タカモリ・トモコ全集


そのあみぐるみに込めたもの。  タカモリ・トモコさんに聞きました。

プロローグ 2010年1月会場のテーマは「手つむぎ」です。

♯4 タカモリさんが編みました。

─── いま、目の前にいくつかの作品があるのですが、
これがぜんぶ、手つむぎの毛糸で?
タカモリ はい。
緒方さんにつむいでいただいた毛糸で、
6体のあみぐるみができました。
─── いかがでしたか?
手つむぎの毛糸で編んでみて。
タカモリ 感慨深かったです。
「ひつじの毛を刈って、
 それをつむいであみぐるみをつくりたい」
ということはもう夢のように、
かなり前から思っていたことなので。
でも実は──、
何回も編み直したんです。
なかなか思う通りにいかなくて。
わがままな糸でした。
─── いつもタカモリさんが使っている毛糸より
かたかったのでしょうか。
タカモリ そうですね、たしかに
ふだん使っている毛糸よりはかたいです。
かたいというより、
しっかりしているといった方が
いいかもしれませんね。
密でした。
ふわっとしていない、
ぎゅうっと詰まっている感じ。
手つむぎならではなのでしょうね、
すごくいいんです。
触っていて気持ちがいいかたさなんです。
─── 気持ちのいい、かたさ。
タカモリ この気持ちよさは、
もともとのひつじの毛に触れている、
あの感じに近いのかもしれません。
31番ちゃんに触っている感じ。
タカモリ 全体的にしっかりめですが、
「100%伊香保」の、
いい部分でつむがれた毛糸は
やわらかかったです。
シェットランドが入ると、
編みやすさも増しました。
柔らかいけれど、ぼこぼこしていて、
個性的だったのが、
「100%伊香保でこぼこ」の糸ですね。
3回くらいほどいたりして。
─── ほどいて、また編み直す。
タカモリ でも、それがよかったのかもしれないです。
ほどいて編み直すことで、
すこしずつ、やわらかくなるんですよ。
触ってあげるほど、よくなるんです。
─── 愛着もひとしおですね。
タカモリ 編んでいるとワラとか草が
毛糸のなかから出てくるんです。
そのたびに、
牧場の31番ちゃんを思い出して(笑)。
─── 牧場のひつじの毛を刈って
それを手でつむいだので、
どうしてもすこしワラや草が混じるんですね。
もちろん原毛は洗っているんですが。
タカモリ 手つむぎの味わいだと思います。
─── ならではの風合いですよね。
タカモリ それと、ひそかに感動したことがひとつ。
これだけ太くてしっかりした毛糸を
嵐のように編み続けたのに、
手荒れがまったくなかったんです。
これって刈ってから毛糸玉になるまでに、
洗剤以外の薬品を使っていないからだと思います。
既成の毛糸は工程で
いろいろな薬品を使いますから、
長時間編み続けると
手がカサカサになることがあるんです。
「伊香保31番毛糸」は、
工場で生まれた毛糸ではないんですね。
最初から最後まで、ひとりの人間の手作業。
緒方さんの手から生まれた、
緒方さんの子どもみたいな毛糸なんです。
緒方さん、毛糸と別れるとき
「ちょっと、さみしい」って
おっしゃってたでしょ。
わたし自分の手を見ながら
その言葉の重みを感じて、
ジ〜ンときちゃいました。
─── 緒方さん、
とても手をかけてつむいでくださいました。
タカモリ ほんとに感謝しています。
最初はわたし、
毛を刈ることも、つむぐことも、
ぜんぶ自分でやることをイメージしてたんです。
なにも知らなかったので(笑)。
トムさんに刈ってもらって、
緒方さんにつむいでいただいたから、
作品にたどりつけたんですよね。
ありがたいです。
─── ところで、「2010年1月会場」の
テーマは、ことばにすると、
どういうことになるでしょうか。
タカモリ じつは、テーマは、
あまり考えずにつくっていました。
とにかくもう、
手つむぎの糸が偉大な状態でやってきたので。
「この糸で編む」ということで
こころはいっぱいでした。
─── 気持ちのなかには、
「手つむぎ」が大きくあったわけですね。
タカモリ そうですね、
いつもそうなんですが、今回はとくに、
「ひつじの恵み」でできたと思いました。
素材にすごく寄り添って。
素材が、いきものみたいな感じで。
─── いきもの。
タカモリ 陶芸家のかたが、
「土を触りながらつくっていると、
 手の中で土が勝手になりたいかたちになる」
とおっしゃっていたのを聞いたことがあって。
今回のわたしは、それみたいだったんです。
毛糸が自分からかたちを作る。
それはとても珍しい経験でした。
手つむぎだから、そうなったんだと思います。
─── わかりました。
テーマはやはり
「手つむぎ」ということになりますね。
タカモリ はい。それがいいと思います。
手つむぎの毛糸はヌーヴォーの6作品で
ほぼ使い切ったので、
クラシックシリーズには、
「ひつじ」のイメージを中心に
展示作品をそろえるようにしてみます。
─── テディベアも、ありますね。
タカモリ 2体、つくりました。
─── 新作8点で、全13作品の展示会ですね。
タカモリ そうなります。
─── とくに時間をかけて準備を進めた、
2010年1月会場、たのしみにしています。
ありがとうございました。
タカモリ ありがとうございました。
(全4回の拡大版でお送りした
 2010年1月会場のプロローグは、
 今回で終了になります)

2010-01-24-SUN




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