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| 禁煙のセラピーで一服しよう。 darlingはタバコをやめるのだろうか？ |
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にこにこ笑うニコチン中毒患者の夜。 鼠穴に戻ったのは、１０時頃だった。 もちろん、その時刻からのミーティングもあったし、 翌日の「ほぼ日」の原稿も書かなくてはいけない。 スタッフの皆様は、ぼくを ちょっと警戒するように見ていた。 それは、「なにか別人格になっているのではないか？」 というような不安からくるものだったらしい。 「どうですか？」と、訊ねる者もいなかったが、 ぼくは、爽やかに言ってやりましたよ。 「やめたよ！」 みんなが、ほっとしたような疑わしそうな目を向けた。 「そうですか？！」 セラピーに出発する前の日には、 喫煙グループの人々は、 「なんだかさみしくなるなぁ」とか、 まるで暴走族の先輩が就職を決めた時のように、 チープな感じのセンチメンタルをやっていたが、 いざ、ぼくがちょっと澄んだ目をして 「いやぁ、タバコは毒だし」なんて言うと、 歴史の転換点に立ったような感慨にふけってしまうのだ。 あ、うそうそ、それはぼくの想像ね。 でも、なんとなくさ、 いよいよタバコ文化の滅亡の世紀が来た、というような 中毒者なりの感慨はあるだろうと思うよ。 １０時には、森川くんと岩田（電脳部長）さんが、 朝まで覚悟の長めのミーティングをするために待っていた。 みんなは「ほぼ日」に関わっているdarlingばかり 知ってるんだと思うけど、 そうじゃない仕事もちゃーんとやってるわけよ。おほほ。 その日のテーマは、ま、企業秘密ってことなんだけどさ、 けっこうシビアに頭つかわなきゃいけないのは、 いつもの通りだったわけでさぁ。 ところが、ミーティングの流れが、 いつもと違って滞るのだ。 滑らかにならないというか、淀むというか、 前に行かないのよ、ちっとも。 何故か！？ ぼくがちっともしゃべらないからでーす。 しゃべりたいのだけれど、しゃべれないんだよ。 森川くんと岩田さんの会話の内容を咀嚼して、 そこにぼくなりの考えを差し込んで、 会話を回転させていかなきゃいけないのに、 それができないのだ。 いちいち、彼らの話の内容を頭のなかで整理して、 それを組立直して、 組み立てている過程をそのまま口に出して、 自分が何を考えればいいのかを、考える・・・わかる？ このじれったい感じ。 「だから、ひとつの考えとして、 これこれこれの方向があるだろ。 でさー、それっていうのは、これこれの事情から 出てきているわけだよねー。 そんでそんで、つまり、だということは、 あれのことなんかも関係してくるわけだから、 んーとんーと、 ぼくはそこで、何を言えばいいかというと、 あああああ、もうちょっとで言葉になるんだけれど・・・ うう、わからん、くるしい」 読んでいてもイヤでしょ。 何を言いたいのかもわからないでしょ。 しかも、すっごくこれを遅口（早口の逆ね）で言うんだよ。 ぼくだって、本人だってイヤですよ。 つらくてしょうがないんだ。 とうとう岩田さんが、 「イトイさんから、言葉のことで質問うけたの はじめてですねぇ。あはははは」と笑い出してしまった。 それは、 「ああ、ぼくが言いたいのは、なんだっけ？ なんて言えばいいんだ？」と、ものすごくスローに ぼくが言った直後だった。 ミーティングになんかならない。 タバコを吸えないのが苦痛だというよりも、 頭と口が回転していないのがつらかった。 「タバコの禁断症状なんですかねぇ？」と、 みんながおもしろそうに聞く。 聞かれてからぼくは気がついたくらいだ。 タバコが吸いたい、よりも、 ちゃんとしゃべりたいという気持ちが苦しかった。 これが禁断症状か、とあらためて驚いた。 前にちょっと禁煙めいたことをしたときは、 こんなことはなかったのになぁ。 ぼくは、とにかく不気味に笑うしかなかった。 ニコチン中毒者が、禁断症状が出て笑っているという姿さ。 タバコを吸いさえすれば、このじれったさは治るのか？ そうかもしれない。 しかし、これは、 タバコをやめるときにはもれなく付いてくる おまけのようなものなのだ。 朝までやるくらいのつもりの集まりは、 午前３時くらいには終了してしまった。 ミーティングのメンバーのなかに、 役に立たないやつがいたから、話が進まないからだ。 そんなことなら、寝たほうがいい、というわけだ。 「ごめんねぇ・・・・おやすみなさい」 かなり落ち込んで、ぼくは帰宅の準備をした。 翌日のスケジュールを見たら、 取材やミーティングが４本立て続けに入っている。 この調子じゃ、やれないわぁ。 明日は、どうなるんだろう。どうしよう。 あさってだって、仕事は簡単じゃないよ。 セラピストO嬢先生は、 「禁断症状をおそれることはありません。 精神的なものがほとんどで、実際には ちょっと風邪に似た状態になるだけです。 軽く熱っぽいとか、鼻水がでるとか、 少しぼーっとするとか。 ですから、ね。 風邪をひいたな、と思ったら寝るとか、休みますよね。 そのくらいに思っていたらいいんです」 と言っていたっけ。 だけど、ぼくはいま、風邪ひいて休む余裕ないのよ。 ほんとなんすから、もう。 だって、いろんな取材とか受けているときに、 「だからーー、つまり、その・・・・ えーとえーと・・・何が言いたいかというと、えーと」 なんて言い続けられないでしょ？ 心から困ったね。 次が最終回だよ。 |
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