スソアキコさんにあらためて訊きました。
スソさんと帽子。
帽子デザイナーであり、
イラストレーターでもあるスソアキコさん。
ほぼ日では、
「生活のたのしみ展」の帽子のお店や、
「ひとり古墳部」のコンテンツでもおなじみです。
2017年11月の「生活のたのしみ展」の帽子のお店では、
ベレー帽がたいへん好評でした。
自分は帽子が似合わない、と思い込んでいたかたが、
かぶってみたら、「あれ? 似合う!」という声も。
そのベレー帽が、今度は「ほぼ日ストア」に登場です。
先日おこなわれたTOBICHIでの先行販売にも、
たくさんのお客さまが来てくださったんですよ。
スソさんのベレーは、
アジア人のあたまのかたちを考えてつくった、
あたらしいスタンダード。
立体的でかっこよく、
ふんわりとしたボリュームがあって
みんなに似合うようにつくられています。
スソさんと「ほぼ日」のおつきあいは、
とても長いのですけれど、
それだけに、意外に知らないことも
多いのかもしれません。
そこで、この機会に、スソさんのお仕事のことや、
帽子づくりのこと、今回のベレー帽のことなど、
お話をうかがいました。
プロフィール
スソアキコ
- 1962
- 石川県生まれ
- 1984
- 金沢美術工芸大学 商業デザイン科卒業
(株)資生堂入社 宣伝部(宣伝制作室)配属
在籍中より同社のイラストの仕事を始める - 1988
- 退社、帽子デザイナー平田暁夫氏に師事
- 1989
- 帽子作家として活動を始める
▼ 仕事
花椿 帽子制作(資生堂 1993-1997)
ウインドウディスプレイデザイン(エルメスジャポン 1988-2001)
パリコレクション(タオコムデギャルソン 2011)
CMスタイリング(JT.キリン.日清 他)
イラストレーション・キャラクターデザイン
(資生堂.トヨタ. NTTドコモ.日立 他)
帽子作家になるまで。
- ほぼ日
- スソさんのお仕事の最初は、
資生堂の宣伝部だったんですよね。
- スソ
- はい。でもたった4年間。
まず美術大学に行ってまして、金沢の。
その頃は広告のデザイナーに、
グラフィックデザイナーになりたかったんです。
- ほぼ日
- 資生堂が第一希望だったんですか?
- スソ
- いや、何の希望もなく。
同級生が、代理店とかに内定が決まっても、
何のプランもなかったんですよ、私、就職に関して。
東京には行こうと思ってたんですけれどね。
先生からも、どうするんだって言われてたんですけど、
あんまりイメージもできてなくて、
困ったなぁみたいな。
で、夏休みに学校で課題をやっていたら、
先生が教室に来て、
資生堂から連絡があり、今年1人入れるらしいよと。
で、受けるかって言われて、はい、受けますって。
それで推薦してもらえたっていう、そんな経緯で。
- ほぼ日
- それ、すごいんじゃないですか。
- スソ
- ラッキーだったんですよ。
夏休みに教室にいなかったら、
受けるチャンスもなかったんです。
すぐに試験があって、
最初は100人ぐらいいたのかな。
控え室で、おしゃれな東京の美大生を見て、
ほんとビビッて、こりゃダメだーみたいな。
でもまあ、なんか、受かったんですよ。
- ほぼ日
- 資生堂でのお仕事はどうでしたか?
- スソ
- 広告制作室に入ったんです。
グラフィックとしてはポスターとかチラシとか、
プレゼントグッズのデザインをしたり、
ディスプレイデザイン、パッケージなど、
いろんな仕事をやったんですけど、
でも、やってるうちに、
どうも私はダメだなーずれてるなーと。
でも、3年間はがんばったんですけど、
仕事で外のスタッフのカメラマンさんとかに、
「浮いてるよね」とか、
「君はここじゃないんじゃない?」とか、
「つらそうだね」とか。たびたび言われて。
外の人たちのほうが
楽しそうみたいな感じになってきて、
会社の人より外の人と付き合うほうが増えてきて、
だんだん、ま、辞めてもいいっか
みたいな感じになったんですよね。
- ほぼ日
- そこからどうして帽子の世界にいくんでしょう。
- スソ
- なんか手に職がないとみたいな。
カバンか、靴か、帽子かな、
って思ったんですね。
テキトーなんですよ。
- ほぼ日
- 服じゃなかったんですね。
- スソ
- 服は‥‥。
スタイリストさんとかとも仕事してたから、
服のセンスはないなって。
当時、伊藤佐智子さんのお仕事を生で拝見したり、
一流の方々が出入りしていたし、
花椿の編集室が隣にあって、
話を聞いてたりしてたので、
服じゃないな、って。
- ほぼ日
- カバン、靴、帽子の中から帽子になったのは。
- スソ
- カバンは耐久テストみたいなことが必要
って聞いて。
私にはそんなことできない。
で、靴は、左右対称に作れるか、
って考えていたら、無理だな、って。
それで、ほんとうに深く考えずに、
帽子にしようかなとかって言ってたんですよ。
そうしたら、平田暁夫さんのところに聞いてみれば?
って、間に入って下さった方がいて、
平田先生のお店でアルバイトしながら、
教室に通うことになったんです。
仕事は、スタイリストさんに
帽子の貸し出しをする担当だったんです。
当時、雑誌の黄金期だったんですよ。
女性誌が何十社もあって、売れてる時期。
バブルで、コマーシャルも多くて、
撮影用の貸し出しが多かった。
それに1日中追われる感じで、
ものすごく忙しかったんですよ。
教室で習う以外にも、
アトリエに行って、
オーダーの帽子をつくるのを見たり、
けっこうアトリエの人たちや
職人さんたちと仲良くなったんだけど、
どうもここにゆっくりしててはいかんと、
また思ってしまって。
お店も教室も1年で
あっさり辞めちゃったんですよ。
本当は学校は2年制でひと区切りなんですけど、
お店で働いて見ていたので、
2年目の授業はだいたいわかったつもりになって、
まあ、それは省略しようと。
- ほぼ日
- すぐ、帽子のお仕事があったんですか。
- スソ
- 資生堂の頃からやっていた、
小さい制作物でしたけど、
イラストの仕事が続いていて。
それがコマーシャルのイラストに発展していって、
キャラクターになったりして。
そのお金を帽子につぎ込むみたいな感じでしたね。
帽子は、しばらくはつくり溜めながら、
まだ自分でわからないところを解消してる時間でした。
- ほぼ日
- つくり溜めた帽子がデビューしたのは、その後ですか。
- スソ
- 91年に、南青山の、土器典美さんの
「Dee's(ディーズ)」っていう
輸入のキッチンアンティークのお店で、
奥にギャラリースペースがあって
「あたまのうえの彫刻」っていう
個展をやらせてもらったんです。
帽子をどこで売ったらいいんだろうって
あちこち探してた時に、
知り合いが土器さんのところに連れて行ってくれて、
いいよ、うちでやれば、みたいに言ってもらって。
今、場所は変わりましたけど
DEE'S HALLになっているところです。
- そうしたら、案外評判がよかったっていうか、
土器さんが、面白かったから次はもっと‥‥と。
1回目はちょっとオブジェっぽい帽子だったんですね。
だから、もっとふだんかぶれるものを作りなさいよって。
それで、93年にやったのが「100の帽子展」。
そうしたら、ほぼ売れたんですよ。
で、土器さんが押してくれたこともあって、
毎年ではなかったけど、
わりと、自由に楽しく作って売ります
みたいな感じになったんですよね。
イラストも完全になくなるっていうわけではなく、
イラストも帽子も、両方何となく
やっていけたらいいかなっていう。
- ほぼ日
- そのままずっと今にいたる感じですか。
- スソ
- そうですね。2、3年に1回帽子の展示をして、
帽子を作ったり売ったりしてるのがずっと続いてる。
- ほぼ日
- ほぼ日とのおつきあいは、最初はイラストで。
- スソ
- そうなんですよ。糸井さんが、なんか、サイトを作る。
そこに10個ぐらいコンテンツがあるといいなっていう、
そのなかの1つが土器さんの子育てと、
私の「スソさんの世界」っていう、
キャラクターを紹介するページを作って下さって、
そこで好きにやっていいよ、って。
それが、ほぼ日刊イトイ新聞だったんですよね。
- ほぼ日
- その後、帽子や
「スソアキコのひとり古墳部」もできて。
- ほぼ日
- そして、「生活のたのしみ展」ですね。
それが、今回のベレーにつながってます。
ところで、スソさんは、
もともとアートでアバンギャルドな、
一点ものをつくっていたんですよね。
- スソ
- そうですね、
毎回、世の中にない新しい形を作らねばみたいな、
自分の中で使命を持っていた感じで。
頭に乗るものであれば帽子なんだから、
それ以外は自由じゃないですか。
その自由な気持ちを作品にしたいときがあって、
それが暴走すると、砂丘とか殻とか、
デンジャラスな、ああいう帽子になるんです。
でも、今回のベレーのようなものは、
みんながかぶったときに
すてきになる帽子をめざしてます。
っていうか、
じつは型紙づくりがたのしいんです。
日本人のあたまのかたちにあう
みんなに似合うベレー帽。
- スソ
- 立体的に型紙をつくっていくんですけど、
平面的な型紙をつくるのと違って、
まず、立体のかたちから、直しながら、変化させて
完成させていくんですね。
いったんできたベレーのかたちがあって、
そこから、足したり引いたり。
お洋服のつくり方もそうなのかもしれないけど、
プーペっていう木のあたま、土台みたいなものがあって、
プーペに布をつけてみていると、
どんどんいろいろなかたちが次々できていくんですよ。
実際それをかぶってみると、
全然よくなかったりするときもありますが、
だけど、前よりもうまくできたなって思うときは
次はこれにしようって、どんどん型紙が増えていく。
今回のベレー帽は、何回かの修正を経て、
できあがったかたちです。
- スソ
- チャームポイントは、
ちょっとボリューム感があるところ。
よくあるふつうの、円盤みたいなベレー帽は、
ペタっとしていて、
あんまり奥行きのあるかたちではないんですよね。
あれは、アングロサクソンの人たちに合うんですよ。
アングロサクソンの人たちは、あたまのかたちが、
上から見ると、楕円なんです。
日本人は、あたまのかたちが丸に近い。
いまの若い人たちは西洋化してきていて
楕円に近づいているんですけど、
世代が上にいくほど、円に近いんです。
だから、西洋のぺたんこのベレーが似合う人は、
日本では少し限られているんです。
日本人に似合うのは、ボリューム感があるもの。
そのほうが、バランスがよくなるんです。
- スソ
- このベレーは、
そこがわりとうまくいっていると思います。
なので、ベレーが似合わないと
キメつけているかたにも
かぶってみてください、きっと似合いますよ、
と言ってます。
- ほぼ日
- 帽子って、とってつけたようになったり、
頭が大きく見えたりすることもあるけど、
この帽子は顔がしゅっと見えますよね。
- スソ
- ほんとに微妙なことなんですよね。
立体って、微妙なんです。
このベレーのかくれた秘密は、
あたまの周囲になる部分の幅が同じではなくて、
浅いところと、深くなるところで
2センチほどの差があるんです。
だから、ゴムのついてるところを目安にして、
すこしずつ回転させてかぶってみると、
バランスよく見えるところが、
見つかるはずなんです。
髪型によっても、かぶりかたを変えられますし。
気分によって正面にくる位置をずらして、
ニュアンスを変えてたのしんでほしいです。
- スソ
- それから、普通の帽子より、
ちょっと大き目なんですよ。
それでゴムも入っていますから、
男性とか、あたまが大きめで
帽子を敬遠していたかたにも、
ぜひ、かぶってみてほしいですね。
逆にあたまが小さいかたは、
ゴムのついてる部分の脇のところを
少しつまんで縫いとめると、小さくなって
いい具合にフィットすると思います。
スソさんのベレー帽は、
PROOF OF GUILDの真鍮のアクセサリーと
いっしょに
3月1日(金)午前11時から販売します。
スソさんとPROOF OF GUILDがコラボした
新作の「どぐうピン」や
ほぼ日がオーダーして
PROOF OF GUILDにつくってもらった
ヘアアクセサリーをおたのしみに!