-和田さんによる解説-
志ん生さんの『寝床』
(しんしょうさんのねどこ)
落語『寝床』は、義太夫狂いの大旦那が
奉公人や店子を集め、演奏会を催そうとするが、
これまでにヘタクソな義太夫をさんざ聴かされ、
ひどい目にあっている周囲の人々は
あの手この手で欠席しようとする‥‥という噺。
桂文楽の規矩正しき『寝床』は、
全員欠席と聞いた大旦那がへそを曲げるが、
番頭のヨイショで機嫌を直すというくだりがひとつのヤマ。
大旦那の心理の変化が、手に取るようにわかるのである。
そのあと、義太夫の会になり、
終演後、小僧が言った一言でオチがつく。
志ん生の『寝床』は大胆に噺の前半だけを一席にしたもの。
大旦那の義太夫がいかに物凄いかという噂話になり、
かつて、義太夫の大音量から逃げた番頭が
蔵の中に逃げ込んたが、
大旦那は蔵の窓から義太夫を語り込んだという
恐怖の一夜が回想される。
「それで番頭さんは、いまどうしてる?」
「それがもとでドイツに行っちゃった」というのがオチ。
旦那が語りながら番頭を追いかけ廻す構成は、
初代柳家三語楼の工夫と言われる。
おそらく道成寺伝説の
「鐘に逃げ込む男と追いかける大蛇」を
下敷きにしているものであろう。