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O2 BETTER THAN ONE
理想のTシャツにたどり着くまでに15年かかりました。 理想のTシャツにたどり着くまでに15年かかりました。

〈O2〉さいしょのプロダクトは、男女それぞれについて、
「ほんとうに着たいTシャツ」をつくります。
「男性が着たいTシャツ」を考えるにあたって、
わたしたちが考えたことは、
「あえて普遍性みたいなものを追求しないこと」でした。
男性のTシャツの好みは、かなり多種多様だからです。
その人なりのしっかりした考えがあって、
「オレは、これがいい」と自信を持って言える
Tシャツをデザインしてもらえたら、
きっとそれなりに、みなさんに受け入れてもらえるはず。
それなら、この人にお願いしたい。
人気ブランド「フィルメランジェ」を立ち上げ、
つづく「サンカッケー」「ヤングアンドオルセン」も
絶大な支持を得ているアパレルデザイナー、
尾崎雄飛さんです。

尾崎雄飛さんのプロフィール

尾崎 雄飛(おざき ゆうひ)

サンカッケー・デザイナー。
セレクトショップバイヤー、古着店バイヤーを経て、
(有)BBAにて高品質カットソーブランド
「フィルメランジェ」を立ち上げる。
2012年に独立、「▽三角形」の屋号で、
ファッションブランド「サンカッケー」のほか、
フリーランスのバイヤー業、デザイナー業などを
生業にしている。

きっかけは、フリマで出会ったおにいさん

――
尾崎さんは洋服にたいへん造詣が深いかたですが、
どういうTシャツがお好きなんでしょう。
尾崎
ぼくは中学に上がるぐらいの時期に
アメリカの古着に目覚めたんです。
出身が名古屋なのですが、当時古着の文化が充実していて、
古着屋がたくさんありました。
――
へえ、名古屋に。知りませんでした。
尾崎
ジャズ好きで、アメリカンブランドの服をよく着ていた
父親に古着屋へ連れていってもらって、
リーバイスのジーンズや、
ブルックス ブラザーズのボタンダウンシャツを
教えてもらったのがきっかけです。
小学校6年生くらいでした。
――
小学生で古着に興味を持つとは、早いですね。
尾崎
でも、古着といっても、小学生には高くて買えなくて。
ある日フリーマーケットに連れていってもらったんです。
ただの不要品からアメカジの掘り出し物まで、
いろいろ放出されていたのが新鮮でおもしろかった。
小学生のぼくでも、おばちゃんから50円くらいで
ネルシャツを買えました。
――
おばちゃんからネルシャツ。いいですね。
尾崎
それでフリマに足を運ぶようになったんですが、
そのうち、毎月出店している古着屋のおにいさんが、
気になりはじめました。
上から下までアメカジの古着を着ていて、
いま思い返してもすごくかっこいい人なんですけど、
そこで気づきました。
「おにいさんのTシャツ、ふつうとちょっとちがうぞ」と。
――
どこがちがったんでしょう?
尾崎
おにいさんが着ていたTシャツは、
脇にかっこいいシワが入っていて
袖がピンと上がっていたんです。
ためしにいろいろなTシャツを買ってみても、
どうしてもおにいさんが着ている感じにならない。
思いきって教えてもらったら、
トリコロールのタグがついた、
「チャンピオン」のヴィンテージTシャツでした。
――
トレーナーとかで有名な、老舗のスポーツメーカーですね。
尾崎
それからは、なけなしのお金を貯めては
チャンピオンのトリコタグのTシャツを買いました。
高校生になっても熱心に買いつづけていましたよ。
――
わざわざ古着をさがして買っていたわけですよね。
そこまで惚れ込むとは、すごいなあ。

尾崎さんが買いあつめた
チャンピオンのヴィンテージTシャツの一部

往年の映画スターが着るTシャツのかっこよさ

尾崎
いっぽうその同時期に、1950~60年代のハリウッドスターが
Tシャツを着ている姿にも、あこがれを抱きはじめました。
マーロン・ブランドが
映画『欲望という名の電車』で着ている白いTシャツが
古着業界では有名なんですが、
ぼくのヒーロー、スティーブ・マックイーンの
Tシャツ姿もめちゃくちゃかっこいいんですよ!

スティーブ・マックイーン

――
どのへんが、かっこいいんでしょう。
尾崎
脇にかっこいいシワが入って、袖がピンと上がって‥‥。
――
あ、それってつまり‥‥。
尾崎
はい、映画スターのTシャツ姿をかっこいいと思ったのと、
フリマで出会ったおにいさんがかっこよく見えたのは、
実は同じ理由だったんです。
――
なにか共通の秘密があるんでしょうか?
尾崎
昔のTシャツというのは、まっすぐ水平な肩に、
まっすぐ水平に袖をつけた
原始的なパターンでつくられているんです。
生地を効率的に使うことを重視していて、
着たときどう見えるかは考えていないわけ。
――
Tシャツを広げたときに、
まさに“T”の字のかたちをしているんですね。
尾崎
だから着たときに脇にシワが寄るし、袖も上を向く。
でも、ぼくにとっては、それがよかったんです。
――
デザインされすぎていないからこそ、かっこいい。
尾崎
はい、まさに。そう思います。
――
往年のスターたちはかなりジャストサイズで着ていますが、
そういうサイズ感もだいじなんでしょうか。

ポール・ニューマン

ジェームス・ディーン

尾崎
そうですね、ジャストサイズで着るほうが、
肩がちょっと内がわに入って袖が上に向くので、
よりそれらしく見えると思います。
たとえば、ジャズミュージシャンのチェット・ベイカーは
袖が水平になるぐらいのサイズ感で着ているんですが、
こうすれば、あなたも今日からスターの着こなしに(笑)。

チェット・ベイカー

――
ずいぶん前のスターだけど(笑)。
尾崎
でも、最近はみなさん、
ジャストサイズで着ることは少ないですよね。
だから、今回デザインさせていただいたTシャツは、
ちょっと大きめに着てもかっこよくなるように、
各部の寸法を調整しています。

レーヨン12%・コットン88%の混率と
1本針ロック

――
チャンピオンのヴィンテージTシャツには、
ほかにどんな特徴がありますか?
尾崎
素材にレーヨンが入っています。
レーヨン12%・コットン88%という混率なんですが、
これが独特の風合いを生むんです。
とにく杢グレーのやや粗めの霜降りかげんは魅力的です。
――
たしかに、ふつうの霜降りとは感じがちがいます。
尾崎
あとは、乾きやすくて涼しいということと、
洗ったあとのやわらかさが、ぜんぜんちがいます。
コットンは洗うと少しかたくなるんですけど、
レーヨンが入っていると洗い上がりもふわりとしていて、
着ごこちがいいんです。
――
へえ、コットンだけのほうがやわらかいのかと思ったら、
そうでもないんですね。
尾崎
縫製は「1本針ロック」が使われています。
強度を高めるため、最近のTシャツは
2本針ロックを使うことがほとんどですが、
それだと縫い代が2~3ミリ太くなるんです。
そうすると、表がわに波打ちが出るんですよ。
1本針のほうがすっきりとした見ためになります。
――
あっ、ほんとだ。
これ、写真じゃ伝わらないかもしれないけど、
くらべると、仕上げのうつくしさがまったくちがいます。

1本針ロックで縫製したTシャツ

2本針ロックで縫製したTシャツ

ぜんぶを解明するのに15年かかった

――
今回、尾崎さんにデザインしていただいたTシャツは、
チャンピオンのヴィンテージTシャツをベースにしつつ‥‥
尾崎
1点だけ、オリジナルと変えたところがあって、
襟を「親子バインダー」にしています。
――
親子バインダー?
尾崎
首のリブを生地で挟みこむバインダーネックは、
洗濯機で洗っても首が伸びにくい堅牢な縫製方法ですが、
親子バインダーは生地を二重に行き渡らせるので、
さらにじょうぶになります。
現代ではあまり見かけなくなったのですが、
この機会にあえて採用してみました。

親子バインダー

――
首もとにさりげないポイントができて、いいですね。
尾崎
親子バインダーもそうですが、
直線的な袖つけだったり、1本針ロックだったりと、
とるに足らないぐらいの細かいことを積み上げることで、
全体を俯瞰したときのかっこよさに
つながってくるのだと信じて服づくりをしています。
ほら、「神は細部に宿る」といいますよね。
――
シンプルに見えて、いろいろつまっていますよね。
それはそうと、フリマで出会ったおにいさんが着ていた
「あこがれのTシャツ」がほかとどうちがっていたのか、
ぜんぶ解明できたのはいつぐらいでしたか?
尾崎
ぼくが27歳で「フィルメランジェ」という
ブランドをはじめたころでした。
そう考えると15年越しですね。
――
ああ、すごいことですね。
Tシャツひとつを理解するのに、15年かかるってことか。
尾崎
Tシャツというのはシンプルなものなので、
やれることというのはあまりありません。
だから余計に、かっこいいものと
そうでないものとの差が大きくあって、
それが何なのかを追求していかないと、
納得できるものはつくれないです。
――
そういう意味では、これは、
尾崎さんの真髄がつまったTシャツと言えそうです。
尾崎
実はこれ、自分のブランドでやろうと思っていたんですよ。
タイミングよく今回のお話をいただいたので、
この機会にこちらでやっちゃおうかなと。
ぼく自身が毎日着たいと思ってつくったものなので、
胸を張っておすすめできます。
(おわりです)