糸井 |
『Beautiful Songs』って、
この5人が集まったからこそできた、というものを、
みんな、見たいわけだよね。 |
鈴木 |
そう。それはね、どういうことかっていうと、
観客・われわれ・個人、この3つが、
「ああ面白かったな」とか「ああ感激したな」
っていうものになることなんだよね。
それはきっとステージになれば「個」の集まりだから、
やっぱり自分のことを考えるでしょ。
がしかし、たとえば、
「俺がいま歌ってるの、ほかの4人はどう思うかな?」
と思うわけだよ。
そうして、観客も。
観客とわれわれと俺個人、
この3つが、満足感を得なきゃいけない、
というところがいちばん肝だと思う。 |
糸井 |
うん。 |
鈴木 |
ふつう、コンサートをやる場合は、
自分対観客だったりするわけだ。
ダイレクトなんだけど、どちらかというと、
間にもうひとつ、5人、というのがいる。 |
糸井 |
怖いモニター。 |
鈴木 |
演出家が5人いるというかね。
そういうお芝居のようなものだよね。
自分を真ん中にして、
両方向に音楽を聴かせなくちゃいけないな、
っていうことなんだ。
そのことが緊張感を生むと思うけどね。 |
糸井 |
よくある「アニバーサリー」とは全然ちがうじゃない。
その気分があれば「こんなもんでよかんべ」ってのが
だいたいわかるけど、今回は、
「ナントカ記念」でもなんでもないじゃない。 |
鈴木 |
なんでもない。 |
糸井 |
そこが面白いよね。 |
鈴木 |
芸能生活何十周年でもないし、
誰かにトリビュートするわけでもないし。
自分にトリビュートしてるんだろうね。
自分にトリビュートしつつ、相手にもしつつ、
5人、常に1対4の構図になるわけだけど、
それがステージ上で展開されることが
目標なんじゃないかな。
それさえできれば、観客も満足すると思いますよ。 |
糸井 |
とりあえず観客は、それぞれのファンとして
チケットを買うよね。 |
鈴木 |
とうぜんそうだろうね。 |
糸井 |
だけどあいつがいてよかったよね、
というのを、ほかの4人に、どれだけ思わせられるか
ということだろうね。 |
鈴木 |
だから結局のところ怖いのは……
怖いというより意識するのは、
観客に対してだろうね。
5人に対して、だいぶダブってるひともいると思うよ。 |
糸井 |
だいぶダブってるだろうね。 |
鈴木 |
ダブってるんだけど、
ダブんないとこもあるんだと思う。
そういう集まりだから。
そこにどう聞いてもらえるのかなというのは
表現者としては考えるじゃない。
だからそのぶん、ある緊張感は出るね、当然。
リラックスしたセッションのようなものでは
なくなるわけだから、それはいいことなんだ。 |
糸井 |
リラックスは、してないよね。 |
鈴木 |
観客すべてが緊張して帰ってくれてもいいし、
リラックスして帰ってくれてもいいし、
それは実のところやってみないとわからない。
その不確定要素が多いので、非常に楽しみなんだよ。 |
糸井 |
それぞれのミュージシャンが、
ほかのひとに対する尊敬があって、
「僕の友達に対する拍手をください」と
お互いに言いあうわけだよ。
それが実現すると、すごくかっこいいよね。
ジァンジァンでゲスト呼ぶときの
あっこちゃんのステージっていつもそうじゃない?
「私の好きな」って。 |
鈴木 |
それが、拡張して、5人の、
たすき掛けになって、さらに細かい網の目状の
状態が生まれればいいね。
だからね、一番考えるのは選曲だよ。
そして、それを誰とどうやるかだね。 |
糸井 |
みんな選曲悩んでるねえ! |
鈴木 |
最初、ワタシはけっこうエゴをだして、
すべての人とからみあってやろう、
というような選曲にしたんだけど、ほかの人を見ると、
自分の曲は自分でやる、というところがある。
それは、……様子見るっていうのもあるんだけど、
「俺の考え間違ってたの?」ってとこあるよね。
だから選曲をしていくなかで、
あるコンセンサスは生まれていくと思うんだ。
メーリングリスト上でね。 |
糸井 |
いま選曲はフィクスしちゃってるの? |
鈴木 |
してないよ。
少なくとも、もう一回は、選曲をやりなおす。
「この曲を誰かとやりたい」というのもあるし
「この曲を自分でやりたい」というのもあるし
要するにやれることがいっぱいあるんだよ。
それこそ、最大で、全員でやれるわけ。
やれることがいっぱいあるんで、
なぜこの曲を選んだのかということを
自分で決めて、それなりのお話を構築しないと、
つまんないものになっちゃうと思うんだ。
その曲の強さみたいなものを考えつつ、ね。 |
糸井 |
いちばんわがままにやったつもりで
ぜんぶ一人でやるってひともいるし、
全部全員にやってほしいというひともいるし。
いちばん気を使った結果がどっちの形になるか
っていうのは、それぞれ性格によるからね。 |
鈴木 |
それが渾然一体になっていいんだけど、
みんな全員でやるなら全員でやろう、
というふうになっていくと…… |
糸井 |
つまんない。多分ね |
鈴木 |
だから、……格闘技にたとえるのはなんだけれど、
リング上での見せ方みたいなものを
非常に考えてしまうね。
サウンドの完成型は、だいたい見えているけど、
それに対する自分の楽器、自分の曲の乗っけ方が…… |
糸井 |
見えてない。 |
鈴木 |
見えてないから、楽しみなんだ、ここが。
ここで考えないと。 |
糸井 |
これ、びびりだしたら止まらないっていうか。 |
鈴木 |
びびりだしたら止まらない(笑)から、
考えないようにしてるけど。
でも、基本は楽しみだなあ、だよ。 |
糸井 |
あっこちゃんみたいにNYのバンドがあって
日本のバンドがあって、あと一人があって、って、
しょっちゅう入れ替わっているひとっていうのは
「なんとかなるわよ」って言いやすいけど。
そういう経験のある人ってあんまりいないね。 |
鈴木 |
そうだねえ。
俺が経験少ないかな、
他の人はブラジルで録音したり、
いろんな人とやってると思うよ、ソロでね。
俺って職業ムーンライダーズだから。
いやまてよ、でも俺もけっこうゲストで
出ることが多いから。
いろんなバンドにのっかってね。 |
糸井 |
そうか、慶一くんは多いや。 |
鈴木 |
結局みんなモマレてますね。
で、こんどの場合は、
この楽器があればもう充分じゃないか、
というバンド形態なわけだよ。
すごいそぎ落とされているんで、
「歌」みたいなものが
どんどん出てくるに決まってるね。 |
糸井 |
やっぱりこう考えると、
アレンジがどうなるのってこと以上に、
選曲のところで、いわば「演目」が決まらないと。 |
鈴木 |
演目が決まったところで
アレンジはある程度決まっちゃうわけだ。
ター坊も言ってたけど、一人でやってたひと、
ギター一本とかピアノ一本でやれるひとばっかでしょ、
それも事実なんだよね。
だから一人でやっちゃってもいいわけだよ。
だからこそこのメンバーで、
最小限のミュージシャンを集めて成り立つわけだね。
虚飾のない状態、ってわけだな。
それが、怖いことだけど、俺も今考えると
一人ツアーっての、やっといてよかったぁ。
一人ツアーやってなかったら、
これはびびるだろうなあ。 |
糸井 |
一人ツアーって、慶一くん、
面白かった面白かったって
言ってたじゃない。 |
鈴木 |
俺、しきりに言ってたよね。 |
糸井 |
ものすごく言ってたよね。
で、それ、俺らにはわかんないのよ。 |
鈴木 |
糸井さんはずっと一人だったから。 |
糸井 |
……あ、そうか。 |
鈴木 |
一人でやってるひと、いっぱいいるよね。
でも僕はどうもバンド指向で、
バンドでやることが好きなんだよ。
それはどういうことかっていうと、
ここは誰かに任しとこう、っていうことなんだ。
それがはぎ取られた状態っていうのは、
やったことなかった。
それを2年前にやっといたんでよかった、
って感じだよ。 |
糸井 |
思えばほかのメンバーも、
印象として一人でやっている感じしないけど
一人でできる人ばっかりだよね。
面白いなあ。
何かが変わることを期待するよね。 |
鈴木 |
一人で成り立つひとが5人集まって、
位相がガクっと変わるというか、
そういうこととか、なんか、
これによってワタシが変わってしまうというくらいの
マジックを表現者自身が感じてもいいと思うんだ。 |