大貫妙子・奥田民生・鈴木慶一・宮沢和史・矢野顕子。
この5人が、ことしの夏、いっしょに、全国7都市で
コンサートをひらきます。
「えええっ!?」
と思ったひとも、思わなかったひとも、
まず、2月9日の「今日のdarling」を
もういちど読んでください。
話は、そこからスタートします。
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昨日はなんだか眠れなかった。
夜、遠いところから電話がかかってきて、
「お願いがあるんだけど、いい?」って。
そりゃ、もう、その人のお願いはいいに決まってるわけ。
「いいよ。なに?」
ってことで、かくかくしかじか・・・なんだけど。
こんなうれしい頼まれごとってあるんだろうか!
人生わずか五十年と言った織田信長には味わえなかったね。
この年齢になって、こんな気分になるなんてねぇ。
新人になったような、二十歳の若者になったような、
うれしい緊張感が走ったよ。
いままでいろんな仕事をしてきたけれど、
これは、もう、自分の考えでは思いつかない種類の
夢の仕事だろうなぁ。
あと二ヶ月後くらいには発表すると思います。
それまでにいいものができていなかったら、
なんどでもやり直すよ。
でも大丈夫なのよ、絶対できるの、俺だから。
んもうっ・・・ああもしたい、こうもしたい。
だめ! 興奮する。
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このときの話は、これだけ。
その「かくかくしかじか」は伏せられたままでした。
その夜、darlingは鼠穴で、バス釣りゲームを
していました。そしたら、電話が鳴った。
「NYの矢野顕子さんからお電話です」
それが、「Beautiful Songs」の始まりでした。
darlingさん、その日のこと、詳しく話してください。
──いったい、その夜、どんな話があったんですか?
「あのね、お願いがあるんだけど」って、
あっこちゃん、言うんです。
あっこちゃんから詞を頼まれるときって
いつもそんな感じなんですよ。
それで、電話であっこちゃんと喋っていると、
つい気分が乗って「すぐ出来るよ!」って返事しちゃう。
喋って、あっこちゃんの声を聞いて、
なんとなく作る気になったときに書きだすと、
すいすい出来るんだよ。
出来てから別の仕事やって、
清書しながら直して、
そうしたらもう出来上がりで、
その日のうちに送ったりできるんだ。
そういうメカニズムで作ってきたわけ。
その日の場合は、まず、コンサートの概要を聞いたんです。
5人のメンバーの名前をね。
「おお、それはいいよ! いいじゃない!」
「それでね、頼みたいんだけどね……」
じゃあ、それ用にアルバムをつくるとか、
そういう話かなと思いながら聞いてた。
「俺、詞はね、絶好調だよ!」
なんて自分を鼓舞するようなこと言って。
あっこちゃんは、そのコンサート用の歌をひとつ、
頼みたいって言う。
「いいよ!」
そしたら、それはあっこちゃん用の歌詞ではなくて、
1コの詞に、全員が、別々の曲をつける、
って言うんだよ。
そんなの今まで聞いたことない。
1コの曲に2度詞をつけた、っていうことはある。
でもね、その5人が別々に曲をつけて歌うための詞、って、
すごく正直な気持ちとしては、
「……無理だよぉ」だったんだ。
だって、メンバーを考えると、
普段歌っている歌が、ぜんぜん違うじゃない。
それに、奥田くんって、
ほかの人に詞をお願いするということは
ほとんどないはずなんだよ。
でも僕は、ほかの人に詞をゆだねないタイプの
アーティストの詞を書いた例がふたつある。
ひとりは忌野清志郎で、
もうひとりが井上陽水なんです。
そういう珍しいことって楽しいじゃない。
初めてのこと、珍しいことって、とにかくやりたい。
だけれど、ひとつの詞で5つ曲がつくなんて、
いまだかつて聞いたことがない。
それが全員、僕の好きなアーティストなんです。
それってさ、「モテモテおじさん」みたいじゃない!?
だから、「おいおい、でっきるかなぁ、うわぁ……!?」
って言ったんだよ。
でも、これを断る人間はいない。
僕はあっこちゃんに
「中学生になったような気分だよ」
って言ったんだよ。
つまり、世の中ととくに関係をもってなくて、
“こういう仕事がしてみたいなあ”って
思っている中学生がいるとするよね。
バンドやりたい子だったらCD出したいなあって思ってる。
そのときに、プロフェッショナルの人から、
「君、CD出さないか?」
って言われたら、ものすごくうれしいよね。
「わぁ、いいんですか!? ほんとですか!?」
って、……この歳になってそんなこと言える機会って、
まず、ないよね。
仮にアラブの大金持ちが100万億円くらい持ってきてさ、
“キミ、ひとつこれで事業をやってくれ”
なんて言っても、それは違うよね。
“武道館で踊ってくれたまえ”それも違う。
僕にとって詞を書くことって、
ちょっと手付かずで残してきた世界で、
遠慮がちに営業しているわけですよ。
仕事じゃなくてもいいや、って気持ちで。
その世界で急にハーレムに突き落とされたわけだからさ。
突き落とされたような、
でも胴上げされたような、
そんな気分になっちゃって、
電話口で「俺はやるよ!
だけど、出来るかなぁ」
ということを何回も繰り返していたんだ。
詞の場合ってね、頼まれたときに何を書きたいのかが
わからないと、書けないんです。
だから、実はもう、わかっているんですよ。
ああ、どういうふうに作ろうかなあ、
ってことを思いながら電話をしてた。
あっこちゃんからの電話を切って、
「うわぁ、まだ、人には言えないけど、
うれしいっていう事実は言ってもいいや」
て思って、いても立ってもいられなくなって、
仕事が手に付かなくなっちゃって、家に帰ったんだった。
こんなにうれしいことは、もう、一生ないっ!
って言いながら帰ったんだよね。
それで書いたのが、あの日の「今日のdarling」。
生きててよかった、とさえ思ったよ。
だってさ、去年死んでたらさ、できなかったもん。
ちょうど『詩なんか知らないけど』が出るところで、
楽しいなあという気分はあったんだ。
考え込むんじゃなくて、
言葉をポンポンポンって置いていって、
それを楽しむみたいな、
そういう詞を書きたい気分がある時期だったんで、
「あっこちゃん、見てたのかよぉ!」
ていう気持ちだったな。
でも、ある種、プレッシャーは大きいですよ。
なんて言ったらいいんだろう。
自分ちの子供を、5人といっしょに育てるわけでしょう。
それ、すごいよねえ。5つ子を生んで、
違う人に預けて、違う性格に育つ、みたいな。
やっぱりね、大貫妙子さんとのマッチングを、
いちばん考えてしまう。
僕がずっと書いている詞と、大貫さんが歌っているのは、
違う世界だから。
でも、大貫さんは
「イトイさんならいいよ」
って言ってくれたらしい。
みんな、ちょこちょこっと、
いっしょに組んだことはあるんです。
奥田くんとは、曲とかではなくて釣りなんだけどね。
慶一くんともあっこちゃんとも一緒にやっているし、
宮沢くんは、僕の書いたコピーのナレーションを
してもらったことがある。
でも、大貫さんとは
「書いたものを声に乗せる」
というような接点はなかったわけでね。
喋ったりはするけど。
この仕事、できないとしても、でも、誰にも渡したくない。
そうも思ったんだよね。
他に……あえていえば松本隆あたりかな。
どっちにしても、
「だいたいこういうものをつくるだろう」
という予想の範囲が読めて、なおかつ、
ある種の裏切りがほしい、という感じですよね。
そういうことを考えながら、
「生きててよかった」
「中学生みたいだ」
なんて思いました。
──この“Beautiful Songs”というタイトルも
糸井さんがつけたと聞きました。
コードネームとして「song」という言葉があったんです。
「うた」というものを大事にする人たちが集まって、
聞くだけじゃなくて、歌う「うた」、
「うた」っていいなあ、っていう、
そういうコンサートにしたいという集まりだったわけ。
仮に、いろんな飾りをつけないで
「song」という言葉を
そのコンサートのタイトルにしたらどうか、
という意見もあった。
製品のコードネームがそのまま商品名になっちゃう場合が
あるでしょう。あれと同じように、ほかに思いつかなければ
「song」でいいか、というところに行こうとしてて。
みんなも、何をつけてもピンと来ない。
ま、いっか、と思ってたんだけど、
僕は、「song」だけポンとあるのが、
ポップアートみたいでいやだったんです。
で、なぜか、そのときは、
いつもなら「まいっか」と言うタイプのあっこちゃんが、
「うーん……なんかねぇ、“song”ってねえ……」
って言った。
おそらく、外国人がsongって聞いたとき、
すごくつまらない、そっけない感じ、
「ほかにやりようがなかったのかよ?」
という感覚があったと思う。
ほぼ日でも、シルくんのぺージが「カミ」だけだったら
面白くないかもしれない。
でも「まっ白い」がついて「まっ白いカミ」になったとき、
なにものかになる。
ああいうようなものが、このテーマで、何かないかと。
「じゃあ、タイトルづけ、俺がやるよ」
って言ったんです。
でも最初の会合のとき、ほんとうは自信がなかったの。
締め切りが迫っていたので、宿題にして、
2〜3日じゅうにぜったい出すから、って。
結構悩んだね。一週間くらい考えた。
「Beautiful Songs」っていうタイトル、
これしかないと思ったんだけれど、
あとは外国人から見たときに変な英語に見えないかなあ、
ということもふくめてみんなに聞いてみた。
そしたら「オーケーです」って。
あっこちゃんは、僕がわざとかたい言葉で
メールを書いたら、
「Beautifulっていう言葉は、ただキレイって
意味じゃなくて……だから、いいんだよね」
ってことを一生懸命書いて返してくれた。
そしたら、大貫妙子さんが
「そんなに無理して説明しなくても、みんなわかってます」
って(笑)。
みんな賛成してくれて、決まりました。
ついてみたら、やっぱり、こんないいタイトルはないよ。
ほぼ日ではこの「Beautiful Songs」を、
いろんな角度から応援していきます。
どんなことができるか、
いま、いろいろ企画中。
ぜひとも楽しみにしていてください。
2000年夏、心に「うた」が響きます。
5人で歌う、5人の“ビューティフル・ソングス”。
2000年7月、全国に「うた」が届きます。
大貫妙子、奥田民生、鈴木慶一、宮沢和史、矢野顕子。
それぞれの活動の中で信頼関係を育んできた
この5人のメンバーが自ら発案したコンサート、
それが「Beautiful Songs」です。
7月6日の名古屋からスタート、7月18日の大阪まで
全国7都市(全9公演)に「うた」を届けることに
なりました。5人が自分自身の曲を歌うのはもちろん、
このステージのために選んだ「うた」を、時にはソロで、
時にはデュエットで、そして時には全員で聞かせてくれる、
そんな贅沢で楽しいステージを展開します。
はじまりは「うた」でした。
この5人の名前を見て、「ああ、なるほど」と思う方も
いれば、「え?」と一瞬戸惑う方もいるかもしれません。
でも、今回はひとりが中心人物なのではなく、
ここに集った5人が主人公。それぞれ連絡を取り合う内に
自然とメンバーが集まりました。
そして、その真ん中にあるのが「うた」。
世の中には一瞬で消えていく歌もあれば、
何年も歌い継がれる歌もあります。
そんな流行り歌の宿命とは別の次元で、
大切にしたい「うた」がある。
5人の中にあった、カタチこそ違うけれど共通する想い、
それが「Beautiful Songs」のはじまりだったわけです。
美しい「うた」と出逢いを。
そんな5人の想いから命名されたタイトルが
「Beautiful Songs」。
ステージで歌われる「うた」そのものの美しさはもちろん、
その奧にあるメンバーそれぞれの個性や才能、
テクニックの美しさも、そこには込められています。
さらに今回、このステージのために全員が競作する
スペシャル・ソングもスタンバイ中。
それがどんな「うた」になって披露されるかは、
当日までのお楽しみ。5人のメンバーがここであらためて
出逢い、そして美しい「うた」が生まれる。
「うた」と出逢いの「Beautiful Songs」。
御期待ください。
●7月6日(木)
名古屋センチュリーホール
●7月7日(金)
フェスティバルホール(大阪)
●7月9日(日)
Zepp Sapporo(札幌)
●7月11日(火)・7月12日(水)
東京国際フォーラム・ホールA
●7月14日(金)17:45開場/18:30開演
仙台サンプラザ
●7月16日(日)
広島郵便貯金ホール
●7月17日(月)
福岡サンパレス
●7月18日(火)
大阪国際会議場
※チケット発売は4月末の予定です。
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