5人の
Beautiful Songs

LIVE Beautiful Songs
〜ほぼ日読者レビュー その5〜

【うつくしいうたとうつくしいおとな】もうりみはる


コンサートの記憶を反芻する日々が、
衛星放送の録画を繰り返し見る日々になり、
CDの発売前にビデオがすり切れてしまうのではと
心配になっている時に、
世間様より先にテープを聴かせていただくという、
たいへんしあわせなお役目をいただき、
また何度も何度もくりかえし聴きました。

わたしはいったい、何回聴いているのでしょう。
それなのに、その度に新しい発見があります。
歌に対しての発見はもちろんなのですが、
自分の中にあるさまざまな思いや記憶が、
次々とわき上がってくるから、「かんそう」は、
どんどん広がってまとまりがつかなくなりました。
今、わたしの中に、14歳の感情や、
24歳の思惑や、34歳の混乱が、
歌と一緒に踊っています。

考えてみれば、あたりまえなのかもしれません。
20年間、わたしの好きな音楽は、
「ムーンライダーズ、矢野顕子、大貫妙子」
であり続けたのですから。
そして、同学年のせいなのか、なんなのか、
ずっと気になり続けていたのが、
奥田民生であり、宮沢和史であったのですから。
20年間のいろんな思いが沸き上がってくるのは、
止められることではないのですね。

高校生の頃のノートには、
慶一さんとアッコさんとター坊と糸井さんの
詞が書き写してあります。
(今回テープを繰り返し聴くうちに思い出したことです。)
大人になるのが嫌で、
OL、サラリーマン、おじさん、おばさんを、
ひとくくりにまとめて、あんな風になりたくない、
と、とんがっていた時に、みなさんの歌は救いでした。
わたしたちの味方のような、きれいな大人、に見えました。
少し前を歩きながら、
「うん、確かに大人って大変だけど、でもいいこともあるよ」
って、手まねいてくれている人たち、でした。
(それは年を重ねた今も同じです。)

そうやってみなさんの歌を聴きながらじたばたしていた頃、
同じようにじたばた高校生活をおくっていただろう、
奥田クンと宮沢クンが、みなさんと同じステージに、
対等な音楽の仲間として立つ。
それだけで「感慨」とでも名付けたい感情がありました。
同級生が、憧れの先輩と、同じステージにあがるような。

コンサートが始まる直前、
「きゃ〜民生〜!!」という
文字どおり黄色い声があがった時、
とてもうれしくなりました。
ああ、あの頃のわたしのように、
少し先を歩くすてきな大人として、
三十なかばの奥田クンと宮沢クンを見ているコたちが、
この会場にいっぱいいるんだと。

ふふん、みてらっしゃい、
奥田クンも宮沢クンも確かにステキだけど、
それよりさらに先を歩いている、慶一さんっておじさんも、
すっごくすてきな大人なんだから。
きっと今まで見たことのないタイプの大人だぞ。
アッコさんとター坊はすっごく可愛いいんだから。
20歳過ぎたらオバサンなんて考え吹き飛ぶぞ。
三人とも、かっこよく可愛く年を重ねた大人なんだぞ。
・・・わたしは、にやりとしていました。

そしてコンサートが始まって2曲目に、
年の離れた慶一さんと奥田クンが一緒に歌う、
「Sweet Bitter Candy」に涙しました。

  ゆっくり大人に 
  なってゆくぼくら、
  何かを決めなきゃね

これは、もう、世代を越えての、
少年少女への応援歌だな、と思いました。
若いコから見れば十分大人の年齢の彼らの中に、
しっかりと「子ども」や「少年」がいるのが、
伝わってくるから。

いくつになっても、
完成された大人にはなれそうにない。
それでも、ゆっくり大人になっていこう。
何かを決めたり、あきらめたり、
誰かに出会ったり、別れたり。
そう思わせる二人の姿、でした。

 いつの日か 甘い星くず ポケットに
 いつでも 持ってるような 人になるよ

・・・わたしたちはあの日、
確かに、そんな人たちに会いました。

5人はもちろん、4人の素晴らしいサポートメンバーも、
ポケットに甘い星くずいっぱい持っているのがわかる。
みんな子どものように楽しそうで、
なおかつ、真摯にうたを生み出している。
こんな「大人」がいるのなら、年を重ねるのは恐くない。
絶対、そう思わせる力が、会場中に満ちていました。

真摯に自分のうたを追求し続けた人たちが、
その過程で出会った人たちと、
年齢も性別も経験も越えてつながりあい、
さらにゆたかであたらしいうたを作る。
そのうたを、年齢も性別も経験も違う観客が共有する。
いっしょにこころをふるわせている。
なんてぜいたくなことだろう。
真摯に年を重ねるって、なんて素敵なことなんだろう、
そう思う、至福の時間でした。

「仲間というものが大切だから、
 仲間を作るために何かをするんじゃない。
 何かに一所懸命取り組んだその過程で、
 仲間ができる、だから大切なのだよ」
という先輩の言葉を思いだしました。

今回、このコンサートのCDが発売されることで、
奥田クンや宮沢クンのファンである若いコたちが、
かっこいい大人が他にもいることを知ってくれるのだ、
と思うと、わたしは「それだけでうれしい」と、
ますますにやにやしてしまいます。

また、「最近の音楽はわかんなくって」なんて、
懐メロ以外の音楽から遠ざかってしまった、
三、四十代の人々にも、このCDを聴いてほしい。
懐かしいうたが、新しい歌として、
また生まれかわっているから、
「あの頃はよかった」ではなく、
「年を重ねてきてよかった」って、
思えるような気がします。

声も、考えも、感じ方も、みんなそれぞれ違うから、
一緒にかかわることでより豊かで深いものになる。
だから、生きていくことは、たいへんだけど楽しいこと、
そう、ちゃんと示せる大人がこのCDの中にいます。

だから、あらゆる年代の人に、
この「Beautiful Songs」を聴いてほしい。
そして何年もかけてくりかえし聴いてほしい。

わたしも、何度でも、何度でも、くりかえし聴きたい。
何年も、何年も、くりかえし聴きたい。
自分とともに歩んでいくうたが、ここにある。

今の時代に、そう思えることが、とてもうれしい。

このコンサートが、
年齢も、性別も、経験も越えた人々によって作り上げられ、
年齢も、性別も、経験も越えた人々によって
支持されたことが、とてもとてもうれしい。

そうしてまたこの5人が、いや9人が、
それぞれの「そしてこれから」に向かっていることが、
とてもうれしい。

また、新たなものを持ち寄って、
すてきなうたを一緒にうみだす時がくることを
待つことにしましょう。
ただ待つのではなく、わたしも日々、精進せねば。
うみだされたうたを受け止めるこころの力を
鈍らせないように。

コンサートの最後、「ありがとう」って叫びたかった。
今、こころをこめて、
このコンサートを作り上げた人すべてに、静かに、
「ありがとう」と伝えたいです。

2000-10-17-TUE
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