〈O2〉がセレクトする「オツなもの」、
2つめは株式会社ゴールドウインが開発した
アンダーウエアのシリーズ「MXP」です。
まだそんなに知られていませんが、
ほかの服や下着をMXPでくるんでおくと
いっしょに消臭できてしまうほど強力な消臭機能と、
シンプルかつうつくしいシルエットで、
使っている人のあいだでは、たいへん評価が高いのです。
MXP事業を統括する、株式会社ゴールドウインの
畑野健一さんにくわしいお話をうかがいました。
宇宙ステーションで1ヵ月間着てもにおわない。
- ――
- 仕事中にストレッチに行くときがあって、
そのために、たまたまMXPのTシャツを買ったのですが、
しばらく事務所におきっぱなしなのに、
におわないし、あまり汚れないし、
「もしかして、これ、すごいんじゃないか?」と、
使っているうちに気づきました。
- 畑野
- ありがとうございます。
- ――
- 調べてみると強力な消臭機能があるというし、
宇宙でも使われたというし、
どういうことなんだろうと気になっていました。
- 畑野
- もともと登山用につくったのがはじまりだったんです。
本格的な登山は大量の汗をかくし、
頻繁に着がえることもむずかしいので
消臭できるアンダーウェアが求められていました。
当時はあとから消臭剤をつける加工が主流だったんですが、
耐久性のことをかんがえると、
素材自体に消臭機能をもたせたほうがいいということで
開発をスタートし、山でのテストをくり返して、
ついに汗のにおいをカットする
「マキシフレッシュ」という素材が完成しました。
そして、加齢臭も同時に消せるメカニズムをつくり、
いまのMXP商品につかわれている新素材が
「マキシフレッシュプラス」です。
株式会社ゴールドウイン 畑野健一さん
- ――
- 加齢臭まで消せるんですね。
- 畑野
- その素材の開発とおなじ時期に
JAXAと宇宙船のなかで着る服を研究していたのが重なり、
マキシフレッシュプラスを使った下着を
じっさいに日本人の宇宙飛行士に着てもらったんです。
宇宙ステーションで1ヵ月間着てもらったんですが、
地球に帰還したときの記者会見の場で
「じつは1回も下着をかえていません」と発言して
ほかのクルーをおどろかせたということがありました。
- ――
- えっ、まわりのクルーも知らなかったんですか。
- 畑野
- そうなんです。
宇宙ステーションの内部ってクリーンに見えますが、
換気ができないし、お風呂に入ることもできないので、
意外とにおいがきついんだそうです。
- ――
- ひゃあ、そうなんですね。
消臭機能がなくならない。
- ――
- 具体的には、どうにおいを消すんでしょうか。
- 畑野
- マキシフレッシュというのは、
ユーカリの木を原料にしたセルロース繊維に
分子レベルの加工をほどこして、
消臭の機能をつけた素材なんです。
専門的な話になってしまいますが、
汗のにおいの成分であるアンモニアを
繊維を形成するカルボキシル基がつかんで、
アンモニアと化学反応を起こして
無味無臭の物質に変化させるんです。
- ――
- その消臭機能は、どれくらい保たれるんでしょう。
だんだん劣化していきそうな印象があるんですが
- 畑野
- 洗濯することによって
化学変化した物質が洗剤とともに流れていくので、
ふたたびカルボキシル基がアンモニアを
つかまえられるようになります。
ですから、基本的には消臭機能は劣化しません。
- ――
- なくならないんだ!
それって、すごいことじゃないですか?
- 畑野
- はい、繊維がボロボロにならないかぎり、
消臭機能はずっとつづきます。
ちなみに上下でマキシフレッシュを着用した場合、
理論計算上では約4リットルの汗の消臭が可能です。
洗えばもちろん、もとにもどります。
- ――
- 4リットルって、かなりの量ですよね。
- 畑野
- プロのサッカー選手が
90分間フルで試合に出場したときにかく汗の量が、
だいたい2リットルから3リットルと言われているので、
2、3日ふつうの生活をするぶんには
まったく問題ありません。
- ――
- マキシフレッシュ、おそるべし‥‥。
「まず服として着てうれしいもの」でありたい。
- ――
- こういう機能性をもったアンダーウェアを
つくっているブランドは、ほかにもありますか?
- 畑野
- 当然アウトドアブランドやスポーツメーカーは、
シーンや種目で必要な機能性を追い求めていますから、
パフォーマンスの高いものをつくっています。
ただ、MXPの特異性は、特定の種目の背景がなくて、
日常のなかでの機能を追求していることです。
- ――
- つまり、街着として着ることを考えて
つくられているということですか。
- 畑野
- はい。
だから、あたらしく素材や商品をつくるときにも、
「消臭」というキーワードを前面に出さないんです。
かたちやシルエットなど、
ファッション的な観点から見ていって
さいごに消臭機能をどうつけていくかを考えています。
- ――
- それは意外でした。
「この素材をどう使おうか」というところから、
開発がはじまるのかと想像していました。
- 畑野
- つくりたいものが先にあって糸をどうするか考えるので、
素材をつくるのに早くても1年はかかります。
最終的には消臭機能が基準をクリアしないかぎり
世に出せないので、どうしても時間がかかります。
いったんかたちになっても、
洗濯を10回繰り返したあとにどうなるか、
というようなこともテストするので、
そこでまた型紙の段階にもどることもあります。
- ――
- すごく手間がかかっているんですね
- 畑野
- 店頭でもお客さまに「消臭がすごいです」という前に、
「ふつうの無地Tシャツに見えますが、
シルエットを徹底的に追求して、
着た人がきれいに見えるようにデザインされています」
というのを第一声にしています。
ものづくりへの姿勢を知ってもらったあとに、
山というフィールドから生まれたことだったり、
JAXAと共同開発した下着があるというのを
説明してほしいとスタッフに伝えています。
- ――
- そうしているのはなぜですか。
むずかしい方法をとっているようにも思えます。
- 畑野
- おっしゃるとおりです。すごくむずかしい。
ただ、MXPはいいものを長く使う人に向けて
つくっていこうとはじめブランドなので、
機能性を押し出すよりは、デザインをふくめた
世界観を伝えつつ、広めていきたいと思っています。
- ――
- デザイン性で打ち出しても、
さいごには機能や品質が伝わると思っている、と。
- 畑野
- ええ。
スポーツブランドとしてそこは得意分野なので、
自然と行き渡るかなと思っています。
そういう意味では、逆にファッション的な
“におい”をどう出していくかを重要視しています(笑)。
- ――
- ああ、そうか、なんていうんだろう、
「まず服として着てうれしいもの」ということを、
大切ににされているんですね。
- 畑野
- はい、そうです。
そのために、
「ステッチ1本、しわ1本をどう消していくか」に
こだわっています。
長く使ってもらうには、余計なデザインは不要ですし、
そうなると最終的には、
「着ごこちのいい素材感と着やすいかたち」に
行き着きます。
- ――
- なんか、MXPへの親しみがいっそうわいてきました。
本日はどうもありがとうございました!
(おわりです)