
死ぬほど力抜いて描けますよ。
どちらも高くないし、
コピー用紙なんて何枚でもあるので。
- この座談会に、
担当編集さんが何人か同席されているので、
いま、プロの編集者に
訊いてみたらいいじゃないですか。
- あぁ。ほんとだ。そうだった。
- どうですか、編集のみなさん、
原稿を鉛筆描きで持ってこられたら。
- 編集の方
- びっくりします。
- 一同
- (笑)
- そうですよね。
- でも、小山さんは、すでに
認められてるわけだから。
- そうそう。
人に支持されるかどうかのテストを
すでに受けてる人たちとして、扱われますよね。
- 編集の方
- はい。それはそのとおりです。
持ち込みの方で、いままでこういう人がいなかった、
という意味でびっくりするだけで。
- 「これですか?」ということにいったんはなるけど、
それを活かせる場所が
あるかないかの問題だけでしょうね。
- ひそひそ。
(帰りにね、「ヒバナ」とか「スペリオール」の人に
今後を相談していくといいね)
- ひそひそ。
(そうですね)
- 雑誌の作品応募だと、
原稿のサイズ規定があったり、
鉛筆じゃ無理だったり、
いろんなルールが決まっています。
10年前だったらTwitterもなかったし、
小山さんや私は、
たぶんまんが家にならなかったと思います。
- 編集さんのフィルターを
通らなかったかもしれないですね。
鉛筆の原稿を持ってきたら、
「ちょっとごめんなさい」って、
編集さんも言ったかもしれない。
- そうですね、きっと前なら通らなかったと思います。
- いま思い出したけど、そういえば昔、
まんがの審査員をやってたことがありました。
投稿の規定を「守ってる」ということの意味は、
ほんとうに、ない。おもしろくない。
- ぼくは「ジャンプ」の新人さんの読みきりとか、
闘魂漫画だけが集まった「赤マルジャンプ」を読んで
ケチつけるのが
小学校の頃からの趣味だったんですけど(笑)。
- 嫌なガキだな(笑)。
- 「こんなんでいいんやったら、俺だって!」
みたいなことをずっと言ってたんですよ。
- ほんとうなんじゃない? それは。
投稿する力がなくても、
何を自分がおもしろいと思ってるかは
わかっているわけです。
それをさんざん経験してる人たちが
こうしてまんがを描こうとしてるわけですよ。
俺がおもしろいと思ったものを描こう、
という気持ちはあるでしょ?
- そうですね、それはあります。
- それは強いですよ。
- せめて「自分が笑ったらOK」みたいに
思っているところはあります。
山本さんのまんがで、
山本さんがお父さんを肘掛けにしてる
シーンがあるんですけど。
- はい、あります。
- 山本さん的にも笑いながら描いてるはずなので、
そういうのがいいと思います。
- ありがとうございます(笑)。
- 4人のみなさんが持っているおもしろさは、
苦労してる中からは、出てこないんですよ。
長年誰かのアシスタントや助手を
やらなきゃいけないってことはない。
ペンで描かなきゃいけないこともない。
もう、みんないい気になったほうがいいと思う。
人として間違ってなければ大丈夫。
- はい!
2015-10-09-FRI