質問十  僕は獣医を七年間やっています。 もう三十歳にもなります。 いい年なのに、 犬や猫が死んでしまったとき、泣いてしまうのです。 苦しそうな顔のとき、 僕もとても苦しくなってしまう。 毎日が心配の連続にもなる その気分はとてもたまらなくて、 そんな気分では失敗することもあります。 皆がそうかというとそんなことはなくて、 経験がまだないというのもあると思うけど、 これは、弱いということなのか、 僕に足りないものはなんなのか、 どうしたら笑顔になれるのでしょうか。  (mato 三十歳)
谷川俊太郎さんの答え  泣いてしまう、苦しくなってしまうのは、 獣医としても、人間としても とても大事なことだと思います。 弱いとか足りないとか 自分をマイナス評価するのはやめて、 それが自分の強みだと考えたらどうですか。 その上で動物たちと自分とのあいだに 心理的な距離をおくように意識する。 自分の職業的スキルを精一杯生かすことに 気持ちを集中すると、 対象に感情移入する隙がなくなるのではないでしょうか。 毎日が心配の連続になるのは、 もしかするとそういう「弱い」「苦しむ」自分、 情が深い自分を心の底で 肯定しているからかもしれません。 もしそうだとしたら、 それは自己陶酔につながりかねないから 避けたほうが失敗が少ないと思う。

2009-01-06-TUE


illustration: NANAE EDA //(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN