「女性がほんとうに着たいTシャツ」を
だれにデザインしてもらえばいいのか、
わたしたち〈O2〉チームは、かなり悩みました。
そもそもTシャツというものが
やや男性よりのアイテムだからか、
「この人が得意そう」というのが思いつかなかったのです。
でも、ふと思い出しました。
女性が着たいTシャツをつくってもらったことが、
すでにあったような‥‥?
そうだ! わたしたちは
「グランマ ママ ドーター」の
デザイナー宇和川恵美子さんに連絡をとりました。
宇和川 恵美子(うわがわ えみこ)
セレクトショップの店長、バイヤーを皮切りに、
海外ブランド向け素材の企画・プロデュース、
アパレルブランド製品の企画・生産などの業務を経て、
2010年、自身のブランド GRANDMA MAMA DAUGHTER を設立。
ユーザー目線を反映した、
ゆきとどいた製品づくりで人気を博している。
思いきって2つのタイプを提案した
- ――
- 以前、「HOBO SIRI SIRIのジュエリーに合う」という
お題で、Tシャツをつくっていただきました。
そのとき、グランマ ママ ドーターさんが、
課題に対していちばん真剣に向き合ってくれた気がして、
なおかつお客さまにもたいへん好評でした。
- 宇和川
- ありがとうございます。
- ――
- 「ジュエリーに合う」という点では、
「女性のためのTシャツ」というお題を
すでに実現してくださっていたとも言えるわけで、
だったら、またお願いしようと思ったしだいです。
- 宇和川
- そう言っていただけると、うれしいです。
- ――
- 今回のコンセプトをお聞きになって、どう思いましたか?
- 宇和川
- 最初、「定番ってむずかしいな」と思ったんです。
たくさんの人に気に入ってもらわないといけないし、
デザインしすぎてはいけないけど特徴もほしいし、
シンプルなアイテムなだけに、実はすごくむずかしい。
- ――
- ああ、なるほど。
そして、その結果‥‥
- 宇和川
- 思いきって、ベーシックタイプと、
身幅が広くて着丈が短いワイドタイプ、
2つを提案させていただきました。
- ――
- 2型でいこうと決めるのは、
ちょっと勇気がいりませんでしたか。
迷っているというか、答えを出せていないように
思われるかもしれないじゃないですか。
- 宇和川
- はい、たしかに。
定番という意味ではベーシックだけでもいいですよね。
でも、服をゆったりと着たいという気分が
ここ数年つづいてているので、
それをもう、あたらしい定番にしても
いいんじゃないかと思いました。
- ――
- それがワイドタイプですね。
- 宇和川
- はい。
もう1つはいわゆるTシャツらしい、
スタンダードなバランスにしました。
女性って新鮮なものが好きなんですけど、
ふつうのものが必要になるときがあるんです。
- ――
- それはどういうときに?
- 宇和川
- ゆったりしたTシャツの上から上着をはおると、
脇のあたりがもたついて着にくいことがあるので、
それほどワイドシルエットではないものを
着るシチュエーションも意外と多いんです。
ですから、ワイドはまさに「新定番」としての提案、
ベーシックは「ザ・定番」という位置づけですね。
- ――
- そうかあ、女性は使いわけできるほうがうれしいんだ。
- 宇和川
- それはもちろん。
女性はいろいろあるんです(笑)。
- ――
- わかってませんでした(笑)。
女性が1枚で着てなりたつTシャツ
- ――
- 2つのタイプをくらべると、シルエットはちがいますが、
デザインのディテールは似ていますね。
- 宇和川
- はい、ディテールは共通しています。
「女性が1枚で着てなりたつTシャツ」というのが、
キーワードになっています。
- ――
- 具体的にはどういうところでしょう。
- 宇和川
- いちばん重視したのは襟ぐりのかたちです。
襟ぐりがせますぎるとスポーティだし、
広すぎるとラグジュアリーだし、
でもあるていど広くないと女性らしくない。
持っているTシャツをたくさん着てみて、
「これよりもうちょっと広いほうがいいな」
「せまいほうがいいかな」と試行錯誤しながら、
襟ぐりの広さと深さの
ちょうどいいバランスをさぐりました。
- ――
- たしかに、女性は襟のあきぐあいを気にしますよね。
- 宇和川
- あとは、襟のリブを太くしたり
裾と袖の折り返しを大きくとったりと、
ぱっと見たときに、ふつうのTシャツと
ちょっとちがって見えるようにデザインしました。
折り返しが大きくとられた袖
- ――
- そうすることで何が変わるんでしょうか。
- 宇和川
- インナー的な要素をうすめようと思ったんです。
たとえていうなら、シャツのカフスのような、
ディテールを強調する意味をもたせています。
- ――
- ああ、なるほど!
襟のリブについていうと、
一般に女性用のTシャツは細くしているものが多いですが、
逆に太くするというのがおもしろいですね。
- 宇和川
- より外着としての印象が強まるようにという
意図があります。
- ――
- 襟も一般的なフライス編みではなく、
身ごろと同じ天竺編みの生地が使われています。
- 宇和川
- 天竺編みはフライス編みより伸縮性がなく、
そのぶんシワが寄るのですが、
襟もとにニュアンスを出したくてそうしています。
フライス編みだとスポーティな印象になってしまうので。
身ごろと同じ生地でできた襟
- ――
- 素材についてはいかがですか?
- 宇和川
- いい生地にめぐり合えたました。
こういう上質な糸できれいな生地をつくると
光沢が出すぎて艶っぽくなりすぎるんですけど、
これはマットな表情でちょうどいい。
それでいて手ざわりもよく、着心地もさらりとしています。
- ――
- ほどよく光沢があって、しなやかで。
とてもバランスがいい生地ですよね。
- 宇和川
- 今回、この生地でつくれたことは、
とてもラッキーだったなと思っています。
“ニコイチ”のデザイナー
- ――
- 宇和川さんはデザインをされるときに
「聞いてつくりあげていく」ような印象をうけます。
- 宇和川
- はい、こういうコラボレーションでつくるときは
そこになにか意図があると思うので
みなさんがいいと感じてもらえるような
着地点を見つけていくことが多いです。
- ――
- 周囲の意見も尊重されているんですね。
- 宇和川
- ひとりで考えていると
じぶんの「好き」にかたよってしまうので
できるだけ周りのひとにリサーチしています。
- ――
- そういえばミーティングのときも、
いつも秋吉さんがいっしょにいらっしゃいます。
おふたりで連携してすすめることが多いんですか?
- 秋吉
- そうですね。
工場へのコンタクトはぼくが担当して、
デザインのことはふたりでやりとりしながら。
秋吉 孝信さん
- ――
- ということは、
秋吉さんがデザインを具体化する感じなんでしょうか。
- 秋吉
- はい、宇和川がイメージするデザインを、
ぼくのフィルターをとおして、パタンナーに伝えています。
宇和川からはいろいろなニュアンスで伝えられるので
「これが好みなんだろうな」「こうしたいんだろうな」
というのを汲みとって、かたちにしています。
- 宇和川
- たまに困らせていますね。
「ここがヒヨヒヨした感じ」とか、
「ピコピコしているような」とか、
わたしがよくわからない表現をするので(笑)。
- ――
- 擬音なんだ(笑)。
- 秋吉
- でも、もう慣れたので、
「ヒョヒョイっていう感じで」と言われても、
だいたいは「ええ、分かります」。
- 一同
- (笑)。
- 宇和川
- いっしょにやって8年くらいになるんですが
おたがいに思っていることがどんどんわかってきて、
考える方向がいっしょになってきました。
いまは、ふたりでニコイチです。
- 秋吉
- 今回も、内容を把握しておかないと
宇和川がどういうことをやりたいのかわからないので、
打ち合わせから同席させてもらいました。
宇和川がポロッと発言したことをひろいあげて、
「なるほど、それならこうしよう」と思っていました。
- ――
- できあがりをご覧になって、いかがでしたか。
- 宇和川
- はい、とてもいい感じにできたと思っています。
わたしもほしいです。
- 秋吉
- ぼくは着られないですが、いい出来だと思います。
- ――
- ぼくらもたのしみです。
ありがとうございました!
開発に10年かかった、究極のTシャツ生地
宇和川恵美子さんにデザインしていただいた
「女性が着たいTシャツ」に採用されている生地は、
品質に定評のあるテキスタイルメーカー、
株式会社エイガールズのオリジナル素材です。
あまりに魅力的なので、どういう生地なのか、
同社の尾崎孝夫さんに教えていただきました。
今回えらんでいただいた生地には自信があります。
もともと、究極のTシャツ生地をつくりたくて
開発したものだからです。
めざしたのは、Tシャツにしたとき、きもちよくて
クローゼットから自然と手にとってしまうもの。
いろいろ原料をさがした結果たどり着いたのが、
インドのスビンという超長綿です。
希少かつ高価ですが生地にしたときのタッチがすばらしい。
油脂分が多いのが特徴で、さわってもらうと、
カシミアのようなぬめり感があります。
スビン100パーセントだと、繊維が長いゆえに毛羽立ったり
とろみがありすぎて落ち感が出てしまうので、
別のもうすこし繊維長のみじかい綿とブレンドしています。
毛羽立ちや過度なとろみをおさえることはもちろん、
よりリーズナブルに提供できるのも、いいところです。
それ以外にも撚糸の回数を調整したり改良をかさねながら、
10年かかってようやく、
いい落としどころを見つけたのがこの生地です。
比較的うすめですが、高密度に編んでいるので
ほとんど透けませんし、1枚で着てもさまになります。
素肌で着て、抜群の着ごこちをたのしんでいただけたら
うれしいです。