〈O2〉さいしょのプロダクトは、男女それぞれについて、
「ほんとうに着たいTシャツ」をつくります。
「男性が着たいTシャツ」を考えるにあたって、
わたしたちが考えたことは、
「あえて普遍性みたいなものを追求しないこと」でした。
男性のTシャツの好みは、かなり多種多様だからです。
その人なりのしっかりした考えがあって、
「オレは、これがいい」と自信を持って言える
Tシャツをデザインしてもらえたら、
きっとそれなりに、みなさんに受け入れてもらえるはず。
それなら、この人にお願いしたい。
人気ブランド「フィルメランジェ」を立ち上げ、
つづく「サンカッケー」「ヤングアンドオルセン」も
絶大な支持を得ているアパレルデザイナー、
尾崎雄飛さんです。
尾崎 雄飛(おざき ゆうひ)
サンカッケー・デザイナー。
セレクトショップバイヤー、古着店バイヤーを経て、
(有)BBAにて高品質カットソーブランド
「フィルメランジェ」を立ち上げる。
2012年に独立、「▽三角形」の屋号で、
ファッションブランド「サンカッケー」のほか、
フリーランスのバイヤー業、デザイナー業などを
生業にしている。
きっかけは、フリマで出会ったおにいさん
- ――
- 尾崎さんは洋服にたいへん造詣が深いかたですが、
どういうTシャツがお好きなんでしょう。
- 尾崎
- ぼくは中学に上がるぐらいの時期に
アメリカの古着に目覚めたんです。
出身が名古屋なのですが、当時古着の文化が充実していて、
古着屋がたくさんありました。
- ――
- へえ、名古屋に。知りませんでした。
- 尾崎
- ジャズ好きで、アメリカンブランドの服をよく着ていた
父親に古着屋へ連れていってもらって、
リーバイスのジーンズや、
ブルックス ブラザーズのボタンダウンシャツを
教えてもらったのがきっかけです。
小学校6年生くらいでした。
- ――
- 小学生で古着に興味を持つとは、早いですね。
- 尾崎
- でも、古着といっても、小学生には高くて買えなくて。
ある日フリーマーケットに連れていってもらったんです。
ただの不要品からアメカジの掘り出し物まで、
いろいろ放出されていたのが新鮮でおもしろかった。
小学生のぼくでも、おばちゃんから50円くらいで
ネルシャツを買えました。
- ――
- おばちゃんからネルシャツ。いいですね。
- 尾崎
- それでフリマに足を運ぶようになったんですが、
そのうち、毎月出店している古着屋のおにいさんが、
気になりはじめました。
上から下までアメカジの古着を着ていて、
いま思い返してもすごくかっこいい人なんですけど、
そこで気づきました。
「おにいさんのTシャツ、ふつうとちょっとちがうぞ」と。
- ――
- どこがちがったんでしょう?
- 尾崎
- おにいさんが着ていたTシャツは、
脇にかっこいいシワが入っていて
袖がピンと上がっていたんです。
ためしにいろいろなTシャツを買ってみても、
どうしてもおにいさんが着ている感じにならない。
思いきって教えてもらったら、
トリコロールのタグがついた、
「チャンピオン」のヴィンテージTシャツでした。
- ――
- トレーナーとかで有名な、老舗のスポーツメーカーですね。
- 尾崎
- それからは、なけなしのお金を貯めては
チャンピオンのトリコタグのTシャツを買いました。
高校生になっても熱心に買いつづけていましたよ。
- ――
- わざわざ古着をさがして買っていたわけですよね。
そこまで惚れ込むとは、すごいなあ。
往年の映画スターが着るTシャツのかっこよさ
- 尾崎
- いっぽうその同時期に、1950~60年代のハリウッドスターが
Tシャツを着ている姿にも、あこがれを抱きはじめました。
マーロン・ブランドが
映画『欲望という名の電車』で着ている白いTシャツが
古着業界では有名なんですが、
ぼくのヒーロー、スティーブ・マックイーンの
Tシャツ姿もめちゃくちゃかっこいいんですよ!
スティーブ・マックイーン
- ――
- どのへんが、かっこいいんでしょう。
- 尾崎
- 脇にかっこいいシワが入って、袖がピンと上がって‥‥。
- ――
- あ、それってつまり‥‥。
- 尾崎
- はい、映画スターのTシャツ姿をかっこいいと思ったのと、
フリマで出会ったおにいさんがかっこよく見えたのは、
実は同じ理由だったんです。
- ――
- なにか共通の秘密があるんでしょうか?
- 尾崎
- 昔のTシャツというのは、まっすぐ水平な肩に、
まっすぐ水平に袖をつけた
原始的なパターンでつくられているんです。
生地を効率的に使うことを重視していて、
着たときどう見えるかは考えていないわけ。
- ――
- Tシャツを広げたときに、
まさに“T”の字のかたちをしているんですね。
- 尾崎
- だから着たときに脇にシワが寄るし、袖も上を向く。
でも、ぼくにとっては、それがよかったんです。
- ――
- デザインされすぎていないからこそ、かっこいい。
- 尾崎
- はい、まさに。そう思います。
- ――
- 往年のスターたちはかなりジャストサイズで着ていますが、
そういうサイズ感もだいじなんでしょうか。
ポール・ニューマン
ジェームス・ディーン
- 尾崎
- そうですね、ジャストサイズで着るほうが、
肩がちょっと内がわに入って袖が上に向くので、
よりそれらしく見えると思います。
たとえば、ジャズミュージシャンのチェット・ベイカーは
袖が水平になるぐらいのサイズ感で着ているんですが、
こうすれば、あなたも今日からスターの着こなしに(笑)。
チェット・ベイカー
- ――
- ずいぶん前のスターだけど(笑)。
- 尾崎
- でも、最近はみなさん、
ジャストサイズで着ることは少ないですよね。
だから、今回デザインさせていただいたTシャツは、
ちょっと大きめに着てもかっこよくなるように、
各部の寸法を調整しています。
レーヨン12%・コットン88%の混率と
1本針ロック
- ――
- チャンピオンのヴィンテージTシャツには、
ほかにどんな特徴がありますか?
- 尾崎
- 素材にレーヨンが入っています。
レーヨン12%・コットン88%という混率なんですが、
これが独特の風合いを生むんです。
とにく杢グレーのやや粗めの霜降りかげんは魅力的です。
- ――
- たしかに、ふつうの霜降りとは感じがちがいます。
- 尾崎
- あとは、乾きやすくて涼しいということと、
洗ったあとのやわらかさが、ぜんぜんちがいます。
コットンは洗うと少しかたくなるんですけど、
レーヨンが入っていると洗い上がりもふわりとしていて、
着ごこちがいいんです。
- ――
- へえ、コットンだけのほうがやわらかいのかと思ったら、
そうでもないんですね。
- 尾崎
- 縫製は「1本針ロック」が使われています。
強度を高めるため、最近のTシャツは
2本針ロックを使うことがほとんどですが、
それだと縫い代が2~3ミリ太くなるんです。
そうすると、表がわに波打ちが出るんですよ。
1本針のほうがすっきりとした見ためになります。
- ――
- あっ、ほんとだ。
これ、写真じゃ伝わらないかもしれないけど、
くらべると、仕上げのうつくしさがまったくちがいます。
1本針ロックで縫製したTシャツ
2本針ロックで縫製したTシャツ
ぜんぶを解明するのに15年かかった
- ――
- 今回、尾崎さんにデザインしていただいたTシャツは、
チャンピオンのヴィンテージTシャツをベースにしつつ‥‥
- 尾崎
- 1点だけ、オリジナルと変えたところがあって、
襟を「親子バインダー」にしています。
- ――
- 親子バインダー?
- 尾崎
- 首のリブを生地で挟みこむバインダーネックは、
洗濯機で洗っても首が伸びにくい堅牢な縫製方法ですが、
親子バインダーは生地を二重に行き渡らせるので、
さらにじょうぶになります。
現代ではあまり見かけなくなったのですが、
この機会にあえて採用してみました。
親子バインダー
- ――
- 首もとにさりげないポイントができて、いいですね。
- 尾崎
- 親子バインダーもそうですが、
直線的な袖つけだったり、1本針ロックだったりと、
とるに足らないぐらいの細かいことを積み上げることで、
全体を俯瞰したときのかっこよさに
つながってくるのだと信じて服づくりをしています。
ほら、「神は細部に宿る」といいますよね。
- ――
- シンプルに見えて、いろいろつまっていますよね。
それはそうと、フリマで出会ったおにいさんが着ていた
「あこがれのTシャツ」がほかとどうちがっていたのか、
ぜんぶ解明できたのはいつぐらいでしたか?
- 尾崎
- ぼくが27歳で「フィルメランジェ」という
ブランドをはじめたころでした。
そう考えると15年越しですね。
- ――
- ああ、すごいことですね。
Tシャツひとつを理解するのに、15年かかるってことか。
- 尾崎
- Tシャツというのはシンプルなものなので、
やれることというのはあまりありません。
だから余計に、かっこいいものと
そうでないものとの差が大きくあって、
それが何なのかを追求していかないと、
納得できるものはつくれないです。
- ――
- そういう意味では、これは、
尾崎さんの真髄がつまったTシャツと言えそうです。
- 尾崎
- 実はこれ、自分のブランドでやろうと思っていたんですよ。
タイミングよく今回のお話をいただいたので、
この機会にこちらでやっちゃおうかなと。
ぼく自身が毎日着たいと思ってつくったものなので、
胸を張っておすすめできます。
(おわりです)