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新潮文庫が
愛読者の皆さんから支持を
いただいている理由は、さまざまかと思います。
しかしその中でも、
「○○があるから新潮文庫を買っています」
「○○はずっと続けて下さい」
という声が非常に多く、ときに、
「もし○○をやめたら、もう買わんぞ!」
と脅しめいた激励まで頂戴してしまう秘密兵器(?)
が新潮文庫にはあるのです。
○○とは何でしょう。
意識していないと
気が付かないかもしれませんが、
数ある文庫レーベルの中で、
唯一、新潮文庫にだけあるものです。
ここまで言えば、
わかった方も多いでしょう。
そう、これです。
この紐しおりのことを
出版用語で「スピン」と呼びますが、
第三期(連載第3回参照)が始まった
1933年から終戦直後の物資不足の時代を除き、
新潮文庫には現在まで一貫して
このスピンが付いています。
もっとも、
昔は他の文庫にもスピンはあり、
新潮文庫独自のもの、
というわけではありませんでした。
ところが、
コストダウンなどの理由で
スピンを取りやめる文庫が増え、
いつのまにか、
新潮文庫にだけスピンがついている
という状況になってしまいました。
意図せず新潮文庫の
「隠れたシンボル」
とも言える存在になったのです。
たしかにスピンをつけるには、
それなりのコストがかかります。
新潮文庫では、
その上面
(天:てん、と言う。逆に下面は地:ち。
背の反対側は小口:こぐち、という)が、
少し不揃いになっていることをご存知でしょうか。
これはスピンを入れるために
出版用語で「天アンカット」と
呼ばれる製本手法をとるためです。
一見したところでは、
天、地、小口の三方を切り揃える
一般的な「三方裁ち」の方が
コストのかかりそうなものですが、
じつは天アンカットの方が、
紙の折り方
(本は通常、大きな紙に複数頁分をまとめて刷ってから、
それを何度も折り返し、
折り曲げた部分を裁ち落として、形にしてゆくのです)
や揃え方にも工夫が必要で、
工程も増え、製本代が割高になります。
もちろんスピンそのものの原材料費や
スピンをつける工賃もかかります。
経費の捉え方にもよるのですが、
スピンのためのコストは、
一冊あたり10円ほどになります。
しかし新潮文庫では、
他の面でコストダウンをはかることで、
スピンをつけても
読者の皆さんに安価で文庫を提供している
と自信をもって言えます。
このようにお話すると、
「なぜ、そんなにスピンにこだわるのか」
という疑問が沸いてくるかもしれません。
しかし、こだわっているわけではなく、
当たり前のことだと考えているのです。
スピンをつける理由は、
「読書において非常に便利である」
ことはもちろん、
「安価で軽装な文庫本といえども書籍であり、
これを蔵書として扱う読者にこたえたい」
という考えが新潮文庫にあるからです。
言い方をかえると、
「読み捨てにされるような文庫は出していない」
という私たちの自負でもあるのです。
ちょっと格好良すぎましたか?
新潮文庫では、
これからもスピンを付け続ける方針です。
スピンをご愛好の皆さん、
どうかご安心下さい。
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